黒猫物語を愛読してくれているエビバデ!

改行・編集などがいい感じにやれるので

チカゴロはホームページに書いております。

また背景が黒なことも気に入っております。

ホームページの「ファンクラブ FUNKLOVE」に

登録してくれたら新作アップの連絡します。

会費とかそういうめんどくさいことは一才ないです。

しかし。

ファンクラブ特典とかそういうややこしいのもないです。

 

よろしくね。

 

 

黒猫のコークの飼い主は悲しきOLでした。
かつて悲しきOLには「将来を誓い合った恋人」がいました。
週末にはなかよく手をつないでふたりがお気に入りの川にピクニックに行きました。しかし悲しい悲しい事件が起こります。恋人は川で溺れそうな子猫を助けたのですが自分は流されて死んでしまいました。OLは嘆き深く深く悲しみました。

 

「いったいどういうコト? なにがどうしてぜワタシの恋人が死んでしまうの?」

 

OLは真剣に自殺を考えましたが「恋人がいのちを賭けて助けた黒猫」と暮らすコトを選びました。そして恋人がコカコーラが大好きだったから黒猫をコークと呼ぶことにしました。
あの人はいつだってピクニックにはたくさんのコカコーラを持って行ってたな。

 

寂しさや苦しさを紛らわすためにとにかくOLは働きました。
毎晩コークを抱きしめて眠り週末には止めどなく泣きました。休みの日には静かな映画を眺め静かな音楽を聴きました。友達に誘われて「さまざまな気晴らし」をしましたがまるでダメです。「恋人の穴」は「恋人でしか埋まらない」のです。それから何度も何度も季節は巡りコークも立派に育ってもまだまだキズは痛みます。
 

「時が解決してくれるというのならあとどのくらい待てばいいのだろう?」
OLはいつもこんな風に思いました。

 

「ねえコーク。

ずっとずっと毎日毎日めそめそ泣いてゴメンね」
「かまわないさ。それがニンゲンなんだろう」
「ねえ。コークは生きるってコトをどう考えてるの?」
「オレは。というかほとんどのネコは

死ぬ日までただ生きているだけさ。
ニンゲンのように『たくさんの可能性/選択肢』はないからさ。
迷うことはないんだな。

ネコが弁護士になろうかそれとも平凡な結婚しようかとないしね。
空を飛ぶのは鳥でネズミを追いかけるのがネコ。

ネコはネコとしてただ生きていくんだな。
できるだけ気持ちいいことをしながらね。

気がすむまで陽だまりで昼寝したりね。
でもさ。

ホントはニンゲンもそんなに選択肢なんかないのにさ。
あると思い込んで勝手にジタバタじゃないのかな?」
「コークはクールなのね」
「クールというかさ。

ネコはどうがんばっても20年ちょっとしか寿命がない。
それはキマリなんだ。自然には逆らえない。

だから逆らわない」
「でも死ぬのってやっぱり恐いでしょう?」
「そりゃ愉快じゃないさ。でもね。たまに思うんだ。
死ぬのは恐いけど

『ずっと死なない方がもっと恐い』ってね。
永遠ってのはある意味地獄かもってね。

ほどほどがちょうどいい」
「コークの言ってることなんとなくだけどわかるかも」
「ニンゲンとネコのいちばん違うところは『貯金』だよ。
ニンゲン以外の動物は『貯金』をしない。

『あるだけ』で暮らす。
それが当たり前だし自然だし

それに逆らうニンゲンはどうなんだろうね。
貯金があると安心して

なんとなく長生きができるような気分になる。
そして『健康グッズ』なんかを買い漁る。

人生に『保険』をかける。
貯金を増やそうとしたり奪おうとしたり

守ろうとして『鍵』をかける」

 

なぜ他のイキモノは「鍵」をかけないんでしょう?
なぜ便利な電子マネーや養殖や冷凍保存をしないのでしょう?

 

「ねえ。どうしてわたしの恋人が

死ななければならなかったんだろう?」
「わからないよ。

オレといっしょに生まれたネコはカラスにさらわれたり
病気ですぐ死んだりオレだけが川で溺れたけど

助けられて生きている。
きっとぜんぶが育つと『全体のバランス』が

崩れるんじゃないかな?」
「ねえ。コークは他のネコが

うらやましいと想ったコトはないの?」
「ない。そんなこと考えていいことあるのかな?
右目が見えない猫と左目が見えない猫。

どっちが可哀想か。
金持ちに拾われた猫と拾われなかった猫。

どっちがしあわせか。
こんなこと考えてなんかいいことあるのかな?」

 

OLはわかりません。

恋人が死んだヒトと恋人に捨てられたヒトと恋人がずっといないヒトのどれが不幸なんだろう?

