区切りとばかりに、ぎゅーっと俺を一度強く抱きしめる。
俺は唇を離す相葉くんに従う。
体温の名残が消えるのが寂しくて、往生際悪く絡めた指先を離せないでいた。
そんな俺を見つめる相葉くんに視線を返すことができなくて、うつむき加減になる。が、そのまま、半ば強がって、指をほどく。
何気なく距離をとって、なんともなさを装う。
その手段として選んだのは、おそらく俺らしい自然な行動として、新聞を開くこと。顔も隠せるし、文字を読んでいるのだという体で黙っていても不自然では無いから。
こんな時、相葉くんがどんな顔をしているのか・・・。
なぜか怖くて見ることができない。
なんとも思ってないのかもしれない。
すこしは寂しく思ってくれてたらいい。
・・・いや、むしろ俺の情けなさに失望しているかもしれない。
もしそんな表情を見てしまったら、俺はもう二度と彼に触れることなんかできやしないだろう。
だから、あえて、視界の外へ。
ふたりきりの無言。
話題は何でもあるし、なにもない。
今、ここで話すことはいくらでもあるが、今である必要もない。
話題探しに迷った段階でもう俺としては、詰み。
意味のある言葉だけである必要もないのに、一度黙ったら、わざわざ沈黙を破るほどの理由がいる。
・・・相葉くん相手だと、いつもこうだ。
マジで、俺、めんどくせぇわ。
紙面に目を滑らせて、文字の一つも拾わずに時間をやり過ごす。
相葉くんも無言でスマホを操作して、小さく『そうだなぁ』とか『んー・・・』とか、独り言を呟いている。
こんなとき、何を言ったらいいのか、言わなくていいのか、情けない事に、俺はまったくわからない。この無言を相葉くんは気まずいのか、もしくは心地よく感じているのか、そんなことも。こと相葉くんに関して、俺はなぜこうも不安になるのかと、自分で自分が嫌になる。
結局、不安に耐えられなくなった俺が、当たり障りのないことを聞いて、沈黙を破るのだ。
「・・・連絡、ニノ?」
「ん。楽屋戻るって。リーダーと。」
「そっか」
そしてまた。
まるで観葉植物の呼吸さえも聞こえるのではないかというほどの、静寂。
ここが楽屋だということを忘れるほどの、緊張感。
身体を緩めたくて深く呼吸をしてみたはいいが、まるで苛立っているかのように吐きだす息が思いのほか強くなって焦る自分がおかしくて、そんなことにビビる自分が情けなくて、ついに笑い出してしまった。
「・・っふ、ふふ・・・あははは」
相葉くんが薄く笑って、笑う俺を見てる。
それは、どういう感情なの?
・・・そう聞ければいいのに。
「はぁーあ。・・・はぁ」
自分で笑いやめて、何も言わない相葉くんの様子に、急に泣きたいような気持になった。
その刹那。
「ねぇ、しょーちゃん。オレの気持ち、どうしたら信じてくれるの」
思いのほか、しっかりと意思を持った相葉くんからの問い。
「相葉くんの・・・きもち?」
「そう。こんなに、愛してるのに」
突然の愛の告白。
「あ、あい・・・うん、、あ、り、が、とう」
こういう時にスマートに返すことができない。
相葉くんに向かう俺は、完全に丸腰。
ぎこちなく返した言葉に、思案顔。
そして。
「・・・そっか、これじゃ伝わらないってことが」
「え?」
「ううん、わかったよ、そうだよね」
「わかったって、なにがわかっ・・・」
「ごめんしょーちゃん、ちゃんとしょーちゃんにわかってもらえるようにするね」
相葉くんは半ば強引に話題を終わらせる。
同時に、まるで立ち聞きしていたのかと思わせるほどのベストタイミングで、智くんとニノがドアを開けた。