潤翔。

リアルの話に触れてます。


■■■■



「翔さん・・・」



「なに」

「しょ・・・さん・・・」





もう、言葉を繋げることが出来なくて、

ただ名前を呼ぶことしか。


愛おしいこのひとの、美しい名前。




「潤、ごめんな」


この人は何に謝ってるんだろう。


「ごめん、潤、俺は・・・あっ、ん、・・・ンんっ」




それ以上何か言われたくなくて、背を向けていた翔さんの顎をつかんで無理やり俺の方に向かせて唇を塞ぐ。口内を舌で侵してやれば、言葉は喉の奥で意味をなさない音で終わる。

この人の大切な大切な言葉だけど・・・今だけは聞きたくない。



鼻から抜ける息を鳴らしながら、飲み切れなかった2人の唾液が口の端から零れて首筋を伝う。翔さんの歯列をなぞりながら唇を離し息継ぎを促せば、声にならない喘ぎが漏れる。

「翔さん、ヤバいね・・・」



ぐっと腰を引き寄せれば、ソコは予想通り主張をしていて、

そうであろうと思いながらも、何故かひどく安堵した。



「もっと・・・する?」




オレは懲りずに、また、尋ねる。


答えを貰おうなんて思ってない。
だから、また。



「ンッ・・・じゅ、ん・・・ん、はぁ・・・」




しばらく舌を絡ませあって、下半身の膨張を遠慮なく擦り付け合わせていると、オレがこの人を黙らせようと仕掛けたキスなのに、いつの間にか主導権を握られていることに気づく。



「・・・っん、しょ、さ・・・ん」



翔さんの左手はオレの首根を掴み、右手は肩におき自分で洗面台のカウンターにじり上がる。座ったそのまま膝をひらきオレの身体を足で引き寄せ、密着させた。


腰に巻いた翔さんのタオルは落ちてオレの足元に絡んでいる。




翔さんはオレの首に回していた左手で髪をかき混ぜながら、

右手はいつの間にかオレの屹立に触れていた。




「しょ・・・ちょ、まっ、て」



「待てねぇ」



かろうじて聞き取れたその言葉はオレのカラダを

さらに熱くさせ、理性を吹っ飛ばすには十分だった。







切なくオレを呼ぶ、音にならない呼び声が愛おしくて、できるだけ甘く応えたいけど、欲しくて堪らない欲は抑えきれず、酷くゆさぶってしまう。


結局、挑発にのせられたのはオレ。


後ろから強く打ち付けながら、

また、白い背中の鬱血を増やしていく。



時に抽挿の角度を変えれば声が上がる。


「翔さん・・・ね、ココ、好き?」




何を聞いたって答えてくれやしないんだと思いながら、

それでもこの人の言葉で満たされてみたくて。




「んッ!はァ・・・っぁ、んっ、まって・・・じゅ、ンッ」




オレが穿つリズムに合わせて、喘ぐ声をこぼすのは、きっと彼にとっては不本意なのだろう。鏡越しにオレを見て、なにか言いたそうな濡れた瞳。その顔を見てしまったらオレは異常な背徳感と罪悪感に押しつぶされそうになった。