 

「ねえ。コークの夢や楽しみってどんなことなの?」
「楽しみね。あるといえばある。

例えばヒナタボッコとカツオフレッシュパックだな。
夢か。ないといえばない。

オレは去勢されているから

自分の子供も孫にも絶対に逢えない」
「ごめんなさい」
「謝るコトはないさ。

そういうのは天災といっしょなんだ。
『その事実』をただ受け止めてやっていくしかない。
どうして去勢されちゃったんだろうって

考えたって仕方ないさ。
あれだよ。

どうして恋人が死んだのかをいくら考えてもわからないしさ。
それを考えても楽しくなれないだろ。

受け入れるしかないよ」

 

それからまた季節が何度も移ろい過ぎていきました。
ある時。

悲しきOLに「あたらしい出逢い」がありました。
OLはオトコに結婚を申し込まれました。
じっくり考えて「イエス」と返事をしました。

 

「もしかしたらこの男性と出逢うためにいままでのすべてがあったのかも」
そう思えるような素敵な巡り合いでした。

 

しかし。
あまりにも理不尽で嫌がらせのような事実が判明します。
オトコは極度の猫アレルギーだったのです。

OLは嘆き悲しみ迷いました。
コークは言いました。

「せっかくしあわせをつかんだのだから

大事にした方がいい。
ふたりでなかよく楽しく

なにもかも新品の部屋で暮らすといい」
「なんでこうなっちゃうんだろう?

ホントにうまくいかないな。
私たちがふたりだけで生活をはじめたら

コークはどうするの?」
「オレは長くてもあと3年ぐらいで寿命だ。
心配しなくていい。レインハウスってのがあるんだ。
酔狂な詩人がいてね。黒猫が大好きでね。

たくさんの黒猫がいてね。
だから。大丈夫なんだ。死ぬまでそこで楽しくやるさ」

 

悲しきOLは詩人にコークのコトを頼みました。

「なにも心配しないで。こ

この黒猫たちはみんなワケアリなんだ。
それよりたくさんのカツオフレッシュパックを

寄付してくれてありがとうね。
たまにはコークに逢いにきてね。末長いしあわせを」

 

いまコークはレインハウスでのんびりと暮らしています。
時々コークは詩人と無駄話をして楽しんでいます。

「詩人さん。

あなたは生命保険に加入しているのかな?」
「んなわきゃねーじゃん。

だって『自分が負ける方』に賭けるんだろ?
自分が事故や病気や怪我になるって方に賭けるんだろ?
そんで勝ったら保険金ゲットって

勝っても嬉しくないギャンブルなんてな」

 

「詩人さんは恋人が死んだら泣くのかな?」
「あたりめーだ。

オレはきっとめそめそするだろう。グチャグチャさ。
いいかコーク。ネコは詩を書かない。ニンゲンは書く。
鳥は空を飛びネコはネズミを追いかけて

ニンゲンは迷い抱えてフクザツに生きる。
そのめそめそやグチャグチャや迷いや

フクザツをコトバにしたのが詩なんだよ」
「なるほど。

だからネコには詩なんて退屈なんだろうね。

食べられないしさ。
でも詩人さんには詩がおもしろいから

詩人としてただ生きていくと」
「コーク大正解。

賞品は最高級カツオフレッシュパック三日分です」

 

悲しきOLも穏やかにしあわせに暮らしています。
もう悲しきOLじゃありません。

「やっとしあわせになったOL」です。
週末には必ず旦那の車でレインハウスに来てコークといつものように話します。旦那は必死で猫アレルギーを克服しようとするのですがレインハウスに近づくとくしゃみや涙が止まらなくなります。
 

「うー。ここでギブだ。

でも先週より5mは近づけた。
はやくコークのところへ。

ボクは車で音楽を聴いてるから」

 

旦那はボリュームを上げないようにしてこっそり音楽をかけます。この前のように音楽を聴きつけたとミックとジャガーがたくさんの子分の黒猫を引き連れて車に近寄って来ると猫アレルギーが大ピンチになるからです。

 

おしまい。

保護猫ブルーの場合

 

 

ブルーは若夫婦と暮らしていました。

陽当たりだけがとりえのボロアパートで貧乏な生活でしたけど3人なかよく笑いながら暮らしていました。ブルーは黒猫だけど瞳が青かったのでオンナがブルーと名づけました。オトコはその名前が気に入って子供ができたらブルーって名前にしようぜと口癖のようにいつも言ってました。ブルーは同じ名前が二人いるのはなんだかいいなと思いました。ボロアパートのボロい窓からは夕焼けが綺麗に見えます。たまに3人でオレンジ色や紫色に空を染めながら沈んでいく太陽を静かに見つめていました。

〜いつの間にか陽が暮れて 空に星ひとつ また明日〜

 

やがて若夫婦には念願の子供が産まれました。小さくて柔らかくて壊れやすい宝物。ブルーは私がお姉ちゃんなんだから大切に守らなきゃと思いました。

子供の名前はブルーには難しくて読めない漢字になりました。オンナのお父さんがブルーなんて外人みたいなのは絶対にダメでやっぱり偉い占い師さんに名づけてもらわないといけませんと「鱗」と決めました。若夫婦には「ありがとうございます」以外の返事は許されませんでした。その子供は「リン」と呼ばれることになりオトコは「リンってのも外国人みたいだけど」と思いましたが黙っていました。

