月刊誌『NHKラジオ深夜便』2022年5月号のP.20~P.27より、幾度かに分けて一部ずつ転載します。

 

 転載・引用元はインタビュー記事であり、インタビュイー(インタビューを受けた人、話し手側)は和菓子職人の水上 力みずかみ ちからさん。

 昭和23(1948)年生まれの、今年令和6(2024)年で御歳76歳となられ、変わらず現役として第一線で活躍されています。

 また一職人というだけでなく、東京は文京区小石川、東京メトロ丸の内線茗荷谷駅の近辺に、和菓子店『一幸庵いっこうあん』を構える店主でもあります。

 

 話の内容が少々印象に残ったもので、今回の題材として取り上げてみました。

 以下は水上さんの語られた内容です。

 

 

 

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 季節ごとに作る御菓子は変わります。和菓子は季節感が命。

 例えば桜の季節なら桜の御菓子を作ります。

 桜を表す形は無限にあり、御菓子の名前も数多くあります。

 その中から職人の感性に合うものを作って行く訳です。

 

 今、私たちの暮らしの中で、季節の行事がだんだんとなくなってしまっていますよね。

 

(中略)

 

 お正月やお彼岸などは今でもありますけど、十五夜なんてだんだん薄れて来ています。

 スマホは見ても、お月さんは見ない、そんな感覚になって来ていますよね。

 

 だからウチの店では「月見団子」の他に、十三夜には「栗おこわ」、十日夜とおかんやには「黒豆おこわ」などを並べて、月を楽しむ事を提案しています。

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 やはりあんこが基本ですね。

 職人が百人いれば、あんこの色は百通り。“小豆色”という色は、職人によって違います。

 これが俺の小豆色だというものを作り出せれば、仕事の楽しみ、面白味を感じられます。

 

 あんこは粒餡か漉し餡かによっても材料が異なります。

 大納言小豆は粒餡用で、漉し餡こしあんには普通小豆を使います。

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 数年前に外務省の「日本ブランド発信事業」の一つとして海外に派遣され、製菓学校や大使館で講習をしました。

 和菓子を食べた事も見た事もない人がほとんどで、卵を除いて動物性の材料を使わない事が珍しいようで、とても興味を示してくれました。

 練り切りねりきり(※)を持って行って、桜を作ってあげたりすると、和菓子ってこんなに素晴らしい物なんだ!と、皆集まって来ますよ。

 

 外国の方に和菓子を説明する時は、「和菓子は侍」と例えています。

 御菓子は「御茶請け」と言います。

 御茶を請け負う、つまり御茶の味を保証する訳ですから、御茶を美味しく引き立てるという事。

 

 つまり御茶を殿様とすれば、和菓子は侍。殿様の為に命を捨てる献身的な存在。

 

 御菓子を食べて口の中に甘さが残る。その後に御茶を飲むと美味しさが際立つ。

 でも口の中にはもう御菓子はいない。だから材料に御茶は使わない。

 御茶を使えば殿様を殺してしまうかも知れないし、また香料を使えば殿様を隠してしまうかも知れない。

 

 こんな風に説明すると、とても興味を持ってくれます。

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(※)練り切り・・・・・蒸したつくね芋を裏漉しし、加糖をして練り、白の漉し餡を混ぜた物。

 

 

 

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(前略)

 

 東京と京都では、御菓子も違います。

 京菓子というのは“見立て”、江戸菓子は“写し”。

 江戸菓子では桜や紅葉を写すので具体的な形になりますが、京菓子では抽象的な形になります。

 

 江戸は将軍や侍の文化ですから、白黒ハッキリ付ける。誰が見ても分かる形に。

 京都は公家の文化でしたから、直截的ちょくせつてきな表現は避け、抽象的な形に。

 そんな違いを勉強させてもらいました。

 

(後略)

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(前略)

 

 結局の所、あんこが美味しくなければいけないという所に帰って来ます。

 あんこの美味しさは世界に通用します。

 和菓子を取り巻く現状は、洋菓子に押されていますが、真の小豆で作ったあんこを食べてもらえば、和菓子の美味しさを再認識してもらえます。

 

 伝統を守りつつも、洋菓子と喧嘩しようじゃないか!俺はチョコレートには負けないぞ!という気持ちで、和菓子の可能性を示して行きたいと思っています。

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 以上です。「和菓子は侍、御茶は殿様」だなんて概念は初めてだったので、斬新さを感じました。

 筆者は今まで和菓子の方が「主」で、御茶の方こそ「従」だと思っていたのですが、どうやら思い違いをしていたみたいですな・・・・

 またそれの他にも、「江戸菓子は“写し(具体的)”、京菓子は“見立て(抽象的)”」という概念も初めて聞いた事なので、これも印象に残りました。

 

 ただその・・・・前出の『御茶は殿様、和菓子は侍』の件ですが、個人的には今一つ掴み損ねた感じだったので別の所から、言い回しこそ些か異なれど、水上さんが同じ趣旨の事を言ってた箇所を探し出し、下記の通り拾ってみました。

 

 

引用元ページ

 

 

👆より一部抜粋。

 

 

 

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(前略)

 

 日本のお菓子はお茶との関係もあります。

 お茶うけの「請け」はお茶の味を請け負うということ。

 だから、お菓子にはお茶をおいしくする義務があるんだ。

 

 お菓子を食べて口に甘さの余韻が残っているところにお茶を飲む。

「お茶がおいしい」と思うそのとき、お菓子の甘さは口に残っていない。お茶のおいしさだけが残っている。

 

 つまり、お茶と和菓子は主従関係にあります。殿様がお茶。家来がお菓子。

 殿様が輝く瞬間、そこに侍はいないのと同じで、お茶がおいしい瞬間に和菓子はそこにいない。『葉隠』の哲学ですよ。

「お茶おいしかったな」と言われれば、和菓子はそれでいいわけです。

 

(後略)

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 うん・・・こちらの方が前出のよりも、言わんとしてる事が解り易いですな。

 

 

 

 最後にインタビュイーの水上さんの御店『一幸庵』の情報を、下記の通りに掲載します。

 

 

 

 

 

❖🌸一幸庵🌼❖

所在地:東京都文京区小石川5-3-15

営業時間:AM10:00~PM4:00

定休日:日・月・火(その他不定休あり)