　冬の木枯らしが吹く頃、突然、工事が始まった　　高いフェンスで覆われた区画の一部が開き、トラックや重機がやって来た　　一面の小高い丘から土を運び出すためのトラックの進入路が穿たれ、いつの間にか小高いところでキャタピラーが動き出していた

　何十年も変わらずに、フェンスに囲まれていた場所がどう変わるのか　それからというもの、散歩のコースを少し変え、どうなっていくのか様子を眺める日が増えた

　「結構な広さがあるから、平らにならして、宅地分譲するのかなあ」　「いや、高さがあるから低くして、土が流れるのを防ぐためじゃないかな」　夫と二人して、工事の様子からあれこれ想像してみる

　向こうに立ち並ぶ家々の二階の屋根まであった高さは、次第に低くなり、二階の窓が見えだした　　このまま、土を取り去ってしまうのだろう　と、確信にも似た気持ちが芽生えたある日、重機は消え、トラックの進入路も塞がれ、フェンスは元通りに閉じられてしまった　　残った景色は、前よりはかなり低くなった台形の土地だった

　雨が降っても、土が崩れてくることをあまり気にしなくてよくなったが、重機が入った時のワクワクした高揚感は、静かにおさまっていった

　『日々憶測』（ヨシタケ　シンスケ）で描かれる憶測は、見たことのある景色から、ヨシタケさんならではの何歩か進んだ（）憶測もある。

　「ある　ある」と笑える憶測も、「どうしてこんな」と、の重なった憶測まで・・・笑いも哀しさも含めた作者の人生の年輪を重ねた内容に、読み手の表情も変化に富んだものになっていくのだろう

　「十年に一度の最強寒波」が押し寄せた早朝、一面の銀世界の中へ一歩を踏み出した　　バッグをリュックに替えて歩き出す

　凍結したこの雪の塊は、なんで盛り上がっているのだろうか　考えれば楽しいのかもしれないが、まずは、足をとられて転ばないこと　　いろんな憶測は後回しの一日だった

日々の憶測