 

4人で暮らし始めていろんなことがギクシャクしてきました。オンナはリンのことで忙しくてイライラしたりブルーのご飯を忘れたり。夜中にリンが泣くとオトコは明日仕事なんだよゆっくり眠りたいからなんとかしろよ。オンナはそんなこと言うならアンタが寝かしつけてよとますますリンは大きく泣いてオトコは飲めなかったお酒をグビグビするようになりました。ブルーは泣き止ませようとリンを舐めたりしましたがオンナは猫の毛が口に入ったらどうするのと叱りました。そんな風にオトコとオンナは毎晩言い争うようになりました。子供はお金が必要だからもっと稼いでよ。そんなこと言ってもタクシー業界は不況だから大変なんだよ。大変の割にはお酒の検査で仕事ダメになったりアンタいい加減ね。リンの夜泣きがうるさすぎて飲まなきゃ眠れないの。ブルーは本当に困りました。ご飯を忘れられても仕方ないかなと思ったり。もうずいぶん夕焼けを見ていないけれどそれも仕方ないのかなと思いました。

 

そして世界はコロナになりました。誰も街に行かなくなったから誰もタクシーに乗らなくなりました。どんどんお金がなくなりオンナはお父さんにお金を借りに行きましたが占い師に大金使ったから無理だと断られました。もうオトコとオンナはケンカする気力もなくなりました。オトコが日雇いで稼いだお金を少しずつ使いながらただ世界がよくなることを祈りながら先の丸くなった鉛筆でその日その日を塗りつぶすように暮らしていました。

ブルーは家出することに決めました。自分のご飯のお金がみんなを苦しめるのはすごく嫌だと思ったのです。

 

初めての外の夜の世界。寒くて固くて怖くてブルーは大きな家のエアコンの室外機の裏でじっとしていました。ボロアパートの陽だまりを思い浮かべてオトコとオンナが笑っているところを思い出して少しだけ暖かくなるような気がしました。

 

お腹が空いたブルーがウロウロ歩いていると強そうな大きな猫が声をかけてきました。「ねーちゃん。オマエ捨てられたんだろ?見りゃわかるよ。いかにも自動的に飯食えてた猫って感じだ」「私はブルーといいます。家出したんです」「まあ細かいことは話さなくていい。野良猫なんてみんな訳アリだからな。それより腹減ったろ。ついてきな。いいゴミ捨て場教えてやるから」「ありがとうございます。アナタのお名前を教えてください」「あのな。野良猫に名前なんてねーんだ。まあたまにエサくれるおばちゃんがキジって呼ぶからキジでいいよ」「キジさんはずっと外で暮らしてるんですか?」「いや。オレも人間と暮らしてたよ。まあなんだかんだあって捨てられたけどな。古い話だしいまさらゴタゴタ言ってもな」

キジの教えてくれたゴミ捨て場でブルーはむしゃむしゃ食べました。キジは笑いながら「ここ。月曜と金曜だけ。あとはエサのおばちゃん次第だな。喉乾いたら水はペットボトルの残りか雨水。まあ慣れるさ。慣れるしかねーつーか」

 

しかしブルーはちっとも慣れることができませんでした。腹ペコの猫たちにいつも押しのけられておばちゃんのご飯もゴミ捨て場も最後の最後にやっと食べられるだけでした。寝る場所もブルーにはナワバリが難しくて室外機の裏の固い地面で眠りました。

 

ある日キジが言いました。

「ブルー。オマエはムリだな。野良猫じゃやってけないよ」

「でも。慣れるしかないんでしょ?」

「あのな。野良猫をまとめて面倒見てる人がいるんだ。

いい人たちだよ。そこで暮らしながら新しい飼い主探してくれるんだ。オマエは見た目がいいから運もあるけどまた自動的にご飯の暮らしできそうだぜ」

「どうすればいいんですか?」

「うん。教えてやるよ。見つけてもらいやすい場所があるんだ。そこで悲しそうにしてりゃきっとうまくいくよ。

ただ。気をつけなきゃヤバいのがある」

「それは?」

「オレたちはヤクショって呼んでんだけどさ。

噂じゃヤクショに連れてかれた猫はヤバいらしい」

「ヤバいって?」

「噂だよ。噂だけどヤクショに行った猫は死んじゃう」

 

いまブルーは新しい家で新しい人間と暮らしています。

暖かくて優しくて美味しいご飯でしあわせです。

ブルーはキジが最後にふざけて言ってたことを思い出します。

 

「保護猫保護猫過保護猫。

里親いなけりゃヤクショがバン!

