近年になってからの傾向だろうか?
いつ頃からだかは知らないが、スパゲッティの事をきちんと「スパゲッティ」とは呼ばなくなり、すっかり「パスタ」とばかり呼ぶようになったのは、どうにもおかしな傾向だと思う。
何故わざわざそんなぼかした、曖昧な呼び方をするようになったのか、理解に苦しむ。



今ではどのレストランのメニューを見ても、スパゲッティなのに敢えて「パスタ」と書かれ、はっきりと「スパゲッティ」と書かれている事がほとんどなくなった。
世のいわゆる「パスタ専門店」を謳う店へ行っても、メニューに掲載されているのはほとんどスパゲッティばかり。

その中にスパゲッティ以外の種類のパスタとして、せいぜいフェトチーネ、ペンネ、ニョッキ、リゾット、ラザニア辺りがちょっとだけ混じってる位である。
そんな実質スパゲッティ一辺倒のラインナップで、よくもまあ「パスタ専門店」を名乗れるものである。



スパゲッティのメニューには「スパゲッティ」とは表記されず「パスタ」とだけ表記される。
なのにスパゲッティ以外の種類のパスタだと、ハッキリと「フェトチーネ」「ペンネ」「ニョッキ」「リゾット」と種類の名称を表記されているのは、普通に考えておかしな話だろう。

わざわざそんな区別を設けるようではまるで、「パスタはスパゲッティしかない」と言わんばかり、あるいは「スパゲッティ」と「スパゲッティ以外」に二分されてるかのような印象を受ける。




これは日本の麺料理に置き換えて言えば、「麺料理専門店」を謳っておきながら、その店で実際に出しているのは全て蕎麦ばかりだったとしたらどうか?
それだったらハナから「麺料理専門店」などと名乗るのではなく、正直に「蕎麦屋」と言えば良いだけの話である。

一般的な素朴な感覚から言って、「麺料理専門店」などと聞いたら、てっきり麺料理なら何でも、つまり蕎麦だけでなく、うどん、ラーメン、焼きそば、そうめん、冷やし中華なんかも出て来ると思うのではないのか?
なのに蕎麦しか取り扱ってなかったとしたら、

「なんだよ・・・これじゃただの蕎麦屋じゃねえか・・・何が麺料理専門店だよ!だったらハナから正直に蕎麦屋だと名乗れ!」

と言いたくなるのではないか。「パスタ専門店」だってそれと同じ事である。



パスタとは何もスパゲッティ一種類しかない訳ではない。
パスタは大別して主にスパゲッティやリングイネを始めとした「ロングパスタ」と、主にマカロニやペンネを始めとした「ショートパスタ」に分かれるが、筆者はどちらかと言うとショートパスタの方が好きである。

ロングパスタよりもショートパスタの方が種類も豊富なようだし、ショートパスタは様々な形状の物があって、味だけでなく見ていて楽しい。
これまでに色んな種類のパスタ料理を味わって来たが、どちらかと言うとショートパスタの方が多かった。




世の風潮は「パスタ」と「スパゲッティ」が「=(イコール)」とまでは行かなくとも、少なくとも「≒(ニアリーイコール)」という位置付けをしているかのようである。
ちなみに「≒」とは、「=(完全に同等)」とまでは行かないが、「ほとんど等しい」という意味になる。
もうこういう馬鹿げた認識は捨てたらどうなのかと思う。

数学記号を更に使うなら、「スパゲッティ=パスタ(スパゲッティとパスタは同等)」ではなく、「スパゲッティ∈パスタ(スパゲッティはパスタの一要素)」である。
パスタの本場のイタリア人が聞いたら、さぞ怪訝に思うであろう。
「何でスパゲッティだけをパスタと呼んでるんだ?」と。



いやしくも専門店を名乗るからには、ロング・ショートを問わず、あらゆる種類のパスタ料理を提供してもらいたく思う。
ここで言う「あらゆる種類のパスタ料理」とは、ソースや具材や味付けの違い以上に、あらゆる形状の種類のパスタを、という意味である。

ただ、イタリアのパスタの形状の種類は、全部で500種類以上もあると言われているので、それら全部を網羅するのはさすがに不可能だろう。
だからせめて代表的な物だけでも一通り揃えてもらいたいと望むものである。


まずはスパゲッティと同じロングパスタにしても、長い麺状の物だとリングイネ、キタッラ、カッペリーニ、ブカティーニ、タリオリーニ、ビーゴリ等々。

きし麺みたいな幅広い物だと、フェトチーネ、タリアテッレ、パッパルデッレ、ピッツォッケリ等々。

独特な形状で、細長いけどギザギザになってるマファルディーネ、トリポリーネ等々。

そしてここからはショートパスタだが、以下に挙げるような、様々なユニークな形状の物がたくさんある。

 

