酔っ払って寝不足で
オレに『おまじない』をしてくれたしょーちゃんは
あっけなく意識を飛ばして
いまはすっかり深い寝息を立てている。


風呂に入れるミッションは完遂すべく
しょーちゃんが溺れないように浅く湯を張って
バスタブに座らせて置いて
オレはソッコー汗を流す。

しょーちゃんを支えながらアタマを洗って身体を流して
ついでにナカを掻き出してあげて、任務完了。

そして、今は、オレのベッドで眠り姫。


潤くんにはきっと呆れられるだろうけど
わざわざ自分の部屋に戻ったってことは………

うん、そういうことだと思う。


オレに甘い潤くんは
結果的にしょーちゃんにも甘いんだ。
本人はそれを絶対に認めたがらないけど
それもオレにとっては可愛いトコ。


潤くんに風呂から出たとLINEをしたら
すぐにオレの部屋に戻ってきてオレを抱き締めた。


「……おちついた?」

「ん。ありがとね。」

「雅紀さん…あなたなら、きっと、大丈夫。」

「うん、オレにはしょーちゃんのおまじないと、MJの瞳のお守りがあるから」

「ふふ、それは最強だね」



色々考えても
どうなったとしても
もうオレは大丈夫なんだ。

今日の仕事は、あの人と。

引き受けると決めたのは
たぶん、モデルになることを決めた時。

いつかこういう日が来る
いつか向き合う日が来る
そう覚悟した日。

オレには
ふたりがいる。

もう、大丈夫なんだ。




「……雅紀さん、いい匂い」

「潤くんと同じ香りだよ」

「うん、でも、やっぱり雅紀さんのがいい匂い」

「オレも潤くんとしょーちゃんがいい匂いだと思う」


お互いの首筋の香りを吸い込みながら
やさしくキスを贈り合う。

こうして愛おしい人たちの体温を感じられる毎日に
どれだけ感謝しているか。
どうしたら伝わるかな。



「しょーちゃん、寝かしてるけど、起こす?」

「ん、かわいそうだけどね。」

「オレ、コーヒー淹れるから様子みてきてくれる?」

「うん、起こしたら朝ごはん、食べよ。僕も結局まだ食べてないからさ」



コーヒーのドリップの滴をぼんやりと眺める。
鼻先に残るしょーちゃんと潤くんの香りと
立ち込めるコーヒーの香りが混ざる。
毎日しょーちゃんが読んでる新聞が
テーブルに当たり前にあって。
潤くんが使ってるエプロンが椅子にかかってて。
オレが気に入ってるバランスボールが転がってる。

3人の気配がそこにはあって。

気づけばここには生活があった。



オレのホーム。



そう思ったら

急に胸が苦しくなって

でもそれは幸せでしかなくて


2人の顔が見たくて寝室に入ると

ベットに座ってしょーちゃんを抱き起こして
背中を撫ぜている潤くんが振り向いて
『このひと起きてるのに起きないよ』って笑ってて。
しょーちゃんは潤くんの肩に顔をあずけて
ほっぺをつぶして目をつぶったまま
『まさきー』って掠れた声で呼んでる。




なにこれ。
なにこれ。

なんだこれ……。


オレっていつの間にか


……こんなに幸せだったの。



そう思ったら涙があとからあとから溢れてしまって。

そして言うべきコトバはこれしかなくて。




「しょーちゃん。潤くん。」





窓から射し込む光の中のふたりに

ありったけの想いと感謝をこめて。





 「……愛してる 」






おしまい。