達者でなブルー。美人は得だぜってな」

 

ブルーはキジに「一緒に行きませんか」と言ったのですが

キジは首を振って断りました。「オレなんておっさんだし人相悪いから飼うやつなんていないよ。それにさ。オレは気ままな野良猫の方が好きなんだ。誰にも向き不向きってのがある。ブルーは綺麗なお目々で飼い主喜ばせるのが合ってるよ」

 

詩人は思いました。

レインはしあわせなのだろうかと。

本当はずっと野良猫がよかったのかなと。

レインを保護した人たちは

「ものすごく暴れる手間のかかる黒猫って有名だったの」と言ってたことを思い出しました。

その辺のところをレインに訊いたけれど

眠そうに小さくにゃまままと言いました。

 

おしまい。

 

 

100匹の黒猫物語 No.9 ミックとジャガーの場合

 

黒猫のミックと黒猫のジャガーはガソリンシティのはずれにあるレコード屋で暮らしていました。その「オンボロレコード」はいつだってご機嫌な音楽が古きよきステレオから大音量で流れていました。ミックとジャガーはいい音楽ならなんでも好きですが特にロックンロールが好きでした。

 

右側のスピーカーの上にはミック。

左側のスピーカーにはジャガー。

いつも8ビートに合わせてしっぽでリズムをとっています。

「アィキャン ゲッノー サティスファクション!」

「デイトリッパー! ピピンッピピン イエー!」

「おいジャガー。縄張りのパトロールの時間だぜ」

「オーライミック。

今日こそエアロとスミスの野郎とケリをつけようぜ」

オンボロレコードのマスターが笑いながら言います。

「あんまりムチャをしないようにな。

ロックンロールというのはな。

実はラブアンドピースなんだからさ。

ほら。ラジカセとマタタビ。なめすぎないようにな。

それと帰りにお使いしをしてきてくれ。

封筒に地図を入れておくから。

頼んだぞ。じゃあ気をつけてな」

 

店を出るとすぐにミックとジャガーはトラックの下に潜り込んでさっそくマタタビをなめます。

「おー。コレは効くな~。上物だな~」

「あー。気持ちいくてダルい。

こりゃファイトはムリだな」

「おー。ちょっとBGMをチェンジしよう。

ザ・フーはやめてレゲエにしよう」

「いいねー。ボブマーレー。ノーウーマンノークライ」

 

ふたりは公園の穏やかな陽射しの中でだらだらとなんの役にも立たない話をしています。

「なあ。エアロとスミスとさ。ケンカをやめてさ。 

4人でロックバンドを組むってのはどーよ?」

「てんでダメだ。ボーカルが4人じゃ

ゴスペルでシャワワワワーだよ」

「なあ。この前ココで逢ったチビ猫は

愉快なヤツだったよな」

「ああ。レインだろ。ひとり旅のレインちゃんな」

「にゃままま~でさ」

「レインってばどんな曲でも

ホンキートンクでにゃままま~って唄うんだもんな」

 

どうやらレインは着実に「足跡」を残しているようです。

 

「最近マスターはギター弾かなくなっちゃったな。

オレはマスターの音もフレーズも好きなんだけど」

「だね。でもギターは売ったらしいぞ。

レコードが儲からないからさ。CDもダメ。

マーシャルアンプも売ったはずだ」

「そうかあ。チカゴロはみんなダウンロードだもんな。

猫もしゃくしもスマホでミュージックだもんな」

「うん。でも『しゃくし』ってなんだ?」

「知らねーよ。喰ったコトないし」

「ハラ減ってきたから帰ろうか?」

「あ。オレたちはマスターにおつかい頼まれてたぞ。

どんなお使いか地図見てみようぜ」

 

それは地図ではなくて「手紙」でした。

 

「ミックとジャガーへ

悪い知らせだ。オレはロックバカで商売がヘタだからついにレコード屋がつぶれるコトになっちまったよ。ココより暑くて安い南の方で再建しようと想ってる。オマエらも連れて行きたいけれどその土地はネコには不向きな土地なんだ。遠いから何度も飛行機に乗って砂漠を歩かなきゃなんない。オレひとりでもたどりつけるかどうか怪しいんだ。

 

ミック。ジャガー。

電話もガスも止まっちゃったけれどステレオだけは生きているからいつものようにそこにいなさい。ちょっと待ってたら『探偵』ってヒトが来る。アルバム2枚ぐらい聴いてる間に来るはずだ。そいつにすべて頼んである。『レインのコト』を訊きたがるから知ってるコトはぜんぶ話すんだよ。きっとよくしてくれる。これからはレインハウスの黒猫たちとなかよくやるんだぞ。

 

なにも心配するな。

なにも恐れるな。なんてったってオマエらは

ガソリンシティ最強の黒猫ブラザーズなんだから。

 

マスターより ありったけの愛をこめて」

 

店のシャッターの前にはステレオとふたりが大好きなレコードが10枚ありました。ミックはローリングストーンズの「愚か者の涙」をかけました。泣きそうだったけれどジャガーはくいしばって我慢をしました。

レコードは時々キズでぷちぷちと音がします。

その音は「マスターのいきざま」そのものでした。

 

