男はつらいよ 葛飾立志篇
★★★

松竹/90分/1975年(昭50)12月27日公開  <第16作>    
原作    山田洋次    脚本    山田洋次 朝間義隆    監督    山田洋次
撮影    高羽哲夫    音楽    山本直純    美術    出川三男  佐藤公信
共演-倍賞千恵子・下條正巳・三崎千恵子・前田吟・太宰久雄・笠智衆
ゲスト-樫山文枝・桜田淳子・米倉斉加年・大滝秀治・小林桂樹


併映『正義だ!味方だ!全員集合!!』監督:瀬川昌治 出演:ザ・ドリフターズ
動員数213万1千人/ロケ地・山形
 

★「男はつらいよ」シリーズ第16作目。

美術クレジットがそれまでの佐藤公信に出川三男が加わって連名となっている。
以降美術は出川三男のみなのでこの仕事の途中で変更となったようだ。

今回の西部劇風にアレンジされた夢のシーンには前回と同じ上條恒彦と米倉斉加年が登場している。店内の踊り子や客は統一劇場の劇団員だろう。

冒頭とらやに修学旅行途中の桜田淳子が訪ねてくる。当時桜田は17歳。寅を父親だと思い込み「お父さんなの?」と呟き大慌てのとらやの人々。結局誤解だとわかるのだか改めて桜田を見るととても良い演技をしている。いわゆる芝居心が有る。後年、統一教会に入信して芸能界を引退したが、女優として大成したであろう才能の持ち主だったはずなのに非常に残念だ。「統一」はどうも好きになれない。

その後いつもの通り喧嘩となり寅は出て行ってマドンナの登場となる。

今回は樫山文枝。当時34歳。父親は早稲田大学教授でヘーゲルの研究者として著名だった人物で伯父はオンワード樫山の創業者。テレビドラマ「おはなはん」で人気を博したがそれまでのマドンナと比べると失礼ながら今ひとつ華がない。役柄は考古学の助教授。実際の樫山の生まれ育ちを反映したのだろうか。ちなみに樫山は劇団民藝に所属しており、この回に出ている米倉斉加年、大滝秀治も劇団民藝所属の俳優だ。今で言うバーター契約と言うか同じ事務所の役者が大挙して出ている。

桜田の母親の墓参りをして大滝演ずる和尚が言う「朝(あした)に道を聞かば夕べに死すとも可なり」の論語に感化される寅。夕景歩く寅が桜田と出会う期待感があるが出会いはならず柴又へ戻ってくる。そして喫茶店で樫山と出会うわけだがここのやりとりが面白い。隣で本を読んでいる樫山に「・・・その本面白いかい」と声を掛ける。「・・・この近所の店員さん?」「いえ、あの勤めなんです」「あっ、工場か・・残業なんかもあるんだろ」。フーテンである寅と大学助教授の身分である樫山との落差が笑いを誘う。

その後樫山に恋する小林桂樹演ずる教授が登場、タバコをふかし続けるシーンは今の時代ならご法度だろう。小林は樫山に恋文を渡し告白するが断られる。寅も一緒に失恋して道中二人の旅で「終」となる。

個人的にはラストにもう一度桜田を登場させて欲しかった。この回は桜田の役や米倉の警官とか物語には直接絡まない枝葉の部分が多く散漫な印象を受けた。

どうでも良い話だがこの回は卓上に置かれてあるソースが目立つ。ブルドックの中濃ソースのようだ。さくらの部屋の電話の横とか、とらやの客用テーブルの上とか頻繁に目に入ってくる。タコ社長などはソースを手に取って味見までしている。だんご屋にソースは必要なのだろうか? 昔の小津映画の卓上にはウイスキーや日本酒が必ずラベルが分かるように置かれてあった。メーカーは小津宅に無償で酒やウイスキーを届けていたそうだ。このブルドックソースも似たような裏話があるのかもしれない。