相葉くんの帰りを待ちながら、言われた通り風呂に入り、軽く飲みながら取材先の資料に目を通す。
一段落したところで、テレビをつければニノのバラエティが部屋を明るく彩った。
「・・・モンスター健在だな」
細身のパンツにオーバーサイズの萌え袖トップス。
そんなスタイルがよく似合ってる。
相変わらず可愛いヤツだ。
番組が終わったタイミングで、水割りを作り直すためにキッチンへ。
・・・ふと、こないだの電話がよみがえる。
『・・・んっ、さと・・・ぁ、ん』
『カズ、今日、感度いいな』
「あー、くそ、思い出しちまった・・・」
あれ以来、思考の隙間に入ってくる、ヨコシマな想像。
ニノと智くんの情事・・・の。
実際に目の当たりにしたなら、それが限界。
それ以上の事実はないのだが、電話越しに聞こえる声と衣擦れ。
あまつさえ、水音までもを拾ってくれて、高感度なスマホに感謝すべきか恨むべきか。
見えない分だけ余計な想像力が大暴走。
すぐに電話を切ってしまえばよかったんだ。
と、あれから何度となく、後悔とは言わないまでも、ちょっとした罪悪感。
そして、どうしようもなく昏い情欲と、真逆の羨望。
正直、いいな、とおもう。
智くんとニノ。
二人のことを。
ニノが可愛いヤツだというのは、まぁ、わかっていたこと。
だが、智くんとああいう時間を過ごしているときの、あの、様子。
そしてそれ以来、意識してしまったが最後・・・。
あれは、なんなんだ。
狙ってない、何とも言えない色香。
気づいてしまったというか、突きつけられたというか。
『ニノなら抱ける』とまではさすがにいかないが、智くんが可愛がって離さないのも理解できてしまう。智くんは智くんで、いい意味で強情な男だ。決めたことはトコトン。守ると決めたなら何がなんでも守り抜く。それは力のある無しではなく、関係を大切にしようという愛情の表れだ。
そうして、お互い、に繋がりあっている。
じゃあ、俺は?
俺と相葉くんは?
相葉くんもいつまでも飽きずに俺を『可愛い可愛い』というが、どうも、どうにも、腑に落ちない。その腑に落ちなさが、相葉くんにとっては気に入らないらしい、と、察したのは、先日の謎の物言いでわかったこと。
『しょーちゃんにちゃんとわかってもらえるようにするね』
と。
わかってもらえるようにする、とは・・・。
こんなときには何の想像力も働かない。
相変わらず対相葉くんにはポンコツな俺だ。
自分でも不思議なほど、彼を想うと心がざわめく。
仕事や対人関係ではほとんど悩むことはない。
あらゆるパターンを考え、想像し尽くし準備をすれば、実際の場面で慌てることはほとんどない。想定外な事があったとしても、尊重と誠実さを持って応じれば、およそ失礼は無い。
しかし、相葉くんのことに関しては「悩む」のだ。
彼は俺の想像の外側にいる。
まさにミラクル。
いつも想定外でドキドキさせられっぱなし。
どうにか余裕を見せたくても全然うまくいかない。
結局相葉くんのペースに任せるのが一番心地よく幸せになれる、と、いつのまにか覚えてしまった・・・それは、心身ともに。
だから、相葉くんを信じていないのではない。
ただ、相葉くんが俺に何を求めてくれているのか。
俺がサッパリわからない。
俺は俺で、自分が彼を好きならそれだけで、側にいられるだけでいい。求めるものは無い、あえていうなら、俺の前で、彼が彼らしくあってほしい、それだけだ。彼の存在とともに過ごす時間は癒しであり、満たされる。
そんな相葉くんに、俺は、なにかしてあげられているのだろうか。
こうして、悩む日々、なのだ。