ブイーン。

月日が流れます。

はじめは不貞腐れていたミックもジャガーもいまではみんなとなかよく暮らしています。レインハウスでバンドのメンバーを募集したのですが応募はレインだけでした。ふたりは仕方なくドラムとベースをやりレインに唄わせています。レインは歌詞を覚えずになんでも「にゃままま~」とシャウトします。みなさんがご存知のようにその音程にはいささか問題があります。ミックとジャガーがギターを弾かずにドラムとベースをやっているのはいつかマスターがギタリストとしてバンドでギュイーンとやるためです。

 

おしまい。

100匹の黒猫物語〜NO.8 ノイズの場合

 

中世ヨーロッパにこんなおふれが出されました。

 

「善良なる国民に告ぐ。

最近我が国では魔女という恐るべき存在が跋扈している。魔女とは教会を裏切り悪魔と契りを交わした唾棄すべき存在。天災・病気などすべての不幸は魔女の仕業である。魔女たちは治療・占い・まじないと称しさまざまな恐るべき悪魔の呪術でニンゲンを堕落せしめる。その魔女を支えているのが黒猫。また魔女が黒猫に化けている場合もある。

 

善良なる国民に告ぐ。

魔女・黒猫を見かけたら即刻王国親衛隊まで通報せよ。教会の厳正なる裁きのもと魔女には死の鉄槌が下されるであろう。また魔女や猫をかくまったりした者にも死の制裁を下す。

 

善良なる国民に告ぐ。

魔女・黒猫は神が作りたもうた清らかな世界に絶対に存在してはならない『ノイズ』である。『ノイズ』は徹底的に排除されてしかるべきである。神の名の元に」

 

(かんじがよめないこどもたちへ。

「まじょ」が「わるもの」と、きめつけられていたじだいがありました。まちにわるいことがおこると、ぜんぶまじょのせいにされました。そしてクロネコはマジョのなかまとて、いっしょにしけいになりました)

 

こんな立て札が街中にあふれ「魔女裁判・黒猫狩り」がおこなわれていた時代がありました。

詩人はその古い記録を読み思いました。

 

「レインがもし時空を超えて

この時代に紛れ込んじゃったらかなり危険だ。

好奇心旺盛なレインがタイムマシーンに乗って

街をウロついてたらかなりヤバい。

もし愚かな妄信者に捕まったら

にゃままま~じゃすまされない。

なにか手を打たないとマズいぞ」

 

そこで詩人はタイムトラベラーのチカラを借りて中世のヨーロッパ中に「レインハウスの張り紙」を貼るコトにしました。

 

「黒猫レインを探しています。

しっぽが長くてにゃままま~と鳴きます。

情報提供者には20億ユーロとカツオフレッシュパック食べ放題。また魔女狩りで追われている黒猫さんたちも安全なレインハウスで暮らしませんか?気軽に詩人まで連絡ください。夜中でもOKです。合図のノックはコン・コン・ココ・コン」

 

ある嵐の夜のコトです。

すごくハデな雷鳴が響きました。空が割れたようなすごい雷です。もしかすると本当に空が割れちゃったのかもしれません。雷が鳴って大雨がザーッとふって強い風がビュンと吹き抜けると一瞬すべては静まりかえりました。

 

コン・コン・ココ・コン。

ノックの音がしました。

レインハウスの黒猫たちは不安気にドアを見つめています。

詩人はドアの向こうに話しかけました。

 

「どちら様ですか?

オレはレインハウスの詩人だよ」

「わたしは黒猫ノイズ。

張り紙を見て魔女狩りから逃げてきた」

「おー。長旅ご苦労さん。さあ中に入って」

「いや。簡単には入れない。

我々は長きに渡り迫害さけ続け疑り深くなっている。

信じられるまで入るコトはできない」

「わかった。いまさ。

我々って言ったけどたくさんいるのか?」

「いや。わたしひとりだ。

でも正確にはひとりではない」

「ん?ひとりだけどひとりじゃないの?」

「わたしは魔女狩りで処刑された黒猫たちの

行き場をなくしたタマシイの集合体だ。

魔女狩りの生き残り黒猫ノイズのカラダを

借りてわずかな希望に賭けてココに来た」

「そうか。ずいぶんヒドい目にあったんだな。

ところでノイズさ。

そのたくさんのタマシイの中にレインはいるのか?」

 

想ったよりずいぶん深い穴に石を投げてしまったようです。

なかなか「音」がかえってきません。

 

「いや。レインはいない」

「ふひー。よかったよ。

それがわかっただけでもいい。

約束のカツオフレッシュパックをあげるからさ。

ってたましいの人数分あるかな?」

「我が名は黒猫ノイズ。

たくさんのタマシイの集合体。

実体は1匹だから心配は無用。

それより本当にココは安全なのか?

本当に黒猫たちがなかよく暮らしているのか?

