――納戸会議 03――
さて、山崎氏の隣に座する男の一人目。
……痩身で、きれいに月代を剃ったその青年は、
瞬きもそこそこ、身じろぎもせず私から全く目を逸らさないでいた。
「ほな、ご挨拶させて頂きます。
拙者、谷口四郎兵衛 (たにぐち しろべえ)と申します。
以後お見知りおきの程を」
心地よい京ことばだった。
彫が深く、大層男前である。
彼は京都在中の元桑名藩士で、多少名の知れた大店の跡取り息子であったのを、
家庭の事情から谷口家へ養子縁組をなされて藩士となり、その後脱藩したそうだ。
(彼が探索でよく使った変名“小堀誠一郎”や“小堀清十郎”は昔の名前だったようだ)
が、京都生まれの京都育ちなので地理には我々等よりずっと明るい。
その上、谷口には、無理なく‘ス’、と人に馴染むと言うか、
いつの間にかソコに潜り込み輪に溶け込むと言う特技があった。
事実今回初の顔合わせにも関わらず私にも、当たり障りなく接し、
いつしか以前からその場にいた仲間ではないかと想う程、空気に馴染む癖があった。
が、だからと言って誰彼構わず仲良くなると言うのではない様だ。
人を受け入れる様な態度を見せておきつつ、
その実、印象的な黒い目で、人をじっと観察している癖があるのが私には良く解った。
もう一人の青年は背筋をのばして座っていた。
山崎氏に
「よぅ、おめぇも挨拶しねぇか」
と、促されると、その青年は2~3度小さく頷き、
「手前、成瀬 杏右衛門 (なるせ きょうえもん)と申します」
と名乗った。
彼もまた小堀と同じく、京都在住の桑名藩士であると言う。
我々を雇うこととなった、会津藩主・松平容保様の弟にあたる、
桑名藩主にして京都所司代の松平定敬様の下で働いていた。
……面長である。なかなか背が高く、色白で肉付きが良い。
その性質を一変通りに言うならば快活で、
人懐っこい感じに見えたが、その笑顔の隙間から時折見せる目は
どこか全てを疑わしげにみつめている様に感じた。
恐らく周囲の行動や言動の細部をみはからっているのだろう。
「こいつは時事の情報を詳細に把握すんのが特技なんだ」
と山崎氏はそう語った。
詳細まではわからないがこの男にも商家に親戚があり、
我々がこの後で良く根城のヒトツとして使った町に問屋があった。
生い立ちも似通っているためか同僚である谷口氏とはすぐにうちとけたらしい。
山崎氏もその問屋を通して彼と出会ったのだと話した。
最後にもう一人。
四六時中ずっとニヤニヤと微笑を絶やさない体格の良い男がいた。
目が大きく、眉が太く、肌の色の浅黒い人だ。
「あのぉ~、俺も~御挨拶してイイッスかねェ?」
と山崎氏に自ら問いかける。
「ああ、そうだ、コイツもな。」
山崎氏が男に目をやると男は頭を下げて言った。
「角ヶ谷糺(かどがやただし)と申しますッ、以後お見知りおきをッ!!」
パッ、と上げた顔は満面の笑みである。私も思わずつられて微笑んだ。
「沖田の、コイツは多分あんたとそぅ歳は変わらねぇ筈だ。好きに使ってやってくんな。
ただなぁ、元気は人一倍いいんだが、どうものらりくらりのお調子者でいけねぇ」
「えぇ~ッ!山崎さん、ひでぇ言い草だなぁ」
角ヶ矢は眉をゆがめながらも、またニッと満面の笑みである。
「俺別にのらくらしてるつもりはナイっすよォ」
そこで気が付いたのだが角ヶ矢氏にはあまり訛りがなかった。
もしかすると江戸に近い出身なのかもしれない。
「おめぇは口数も多くていけねぇ。少し黙ってな!」
軽く山崎氏に叱咤されても、余り懲りた様子は見受けられない。
ヘッと肩をすくめて返事をすると、私の方を見て片眼をつぶるとニヤッと笑った。
面白い男である。同時になんだか仲良くなれそうな気がした。
「彼らは浪士組に入るのですか?」と私が聞くと、土方氏が、
「入るには入るが現時点での答えは“まだ”だ」と答える。
「完全に入るってよりゃあ、身動きのとり易い今の状態がいいだろうとおもうんだが、
そうじよ、おまえどう思うね?」
「それは……単純に言うとどういうことです?」
組せず身動きが取り易く、の意味が深く探れないでいると
斉藤氏が私の後ろから
「諜報活動人員ってトコやな」と回答を出してきた。
ああ、この人達を自由に使え……と所司代様は仰ってるワケか。
ひとりごちていると、うんうんと後ろで頷いていた斎藤氏が
「いずれも所司代様からの選りすぐりだからね…。使い勝手はええやろな。
ウン…まぁーそのー…角ヶ矢に関しては……あれだな、まぁ仲良くしてやんなさいね」
「あぁっ斎藤さん、酷いッスよ。その言い方じゃぁ、なんだか丸で俺が、
間抜けみたいじゃあないですか」
角ヶ矢氏が大げさに顔を歪めるのを見て、肩越しに振り向いた山崎氏が一言
「違うのか?」と言い放つ。
その言葉に一同がドッと笑った。
場の空気が一気にほぐれた瞬間だった。
ともかくここでいずれの「新撰組探索方」となる
おおまかな面子がそろった瞬間であった。
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