これは
2022年12月24日
まーくんの誕生日に書いたおはなしです。
リアル設定のため、避けて通れないアノ話に触れます。
ご自衛いただければ。



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『プレゼントには、キスを添えて。』




「…ぅんん…」


ふと、背後の感触に意識がとらわれた。

暗い室内に加湿器のわずかな運転音。

肩越しに聞こえる温かな息遣い。

…あ。
帰ってたんだ。

全然気が付かなかった。

背中越しに抱きしめられて
パジャマ代わりのTシャツの裾から
お腹のあたりに手が差し込まれていた。


「・・・ふふ」

おもわず笑みがこぼれる。


今日は紅白の打ち合わせで忙しくて連絡できないかも。
そのあとドラマの撮影で遅くなるし、
明日も早朝からロケに出るから。
睡眠時間を少しでも長く確保したいから。

だから。

「『こっちの部屋』に帰る」

って聞いてた。

だから俺もこっちに、帰って来た。


疲れていても必ず晩酌をする彼からは
少しだけアルコールの香りがする。

「寝るためにこっち帰ってきたんでしょ。
飲まないですぐ寝ればいいのに…。」

独り言ちながら腹にある白くてきれいな左手の甲に自分の左手を上から重ねて指を絡め、親指で彼の手のひらをゆっくりと撫ぜる。首の下に差し込まれた彼の右腕の内側の肌触りが頬に吸い付くように気持ちがよくて、おもわず頬ずりをした。

彼が帰ってきたこと、さらには後ろから抱かきつかれていることに、気づけないくらいには、俺も酔いに任せて意識を手放したってことだ。それでも彼が帰ってきた時に不快にさせたくなくて、とにかくシャワーを浴びてベッドに飛び込んだのは、我ながらよく頑張った。


今日はフットワークの軽い後輩たちが入れ代わり立ち代わり
俺の周りに集まっては酒を頼んでくれて。
「せっかくだしね!」
とか言いながら、俺も調子に乗って飲みすぎた自覚はある。
見かねた風間が
「相葉ちゃんには待ってる人がいるんだから」
と、
今や誰もが納得せざるを得ない、
至極最もらしい理由、
で、
酒宴から解放してくれた。



酒を飲んだ日は『こっちの部屋』に帰るようにしてる。

そう伝えてある。
家にいる人には申し訳ないけど
酔っぱらって帰ってうるさくしてしまうよりは
安心して頼れて手伝ってくれる人がいてくれるから
無理に帰らなくても、いい。


...風間にはバレてただろうなぁ。

楽しく飲んでいたのは途中まで。
ついつい見てしまうスマホから目をそらして
時間を気にしたくなくて杯を重ねてしまった。


待ってる人がいる…か。

待っててくれたらどれだけいいだろうと思う。
お互い忙しくしてるとはいえ
おおよそ待っているのは、俺のほう。

そういう時は、どうしても時間の進みが遅い。
普段ならジムで頭を空っぽにして汗を流してやり過ごす、
でも、
今日は…ダメだった。
いまさら今日は特別な日だとか
あの人と過ごしたいとか
そんなこどもみたいなことを
口にはできないけれど
だからといって
俺以外の誰かを優先されるのは
やっぱり切ない、と、認めざるを得ない。
その想いは自分の事情を棚に上げてるもんだから
いっそうタチが悪く俺を黒く塗りつぶす。

だから、そんなときはどうしたって酒に頼る。
もう、若くない。
それこそ、もういい歳、なんだから。
これまでやってきたこと
これからやっていくこと
仕事に迷いはない。

それとは別の場所に
割り切れない執着にも似た厄介な感情が
くつくつといつまでも煮詰まっている。

渇く心の欲求は酒で潤せるはずもなく。
そしてさらに言えば、飲んでしまえば、
「飲んでしまったから」
という理由で『こっち』に帰ることに大義ができる…。

今日は夜が明けたら
赤白緑でにぎやかに色づいた街が本領を発揮する日。

そんなことをぼんやりを考えながら
背中のあたたかな感触を味わっていたら

「…くすぐったい」

寝息のかわりに聞こえてきた、少しかすれた、声。

無意識に頬ずりをしていたから
俺の髪の毛が彼の顔に触れて、くすぐっていたらしい。

思わず緩む顔を見られたくなくて、
あえて無視して、そのまま顎を上げて
頭を彼の顔に向けて傾ける。

んんっ…と、少しの抗議のあと、
それがすぐにクスクスと笑いに代わり
手のひらを撫ぜていた左手の親指を握りこまれ
右腕で抱き寄せられる。
詰めた距離で俺のうなじに唇をつけて
そのまましゃべり出す。

「…手のひらを撫ぜるって、
『お誘い』のサインだって、知ってた?」

「……しらなかった。」

しらなかった、
けど、
いつだって繋がりたい。
いつまでだって繋がってたい。


「気持ちよく寝てたのに雅紀に起こされたな…。」

なおも唇を離すことなくささやく
喉の奥で笑いを殺したような
大好きな低く甘い声が
俺のうなじを粟立たせる。

「じゃあ、俺が、気持よくしてあげよっか?」

首筋の感触にすっかり覚醒してしまった。
だが、性急に組み敷くことは良しとせず
じっと動かないまま、振り向かずにお伺いを立ててみる。

そこに拒否の選択肢は絶対にないことをわかって言う。

すると返事のかわりなのか
彼は俺の左肩のあざを唇でなぞりはじめた。
唇と舌の感触は熱く俺を煽る。
その熱さとは対照的に彼が通り過ぎた場所は
唾液で濡れるがままに肩先がひんやりとしていく。
しばらく黙って好きにさせていた。
が、
自分から仕掛けたくせにだんだんと息が上がって
あまつさえ鼻から抜けるような甘い吐息を漏らしながら
それでもあざへのキスと甘噛みをやめない彼に
リップ音と水音を響かせる彼に
もう、振り返らずにはいられなくなった。

今日もやっぱり、俺の負け。
なんの勝負をしているつもりもないけれど
俺の隣で安心して眠って欲しい。
外でどれだけでも戦ってくる彼を
俺が、ずっと癒してあげる。
そう思っているのに、
煽られて溺れてしまうのは結局いつも俺が先。
だからせめて、欲に任せて抱き潰さないように
彼を最高に気持ちよくしてあげたい、と、おもう。

彼の腕の中で体を起こし
体の下になっていた自分の右腕を彼の左肩に落として
彼を見下ろした。


熱くなってしまった情欲の想いを
めいっぱい押し殺して
隠しきれないカラダの反応は
存分に彼に伝わるように押し付けて
鼻先が触れる距離で余裕を演じるように
腰を緩く揺らしながらゆったりと言う。

「気持ちよくしてあげるね、しょーちゃん」


そんな俺を大きな瞳で見上げて
本当に幸せそうで嬉しそうな
蕩けるようにあまいあまい眼差しで


「あいしてるよ、雅紀。誕生日おめでとう。」


プレゼントだよ…

そう言いながら
今はたくましく鍛えられている白い腕を
俺の首に回しながら自分の体を持ち上げて

そして
やわらかい俺の大好きな唇で

熱く濡れる
キスをくれた。


Happy birthday to MASKI