なんでオレはこんな綺麗なヒトを犯してるんだ、って。




こんな顔させて、組み敷いて、そんなやり方で愛してるなんて言えるわけもなく、間違えても翔さんから愛の言葉なんか聞けることなんかないだろうな。

だから、好きにさせてもらう。


さらに追い込むべく、矛盾を順接に無理やりに導いて。

せめて、気持ちいいと思って欲しい。


オレに抱かれることを、少しでも受け入れてもらいたくて。

仕方なく抱かれてるんだっていう理由になればいいと思って。




「じゅ、っん、もぅ・・・」



「ん・・・翔さん、イケそう?」



「お、まえ、どうなの・・・っん、っんぁっ」


「オレは翔さん気持ちよくしたいから、まだ」

「ダメ、おまえも・・・潤も、いっ、しょ、に・・・ンッ」




・・・なにそれ、そんなこと。


そんなの、ダメじゃん。


「じゅん、いっしょ、に、んんっ、イこ・・・っ、アッ」




そんなふうに、まるで、オレのこと大事にしてるみたいな。
そんなの、ダメだよ。
そんなのは、オレが、耐えられない。

もう、酷くできなくなる。


抱き潰して『お前ふざけんな、ヤリすぎ』って、眉を下げて、掠れた声で呆れたみたいに言ってもらわないといけないのに。そうじゃないと、そうじゃないと、年上のアナタをどれだけでも甘やかしたくなって、大事に大事にしたくて、もうこんな関係でいられなくなる。どうしよう。翔さんは、オレから甘やかされる存在じゃないのに。オレの翔さんは、そんな風にオレに向き合っちゃダメなんだよ。



あぁ・・・


どうしよう。

しょうくん。




好きで好きで、好きすぎてどうしようもなくて、若い時は気持ちを持て余して反抗期なんて誤魔化せた。いま、時を重ねて分別ある距離感を持った大人を気取って平静を保っているけど、いつだってオレはしょうくんを見てるんだ。


「じゅん・・・こっち、見ろ」



「しょ、くん」

「ほら・・・いっしょ、に・・・な・・・?」




言葉にできなくて、いっそう激しく突き上げる。


伝わって欲しい。

愛してるって。


しょうくん、愛してるよって。


「あッ・・・あッ、ダメだ、じゅ・・・も、・・・ッ、ん、んっ!」




ふいに翔さんが息を詰めた。


ぎゅっと、翔さんのナカが締まって、奥へ引き込むように痙攣をしてるのを感じて、あぁ、ちゃんと気持ちよくしてあげられて良かったって安心した。

その安心感はオレのギリギリを手放すのに十分で、オレは翔さんのナカに、奥に、めいっぱいを、注いだ。







「おまえ、なんか、難しいこと考えてヤッてんだろ」

「なに、難しいことって・・・ってか、言い方さ・・・」


「いや、大体わかってるけど、どうしたものかなと」



シャワーを浴びたあとだけど、2人で湯船に体を沈めた。

翔さんがめずらしく風呂に誘ってくれたから。


オレの脚の間に素直に座って背中を預けてくれるこの時は、どれだけカラダを重ねたとしても、また違う幸せを感じる。リラックスしている息遣いと、低い声。それを感じられる肌の近さ。ゆったりと翔さんの腹の辺りで指を絡ませれば、呼吸で上下する様子さえ愛おしい。


「・・・きっと、わかってないよ、翔さんには」



どれだけオレが、アナタを愛してるか。

耳元に優しく応える。
ついでにペロリと耳の裏を舐めれば『んっ』と素直な反応が返って来て、なんともクるものがある。


「・・・おまえ、元気、だな」



「うん、そりゃそうでしょ。翔さんとこうしてたら。」


翔さんの前で欲情することに羞恥心や自尊心なんてとっくに意味をなさなくなった。むしろ、どれほど愛しているかを伝えられる絶好のチャンスだとすら思う。


「・・・あのさ、潤」



「はい」

「なんか、勘違いっつーか、すれ違いっつーか、ちゃんと言ってこなかった俺も悪いんだけど」

「・・・翔さん、余計なこと言わないでいいから」



「ははっ!余計って、お前も酷いねぇ。まぁ、言わせてよ、せっかく2人でいるんだし、な?」


せっかく、とか、2人でいる、とか。
調子が狂う。

何を言われるかわからなくて、言い知れぬ不安が募る。
抱きしめてるこの瞬間でさえ。



「オレ、翔さんから離れる気なんかないから」

もう、なんでもいいよ。
オレがわがまま言ってるから仕方なくでも。
理由なんてなんだっていいから。



「うん、俺も、離れる気なんかないから。・・・あのさ、多分、こういうことなんじゃないかと思うんだけど。」



翔さんはオレが後ろから抱いていた腕から抜け出すと、身体を反転させて俺の上に跨る。必然、翔さんのほうが目線が高い。


向き合った翔さんの腰を引き寄せて頬を右手で包み、親指で紅く色づいた涙袋を撫でた。頬をオレの手に擦り寄せてくれる翔さんのその行動に、驚きつつも胸が締め付けられる程の強い幸福感が湧いた。

