駅を出て、少し早歩きで近くのスーパーに向かう。
感傷に浸っている余裕なんてないのだ。
家では3歳の陽介がおなかをすかせて待っているかもしれないし、あまり待たせると雅也は機嫌を悪くしてしまうかもしれない。
スーパーで夕食の材料を買い込み、更に早歩きで自宅のあるマンションに向かう。
マンションの前で、赤信号で足止めをされてしまう。
イライラしながら、ふと近くの喫茶店をみると、ガラス張りの大きな扉に自分の姿が映っていた。
買い物袋を下げ、疲れ切って化粧が落ちた顔。
家を出るときは、できるだけおしゃれをしてきたつもりなのに、目の前に映る自分の姿は主婦そのものだった・・・
同級生のはずなのに、なんであの3人とは見た目すら変わってしまったのだろう?
「ママー!」
玄関を開けると、陽介が駆け寄ってきた。
大好きな子どもが笑顔で出迎えてくれたのに、素直に喜べない自分がダメだと思う。
リビングに着くと、雅也が朝のパジャマのままでテレビを見ている。
「ただいま。すぐに晩ご飯をつくるから、少し待っててね。」
テレビに夢中の夫からは、特に返事はない。
炊飯ジャーをセットしてから出かけたので、ごはんはもう炊きあがっている。
味噌汁に使うお湯を沸かしている間に、買ってきたトマトとキュウリを切ってサラダを作る。
そして、豚肉とキャベツの炒め物をつくって、大皿に盛りつける。
我ながら料理の手際はいい方だと思う。
帰ってきてから、15分ほどで食卓の準備ができた。
雅也は相変わらずテレビを見続けながらごはんを食べている。
陽介にごはんを食べさせながら、今日の出来事を話してみた。
「今日ね、みんなとお茶をしてきて、智美ったらこれから彼氏と温泉旅行なんだって。」
「ふーん・・・」
テレビから目を離さずに興味がなさそうにうなずく雅也、きっと今食べている料理の味だってわかっていないに違いない。
今頃、里佳と直子は新しくできたお店でイタリア料理を堪能している頃だろう。
智美は彼氏に寄り添いながらいっしょに旅館に向かっている頃だ。
未婚の友達からは、結婚生活がうらやましいわと言われる。
仕事と家庭が両立できるなんてすごいねとも言われる。
でも、これが本当にうらやましがられるような幸せな暮らしなのだろうか?
明日は月曜日、また仕事の一週間が始まるのかと思うと胃のあたりが重く感じられる・・・
また知らない間に「ふぅーっ」っとため息が出た。
そんな真由子の様子に、雅也が気付くことはなかった。