レインハウスの黒猫たちと話して確かめたい」

「りょーかい。好きなだけ話すといいよ」

 

「オレたちはハリーとケーン。

こんな嵐の夜に生まれたんだ。 

町に嫌われて追い出されて大雨の夜ココに来た。

それから毎日フレッシュパックを食べてるぞ」

「暖かいミルクティーがありますよ。

甘い飲み物は安心しますからたくさんどうぞ。

お砂糖たくさん入れましたよ」とアールとグレー。

「ヨーロッパの神様ってイカサマなんだね。

用心棒は強いから言いつけて

神様をぶっ飛ばしてあげるよ」とダイス。

「ワタシは過去のコトをぜんぶ覚えています。

あなた方の痛みを忘れたりしません」とシルバが言います。

そんな風にレインハウスの黒猫たちはドア越しにノイズと話しました。

 

「ありがとう。よくわかった。

わたしもココで暮らしてみたい」

「お。やっと信じたか。でもそれぐらいでいい。

信じた人間に裏切られて捨てられる猫も多いしね」

 

ノイズのカラダにはたくさんのキズがありました。石をぶつけられたキズ。疑われたキズ。追われたキズ。差別されたキズ。友達の黒猫や大好きな魔女が火あぶりで殺されたキズ。

黒猫エルは優しくノイズのカラダをなめました。ゼリーとロボはクスリや包帯の用意をしました。ムーンは静かな唄をゆっくりと唄いました。詩人はどうしたらいいのかよくわからなかったのでとりあえず「魔女の宅急便」のビデオを流しました。

 

いまではノイズはキズもすっかり治りみんなとなかよく昼寝坊しています。詩人にレインのことを聞いてノイズは思いました。「レインは呪文を覚えたがったりホウキに乗りたがるだろう。レインが帰ってきたら魔女に習った蝶々を捕まえられる呪文を教えて空を飛び回って世界の果てまで冒険に連れて行こう。でも。レインがどんなにねだっても。あの時代だけはダメだ」

 

詩人はレインハウスの裏口でイライラしています。

「好きで黒猫に産まれた訳じゃないのにな。猫は自分が白でも黒でも茶色でもどーでもいいのにさ。黒猫は不吉だっていじめたりさ。逆に黒猫だからってだけでブランド的にありがたがったりさ。人間つーのはいつの世も身勝手でゴーマンだ。猫は裏切らない。裏切るのはいつだって人間だ。火あぶりなんてよく思いつくよな。てめーが悪魔そのものじゃねーか。でも中世だけじゃない。ペットショップで売れ残った猫を賞味期限切れだからって山に生き埋めにする奴らもいるしな。買う奴も売る奴もどーかしてるぜ。そーいうのが黒人差別とかになるんじゃねーのか」

いつの間にかノイズは詩人の影の上に座っています。いつもより影は黒く濃いなと思いました。ノイズは詩人のタバコに火をつけようとしたけれけどやめました。詩人の涙でタバコが消えると思ったからです。

 

おしまい。

 

*中世のヨーロッパではキリスト教会が「異端信仰者」を「魔女」として拷問処刑が繰り返されていました。悪天候や農作物の不作などもすべて魔女の仕業として彼女たちを(男性も20%)迫害弾圧しました。(数十万~数百万人が処刑)この時にネコを「魔女の使い」として一緒に火あぶりにしました。たくさんの猫がいなくなってしまったのでネズミを媒介とするペストが14世紀に大流行した一要因といわれています。

参考資料/「プロファイル研究所~魔女裁判」

(現在このサイトは閉鎖。原因はある団体からの迫害)

 

100匹の黒猫物語

 

No.6 アールとグレイの巻

 

黒猫のアールと黒猫のグレイは夫婦です。

結婚したのはすっかり忘れるぐらいずいぶん前のコトです。

ふたりは幼い頃からずっと「小説家のお屋敷」で暮らしていました。小説家は猛烈な人間嫌いでしたから使用人などは雇わずに身の回りの世話などをアールとグレイに頼んでいました。

 

「おーい。アール。今日は何曜日だったかな?」

「水曜日ですよ。旦那様」

「おーい。グレイ。昨日の夕食は何を食べたっけ?」

「お魚を焼いて食べましたよ」

「そうじゃ。アールに今週の給料をあげなくちゃだな」

「旦那様。朝にもらいましたよ。うふふふ」

「そうじゃ。グレイに老眼鏡をプレゼントしなきゃだな」

「旦那様。先月に上等なのを頂きましたよ」

「そうか。アールよ。暖かい紅茶を頼む。

えーと。ミルクを」

「かしこまりました。濃いめのアールグレーに」

「ミルクをたっぷりですね。旦那様。いつものように」

 

朝になると小説家はアールの持ってきた新聞を読みます。

グレイはカリカリベーコンとゆで卵を作ります。

昼になると小説家は小説を書きます。

パイプで刻みたばこを吸いながら小説を考えます。

アールとグレイは日溜まりの中でお昼寝をします。

夜になると小説の仕事は終わります。

グレイの焼いた魚を美味しくゆっくりと食べます。

小説家は食事をしながらアールとグレイに「小説への意見」を聞きます。

 