「ヤバ・・・なにそれ、めちゃくちゃ可愛いんですけど」



「だろ?」

「何、だろ?って(笑)狙ってやってんの」

「そうだよ、無意識にやってないよ。潤だからやってんだよ。」

「・・・なんスか、急に」


「潤はさ、なんか、俺がお前に抱かれてる理由とか一生懸命考えて、俺に言い訳を作ってくれてんだよな。」


・・・バレてる。


という以前に、そもそも隠し事なんか出来やしないんだ。
でもそれでも、それすらもが、オレからの愛なんだってことが伝わればよかった。



「好きだから好き、一緒にいたい、それ以外になんか理由、いる?」


「・・・は?」



「いや、は?じゃねーのよ」

「ちょっと、なに言ってんのか…わかんないんだけど」

「まぁ・・・信じなくてもいいけど・・・俺はお前が大事だし、そばに居たいんだよ」



「なんで急にそんなこというの・・・?」




突然の告白に情けなくも狼狽えているオレの額に、

柔らかく触れるだけのキスをくれた。




「潤、大丈夫。だから、もう泣くな。」



「しょ・・・くん・・・?は?え、なんだよ、急に・・・なんなんだよ」




大好きな優しく緩む目元が愛おしくて。
泣くなと言われたのにそんなのは無理だ。

「悪かったなぁと思ってさ」

「なにが」

涙腺も緩ければ、もう取り繕うこともできない。

大人の分別とか、世間体とか、距離感とか、

もうそういうことはこの場では一旦は、いい。



「めちゃくちゃ不安だっただろうし、辛かったよな」

うん、そう。
わかってんじゃん。
不安で辛くて死にそうだったよ。


「でもさ、潤が俺を本当に大切に想ってくれてることがわかってるから、だから、俺は全部手に入れる覚悟が持てたんだよ」

「ぜんぶ?・・・全部って何を・・・何を手に入れたっての」



「まず家庭、それに伴う新たな可能性、煩わしい噂話からの解放、仕事に完全に没入できる環境、それから・・・」



「ねぇ、ちょっと!・・・しょうくん・・・。あのさ、翔さん、オレがどれだけ辛かったか分かってくれてたって言ったよね、それでこの話?」



「うん、だから、大丈夫だから・・・最後まで聞いて?」



優しく胸元に引き寄せられ、柔らかく応えてくれる翔さんに気持ちが溶かされていく。濡れた髪が冷たい。

でもそれ以上に翔さんの体が熱くて気持ちいい。



「俺たちはさ、特殊な仕事ゆえに、世間とか、一般的な、っていう感覚を、あえて、意識して持ってないといけないだろ」

「うん」

「だから、まずそこのチューニングを間違わないようにさ、枷をはめたワケ」

「・・・家庭を持ったことが、枷?それは・・・さすがに酷くない?」




って言ってる自分がいちばん酷い。
いまの言葉、最後までちゃんと言えたかな。
笑ってしまわないように、我慢できてたかな。
だって、今オレは震えるほど嬉しいと思ってしまったから。

「うん、酷いのはわかってる。酷くとも、潤を安心させられるなら、そんな罪悪感、俺はいくらでも背負うよ」


あぁ、もう。
やっぱりどうしてもこの人には全部お見通しで。
オレが引き受けたかった何もかもを、この人はわかってくれてた。


「翔さん・・・オレ、あなたが好きだよ」



「わかってる」

「どれだけ好きだと思ってるの」

「想像できないくらいだったらいいなと思う」

「ずるいよ、そんなの」

「俺の願望だな」

「願望・・・」



「そう。想像もできないくらい、愛されていたらいいなぁっていう、願望」


そんなの・・・やっぱり、ずるい。


これまでどれだけ抑えてきたと思ってるの。

そんなこと言われたら、もう。


「そんなこと言って、一生後悔するよ?」

「はは!一生、愛してくれるってことだ」


「意味、ちげーから・・・」


「俺は、一生、潤に愛されていたいよ」


そう言った翔さんは、とろけるような甘いキスをくれて。

それ以上に甘い声で


オレが欲しくて欲しくてたまらなかった言葉をくれた。





「あいしてるよ、潤」