まだまだヒッソリ続けて参ります。
なぎさんとのコラボ。
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【カミカクシノクニ 006】
前回のお話→005
僕は蒼くんが走り去っていった方向へ向かった。
さっきまで、狐と離れてしまうことが怖くてしょうがなかったのに。
今は、蒼くんのことをなんとかしなきゃっていう・・気持ちでいっぱいになってて。
そんなことは気にならなかった。
多分・・狐は僕がはぐれてしまったとしても・・・
ただ、それで見捨てるような人じゃない、って感じたからかも。
僕が本当に困ってしまう前に探してくれる。
そう・・なんとなく・・感じたから。
「蒼くーん!」
鳥居に向かって、さっきと逆の道を辿る。
蒼くんを呼びながら、キョロキョロと探していく。
まさか・・石畳から降りて森の中に行ったりとかは・・・してないよね?
さっき、あんなに怖がってたし・・
それでも、もしかして・・のことを考えて、木々の間も透かして見る。
闇に覆われてるような。
なんか・・変な感じ。
すごい暗いって感じはしないのに・・なんでか・・森の中が見えない。
何かに覆われてて、隠されてる感じ。
「そっちにはいないだろう。
それこそ・・蒼が一番恐れてたことだから。
うち・・に帰るって言ってたから、そこに隠れてるだろう。
ちょっと行ってみよう。
どちらにしろ・・蒼には他に行くところはないだろうから」
僕が走っているのに、すぐに追い付いてきた狐が言った。
その声の調子が、あんまり切羽詰まった感じがしないから・・
ちょっとだけ・・緊張をゆるめた。
行き先が、分かってるなら・・ちょっとだけ安心。
迷子になったりしたら・・大変だし。
歩きながら、狐が誰にともなく話している。
「アイツはなぁ・・迷子なんだろうと思うよ。
人間だったときから、自分の居場所がわからない。
どこに行こうとしてるのか・・見えない。
そんなんだから・・ここに落っこちまったんだろうなぁ」
「・・・それなら・・・僕も同じ。迷子だね。
おとうさんもおかあさんも・・・仕事仕事で。
帰ってくるのは僕が寝てから。
学校であったことも、どんなテレビ見たとか、こんな本を読んだとか。
話すこともできない。
だから・・・僕・・おとうさんとおかあさんには・・
いらない子・・・なんじゃないかな・・って」

そんな風に思い始めたのは・・・半年前くらいから。
それまでは、おとうさんもおかあさんも、仕事が忙しいって言っても、どっちかとは一緒に食べていた。
たいていはおかあさんだったけど、時々、おとうさんのこともあって。
男同士だから、ってかなりいい加減な食事してるのを、おかあさんには、ナイショだぞ。
男同士の約束だからな、とか・・・楽しかったのにな・・・
半年ぐらい前から、二人とも仕事が急に忙しくなったって、食事もなかなか一緒にできなくなった。
朝ごはんは3人一緒に食べるけど。
いっぱいある聞いてほしいこと、までは話せない。
ちょっとだけ、俯いてしまった僕の頭に狐の手がそっと載せられた。
「そんなことないさ。
お前さんはいい子だからな。
いい子、ってのは、親に正しく愛されて育てられないと、できないもんなんだよ。
まっさらな赤ん坊を、まっとうな人間に育て上げるってのはな。
ひどく手間暇がかかって根気が必要なんだ。
お前さんには、その根気のいる手間暇をかけられてるいい子だよ。
ちょっと話しただけで、すぐわかる。
まっすぐないい子だよ。
それだけわかってりゃ、紅、お前さんはすぐにでも家に帰れるはずさ。
仕事で忙しくったって。
きっと、お前さんの親御さんはちゃんとお前さんを見てるはずさ。
今頃、慌ててお前さんのこと探してるよ。
早いとこ、帰ってやんな」
フワフワした狐の手が僕の髪の毛をグチャグチャにした。
俯いて、涙をこらえてた僕はそれで・・なんか赦されたような気がして。
こらえてた涙をポタンと落とした。
涙は石畳を黒く染めた。
いくつもできた黒い染みを足で擦って消そうとした。
「泣くのは恥ずかしいこっちゃないよ。
恥ずかしいのは、自分の気持ちを誤魔化しちまうことだ。
正直な気持ちから出た涙は綺麗なもんさ」
狐の顔を仰ぎ見ると、笑って・・るのかな?
微笑んでるように感じた。
懐から出した手拭いで僕の顔を拭ってくれた。
「蒼も紅と同じように、自分の感じてること素直に受け止めればいいんだけどねぇ。
アイツは自分の気持ちを誤魔化しちまうんだよ。
寂しいのに、寂しくない。
哀しいのに、哀しくない。
思い込むように気持ちを塗り消しちまうから・・・・」
「蒼くんも、泣きたいことがあるのかな?」
「あるだろうよ。ひとっつもないヤツはここに落ちて来はしないさ」
狐の手がまた、僕の手を取った。
心細くなった気持ちがほんわか暖められた。
また、狐はゆっくりと歩き出した。
鳥居をくぐると、いきなり賑やかに聴こえる町のざわめき。
「うちは、すぐそこの角を曲がったとこだ。
蒼は布団にでも潜り込んでいるだろうよ」
一つ目の角を左に折れた。
並んだ家々と変わることない、家。
そこが狐の家らしかった。
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