「旦那様。少年が事件を起こすまでの経緯をもっと詳細に」

「旦那様。伏線のイヤリングですが

落ちている場所がどうにも不自然です」

「ふむふむ。なるほど。ありがとう。アール。グレイ」

眠る前にはミルクティーを飲みます。

そしてベッドの上で3人は寄添ってぐっすりと眠ります。

 

たまに小説家は夜中に飛び起きます。

「アール。万年筆!おもしろい夢をみた。

急いでメモしないと忘れる。小説になるぞ!」

「グレイ。やわらかいものと言ったら何を連想する?」

「うーん。焼きたてのパンです。それと安全な毛布です」

 

3人は誰にも汚されずに屋敷の中でしあわせでした。

 

しかし。

残念ながら哀しい哀しい事件があります。

旦那様が天寿をまっとうし死んでしまったのです。

「めそめそ。旦那様。いままでありがとうございました」

「しくしく。旦那様。静かに安らかにお眠りください」

お葬式はアールとグレイがひっそりとやりました。

 

ふたりが泣きながらお祈りをしているとむかし小説家に勘当されたロクデナシのバカ息子があらわれました。

「おい。オレのオヤジが死んだそうだな。

葬式に来てやったたぜ」

バカ息子からは下品なニオイがプンプンしました。

「おい。オレはな。オヤジのひとり息子だぞ。

だから相続権はオレにあるんだ。

遺産はぜんぶオレのモノだ。

おい。預金通帳はどこだ?

この屋敷はもう売ってきたからな。

マンションを建てて株をやってオレは儲けるんだ」

金庫を勝手に開けたり遺品を乱雑に品定め。

「この薄汚いパイプはゴミだな。買う奴はいねーな。

こんな万年筆なんかもゴミだな。売れっこねーな。

ダサいデザインの紅茶セットだな。これもいらねーや」

「バカ息子様。ちょっとお待ちください。

それらの品々は旦那様がこよなく愛された物です」

わたくしたちのしあわせの象徴でもあります」

「けっ!なに言ってんだか黒猫のくせに。

おい。じじい。ばばあ。

じゃあこれをくれてやるから出て行ってくれ。

立退料だよ。いままでのオヤジの世話代だよ。

オレは親切だろ?普通ニンゲンはな。

ネコになんぞに礼はしないけどオレは義理堅いからな。

紅茶セットは高く売れるぜ。退職金代わりだ。

遠慮せずにうけとんな。

アシタからお屋敷は取り壊し工事だからな。

とっとと好きなところに行きな!」

 

(よいこのみんなへ。

このバカ息子は数年後に株で大損をして悪いオンナにだまされズタボロになります。材料費をケチった粗悪な手抜きマンションは入居者に多額の損害賠償金を支払うことになりどーにもこーにもならなくなりました。のたれ死んだ・地獄に堕ちた・闇金の借金返済のために内蔵を売り飛ばされたなど噂になりましたがそんなの知らねーなって感じです。みんなは黒猫にもお年寄りにも親切に自分さえ儲かればいいなんて人生にしないようにね)

 

アールとグレイは途方に暮れました。

裁判も考えたのですが旦那様はそれを望まないような気がしました。もしやったとしても判決が出るまでに「たくさんの時間」がかかります。ふたりはそれまで生きていられるかわかりません。

「グレイ。どうしましょう?

わたしたちいまさらノラ猫でやっていけるでしょうか?」

「アール。とにかくこの屋敷を出よう。

ワシはここが壊される工事なんか見たくないよ」

「ねえ。グレイ。

わたしは公園で暮らしたっていいけれど

もしアナタが先に死んでしまったら

もう生き甲斐はありませんよ」

「それはワシも同じだ」

 

ふたりはトボトボと歩き出しました。

夜は濃く深く寒くとても寂しいです。

旦那様の想い出の品が入ったカバンは

鉛のカタマリのようにひどく重く感じました。

月明かりが路上にふたりの影を長く長く伸ばします。

 

(よいこのみんなへ。ふたりはもう高齢だし真夜中の寒い夜道を長く歩かせたくありません。だから作者は都合よく下記の張り紙を発見させることにしました)

 

「黒猫レインを探しています。情報提供者募集中!

レインハウスではチビ猫たちの

しつけ係の黒猫夫婦も募集中です。

ワケアリの黒猫は気軽に連絡してください。

カツオフレッシュパックも食べ放題。詩人より」

 

アールとグレイがレインハウスにやってきてから3時に「お茶の時間」をみんなで楽しむようになりました。

「ゼリー。お砂糖を入れすぎないように」

「ロボ君。干しぶどうを残したらいけませんよ」

「ハリーちゃん。手は洗いましたか?」

「ミック。もう少しボリュームを下げて」 

 