 

❖ 管・円筒型・・・・・マッケローネ(マカロニ)、ペンネ、リガトーニ、エリコイダーリ、パッケリ、ガルガネッリ等

❖ 芋虫型・・・・・ニョッキ、ルマーケ等

 

❖ 蝶型・・・・・ファルファッレ

 

❖ 貝殻型・・・・・コンキリエ

 

❖ 螺旋・バネ型・・・・・フジッリ

 

❖ 車輪型・・・・・ルオーテ

 

❖ 耳たぶ型・・・・・オレキエッテ

 

❖ 断面がS字型・・・・・カサレッチェ、ジェメッリ等

 

❖ 平べったい三角・菱型・・・・・マルタリアーティ、ストラッチ等

 

❖ 平べったい円型・・・・・コルツェッティ(スタンプで紋章や図柄が表面に刻印されている)

 

❖ トンガリ帽子型・・・・・ヴェスヴィオ


その他には、餃子みたいに中に挽き肉の詰め物をして、それをパスタ生地で包んだラヴィオリ、トルテリーニ、アニョロッティ等々。
また小麦粉が材料ではなく、米を使った料理である、粥みたいなリゾットも、パスタ料理の一種である。

ざっと挙げただけでもこれだけの種類があり、筆者はこれまでに、以上に挙げた物のほとんどを食した事がある。
これらは「パスタ専門店」ではあり付けず、一定以上のグレードの本格的な店へ行かないと出て来ない。




繰り返すが、いやしくも「パスタ専門店」を謳うのならば、これらの豊富な種類の物を提供したらどうなのかと、昔から思っていた。
スパゲッティ一種類だけを、色んなソースや具材で味付けして御茶を濁しているようでは、どれだけメニューが豊富だろうと、それは「パスタ専門店」ではなく、「スパゲッティ専門店」にしかなるまい。

メニューがスパゲッティしかないくせに、おこがましくも「パスタ専門店」を名乗るなど、まさしく「看板に偽りあり」と言われても仕方あるまい。
そんなのは筆者に言わせれば詐欺もいい所である。
だったらハナから正直に「スパゲッティ専門店」と名乗れば良いだけである。



その他にもその手の自称パスタ専門店の気に入らない点は、スパゲッティの味付けやソースや具材が、我が国オリジナルの創作物がほとんどであり、本場イタリアのを忠実に再現した代物がどちらかと言うと少ない事だ。
そういうのは本格的なトラットリアとか、リストランテにでも行かなければ御目に掛かれない。

すなわち「たらこスパ」だの、「明太子スパ」だの、「納豆スパ」だの、「ナポリタン」だの、その他諸々の事である。
正直言って筆者は、その手の和風創作のスパゲッティが好きではない。

別に好きではないからってその存在意義を否定はしないし、好きな者は好きなだけ食えば良いと思う。
だが個人的な願望を言えば、そういうのはあくまでも「和風スパゲッティ専門店」という括りでやって欲しいなと思う。
同一の店内で本場イタリア式のパスタ料理と一緒に出されると、何だか雰囲気ブチ壊しな気分にさせらるので。




それにしても店の側だけでなく一般人も、単なるスパゲッティをパスタ、パスタとカテゴリーの名前で呼んでいる事に、何の違和感も疑問も抱かないのだろうか?
これが蕎麦、うどん、ラーメンとかだったら、「麺」だの「麺類」だのと括りで呼ばず、ちゃんとそれぞれの種類の名前で呼んでいるだろうに。

すなわち蕎麦なら蕎麦、うどんならうどん、ラーメンならラーメンだと、ちゃんと呼んでいるだろう。

なのにスパゲッティになるとパスタと呼ぶのはどういう事なのか?
それを疑いもせず、唯々諾々と受け入れてしまっているのは、思考停止も甚だしい。



筆者個人の希望としては、巷間に溢れる自称パスタ専門店、なんちゃってパスタ専門店とは一線を画す、本当の意味でのパスタ料理専門店の出現を願う。
すなわち提供されるパスタの種類のみならず、ソース、具材、味付け等も本場そのもののパスタ料理を、豊富にメニューに取り揃えている店の出現を、である。
和風創作パスタ(スパゲッティ)など一切出さない、本格派の真正パスタ専門店を、である。
既に誰かが始めていても不思議ではなさそうなのに、何故一向に出現しないのであろうか?