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◆白文◇
興一利不若除一害。生一事不若減一事。
◆読み下し◇
一利を興すは一害を除くに若しかず。一事を生ふやすは一事を減らすに若かず。
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上記の格言は、支那史上の政治家・耶律楚材やりつそざいの遺した名言です。耶律が姓で、楚材が名です。
ただ支那史上の人物とは言っても、民族の出自は中原の漢人ではなく、北アジアの遊牧民族である契丹人きったんじんです。
耶律楚材は13世紀のモンゴル帝国の宰相を務め、初代のチンギス・ハーン(元太祖げんたいそ)と、その三男で二代目のオゴデイ・ハーン(元太宗げんたいそう)の二代に亘って仕えました。
ちなみに上記の「不若減一事(一事を減らすに若かず)」の箇所は、別には「不如省一事(一事を省くに如かず)」とも言うそうです。どちらにしたって意味は同じですが。
この格言の意味は、
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何か利益となりそうな事を始めるよりも、障害となっている要因を取り除いた方がより有益である。
何か新奇な物事を増やすよりも、無駄な物事を減らす方がより有益である。
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この格言が当て嵌まる具体例を他に挙げれば・・・・・
♈ 暴飲暴食を始め、あらゆる不摂生な生活を送った結果、すっかり不健康な体になってしまった。
だからと言って、薬やらサプリメントやらを摂取して健康を取り戻そうとするよりも、不摂生な暮らしを改めた方がずっと効果的である。
♉ 企業で売上が減少している事を気に病んで、次々新規事業を打ち立てるよりも、その売上低下の原因を取り除いた方が良い。
それを解決しないまま手を拡げても、結局最終的には上手く行かない。
♊ 何かのスポーツ競技の選手が、今抱えてる弱点を克服しようとしないまま、何か新しい技を覚えようとするよりも、その弱点を克服した方がより全体的な能力向上に貢献する。
♋ 政治でもやれ「改革だ!改革だ!」と連呼する者がいる。
鳴物入りで人目を惹きそうな政策を始めるよりも、地味ではあるが、積み重なった問題点や欠陥を是正して、安定を図る方が望ましい。
♌ PCだと容量や基本性能が低いのに、あらゆる機能やアプリケーションソフトを盛り込もうとしても、遂には処理能力が追い付かなくなる。
そうする前にまず、基本的な要素を強化する事を優先すべき。
♍ 家が古くなった為に破損・劣化した箇所が生じて、日常的に不便を感じるようになった。
それならば家の中を高価な家具や調度品で満たして内装を豪華にしたり、便利そうな最先端の機器類を購入するよりも、そういった不具合箇所を修繕した方がより有益である。
♎ レストランや商店で、料理が美味しくなかったり、売ってる商品に魅力がないせいで、客足が遠退いている。
客入りを良くさせたいのなら、色々と小手先の新しいサービスを始めて御茶を濁すよりも、料理自体をレヴェルアップさせたり、買ってくれそうな商品を揃えるべき。
♏ ある集団の中で、全体の和や秩序を酷く乱して、集団内の空気を悪化させている構成員がいる。
他の皆がずっと我慢し続けたり、無理して取り繕って、その者と一緒に色んな行事をして、上辺だけ楽しむよりも、その者にハッキリと伝えて姿勢を改めてもらうか、それが叶わないなら集団内から追放する。
♐ 期限内に果たすべき仕事が残っている内は、例え自分の好きな事で遊んでいても、それが気になってて心底楽しめないし、心はモヤモヤしていてどうにもスッキリしない。
だったら仕事を全てやり終えた方が、例え遊ばなくとも心はずっと晴れ晴れとしている。
・・・・・とまあ、思い付く限りの例は以上ですかね。
こういう行き方は一見地味で面白味がないように感じるかも知れませんが、結構重要だと思いますよ。
皆さんはどんな例が思い浮かぶでしょうか?