相葉くんの部屋に来るのは2度目。
だけど、こんな気持ちで部屋に上がることになるとは。
「相葉くん」
ドアを開けると相葉くんは
無表情に俺をしばらく見つめ返したあと
急に困ったような切なそうな曖昧な顔をして
「どうぞ」
と呟いた。
「お邪魔します」
俺に想いは・・・ある。
そして、おそらくは相葉くんも。
しかし、彼からは何も確証をもてる何かを言われてはいない。
だからなのか。
都合の良い勘違いや思い込みで踏み込めるほど、
浅はかでは無い・・・は、半分。
残りの半分は、勝算なく仕掛けるのは、やっぱり・・・怖い。
俺自身は同性と恋愛をしたことは無いが、中学から男子校だった故か、そういう話が全く無いわけでもなかった。
実際にいわゆる「恋人同士」のヤツらはいたし
そこにはただ、好きな人間性同士が一緒にいるのだな
という感想しかなかったものだ。
逆に、保守的な人間だと自負していた自分が彼らに対して嫌悪感は全くなく、むしろ好ましい気持ちを持ったことが、自分自身に衝撃的だった。
こどもから大人へ変わる、いわゆる思春期。
そういう環境の中で性の自我を得た。
好きだと思えば、それ以外に理由はないのだ、と。
それが例え、同性であろうと。
とはいえ、世間様がまだまだマイノリティを『受け入れる』という意識であることは承知している。ただそこにある感情を殊更に特別に『通常である』とわざわざ認識しなくては扱えないことが大勢。
不自然で、果てしなく・・・めんどくさい。
でも今は。
対世間、ではなく、俺と相葉くんの。
その2人だけのことだから、俺が勝手に結論付けたくは無い。
「腹減らね?結局なんも食ってないよな」
なるべく普段を装って。
この間、初めて来たのに風呂も洗濯も世話になっているんだから、むしろ変な遠慮をしない方がいい。持ち帰った智くんの料理を食べながらゆっくり話そう。
・・・と思った、のに。
「うわッ・・・!」
料理をテーブルへ置いた途端に背後から腕を引かれ
そのまま相葉くんにぶつかるように抱き寄せられた。