うん、って。



やっとだなって。


やっと、落ち着いて聞けて。




こうして背中にぴったりくっついているのも気持ちがいいけど。

でも、俺にも考えはあって。






「なぁ、そろそろ、メシ食わね?」






相葉くんは後ろから抱いていた俺の手をきゅっと握ってから名残惜しそうに俺の手の甲や掌、指を握りしめたり撫でたりしながらゆっくりほどいて。


それから、何飲みますか?って。





キッチンで酒の用意をしてくれていて、俺は智くんが持たせてくれたテイクアウトの料理を用意する。・・・って言っても、プラ容器のままテーブルに並べるだけだが。




ふいに思う。



「・・・前に智くんが相葉くんのこと『肉食』って言ってたけど、こういうことなのか」



話しかけるともなくつぶやくと、それを拾って。



「それは・・・ちょっと違います。」


「こんな攻め攻めできといて?」


「攻めるかどうかってことじゃなくて・・・。」


「じゃなくて、なに」


「んー・・・怖がらないでくださいよ?」


「いまさらだわ」


「・・・たぶん、おーちゃんが言ってたのは、櫻井さんにだけしてた、執着・・・と、いうか。」



「しゅう、ちゃく・・・・はは!こっわ!」


「ほらだからぁ」


「あははは」







酒が進む智くんの美味いメシでやっと普段の会話になってきた。


そんなところへ。





「あの、櫻井さん」


「ん?なに、今更あらたまって」



相葉くんが急に居住まいを正して。

ローテーブルを前に正座をする。





「さっきは、急にすみませんでした・・・次は、ちゃんと、許可取ります。」


「きょ!?ッん!!!・・・っぶね!」




吹き出しそうになって、ギリ回避したのに、相葉くんに背中をさすられて余計に意識したもんだから、ヘンなところにはいって、結局むせた。




「大丈夫ですか?重ね重ねスミマセン」


「まぁ、うん、あんま急に仕掛けられると、俺もまぁ・・・うん」


「・・・オレ、これまでちゃんと誰かと向き合ってきたこと、なくて。」


「向き合うって・・・恋人、ってこと?」


「ハイ。なので、段階を踏んで丁寧に向き合う、みたいなことは想像でしかなくて。実際に櫻井さんを目の前にしたら、こんなに止められなくなるって自分でもびっくりしました」


「嬉しいやら、今後が恐ろしいやらだな」



それから相葉くんが話してくれたのは、恋愛感情のベクトルは同性でってことの話だった。



「中学の時、友達のうちでお兄さんの大人のビデオを見せてもらって、悪ふざけもあって、みんなで抜こうぜって盛り上がったんです。」


「あー、その悪ノリ、覚えあるわ」


「 ふふ、櫻井さんは、男子校なら、もっとかもですよね・・・でもオレ、ビデオ見ててもなんか・・・全然なんにも感じられなくて。でも、その時に見た友達の、勃ったソレとそいつのイク時の顔とか息遣いとか、そっちのほうが何倍も興奮してることに気づいちゃったんです」



相葉くんはそこで、ふぅーっと、ひと呼吸して。


俺は、聞いてるよ大丈夫だよって気持ちで、うん、と頷く。



「それまでふつうに、女の子は可愛いとは思ってました。・・・思うけど、性の対象かと言われるとぜんぜんで、オレ自身がまだコドモだからかなぁなんて思ってたりして。でも、その、友達とのその日がキッカケで、自分の相手は男なんだなぁって」



「すぐにその気持ちは受け入れることが出来たの?」


「はい、それは思ったよりすんなり受け入れられました。自分が自分を否定しちゃダメだって、それはばあちゃんからずっと言われてたから。でも、自分はそうでも・・・社会から否定されたような気持ちになっちゃって」


「俺も男子校のあの環境じゃなかったら、悪意なく『おかしい』って思っちゃってたかも。それが、社会で環境だから」



「オレは、それで言うと、ばあちゃんと、ぽち、に、ずっと聞いてもらってて・・・自分自身を否定しそうになっても『雅紀のキレイな気持ちを見せてくれて嬉しいわ』って、ずっと言ってくれて」



「救われてたんだな」


「はい」



そう言って相葉くんは愛おしそうに、切なそうに。

あの「ぽち」の写真立てを見ていた。