「いやー。詩人としてはビックリだよ。

あのワンパクとオテンバどもが

アールとグレイの言うコトは聞くんだもんな。

来てくれて本当によかったよ。

みんなどんどんナイスな黒猫に育っていくよ。

とにかくコレでオレも詩を書く時間がたっぷりできる。

でも問題もある。

いまスランプでいい感じの詩が書けないんだな」

「詩人さん。小説をお書きになったらどうでしょう?」

「小説?オレにはストーリーなんかムリだよ。

短いコトバで精一杯だし」

「わたしたちは少々小説の心得があります」

「ここにはたくさんの黒猫がいます。

それぞれたくさんの過去や想い出を抱えています。

それをストーリーにすればいいんですよ」

「なるへそ。どうせ詩が書けないからやってみるか。

よし。じゃあ『ゼリー』のコトからはじめてみるよ。

できたらチェックしてくれよ。

ふたりがオッケーならブログに発表しよう」

 

「詩人さん。よかったらこの万年筆で執筆していただけませんか?」

「いいねー。書きやすそうな立派な万年筆だ。

なんだか名作が書けそうなペンだな」

「詩人さん。たまにはパイプでタバコをどうですか?」

「いいねー。なんだか『小説家の先生』ってカンジだな」

「詩人さん。ありがとうございます。

わたしたちはとてもしあわせな年寄りです」

 

アールとグレーのアドバイスがなければ

詩人は今日も「詩が書けねー」と万年床で苦しんでいたコトでしょうね。

そして黒猫物語を思いつくこともなかったでしょう。

 

おしまい

100匹の黒猫物語 No.5 エル

 

 

黒猫エルは「占い館」のネコでした。

「水晶玉の横に黒猫を飾ったら神秘的なムードでオレは占い師としてもうかるだろうぜ」

占い師はそんな軽い気持ちでエルを拾ってきました。

 

占い師は人使いが乱暴で大酒飲みでした。

「うぐぐぐ。二日酔いで気持ちが悪い。

おい。エル。水を持ってこい。

そしたらいつものように水晶玉を磨くんだぞ。

日が暮れたら看板の電気をつけて玄関の掃除だ。

それとスーパーマーケットに行って買い物をしてこい。

グズグズするな。

オマエはオレのおかげで暮らせるんだぞ」

 

エルはL字型に曲がったしっぽに

カゴをぶら下げて買い物です。

スーパーのレジのおばさんが今日もオマケしてくれました。

「エルちゃんも大変ね。

占い師も酒飲まなきゃいいヒトなのにね。

じゃあコレはエルちゃんに

お駄賃のミルクキャンディーね」

 

占い師はこんな調子でだらしがなかったので

エルのご飯をいつも忘れてしまいます。

でも占い館に来るお客さんが「お供え物」といって

食べ物をくれるのでなんとかなりました。

「雨に濡れないところで暮らせるだけでもマシだわ」

そんな風にエルは自分で自分を丸め込んでいました。

 

とにかく占い師はいい加減なオトコですから

いままで「1度も占いを当てたコトがない」のです。

それなにのにこの占い館は大繁盛。

週末にはたくさんの悩み事を抱えたヒトの行列もできます。

 

「あの占い師の言うコトはは100%ハズレだ。

だからアイツの占いの『正反対』をやれば

必ずうまくいく」

そして実際にその通りだったのです。

 

占い師はもうかったのですが

毎晩キャバレーで飲んでしまいます。

「うひー。おねーちゃんは美人だから

タダで占ってやるよ~ハイ手相。

ってお手て触っちゃったもんね~間接キッス!!」

 

マジでムカつく野郎です。

 

ある日。スーパーマーケットの帰り道。

エルは公園でアゲハチョウと

鬼ごっこをして遊んでる黒猫を発見しました。

樹の上からジャンプ! 

ひらりと逃げるアゲハチョウ。

油断している黒猫のアタマにリボンのようにとまったり。

「きっとこのネコは酔っぱらいの水も

玄関掃除もしないんだわ。

雨が降ったら濡れちゃうだろうけれど

自由気ままにやってるんだわ」

 

うらやましくなったエルは黒猫に話しかけました。

「ねえ。ミルクキャンディー食べる?」

「にゃままま~」

「ねえ。鬼ごっこっておもしろいの?」

「にゃままま~」

「ねえ。アナタのお名前は?」

「レイン」

「あ。もう日暮れだ。帰らないと叱られる。

レインちゃん。また逢えるかな。逢えるよね?」

「にゃままま~」

 

「遅いぞエル。道草を喰ってたな。たるんでるぞ」

エルは大急ぎでブラッシングをして

水晶玉の横に座ります。

今夜もたくさんのお客さん。

「離婚した方がいいですか?」    

「うむ」(じゃ離婚なしだ)

「株を買った方がいいですか?」   

「ダメ」(じゃ買いだな)

「旅行は南か北かどっちがラッキー?」

「北」(じゃ南だね)

 

その日の最後のお客さんは探偵でした。

「あのう。わたしは探偵です。

黒猫レインを探しています。教えてください」

占い師よりも先にエルが答えました。

「わたし知ってます。今日公園で逢ったわ。

アゲハチョウと楽しそうに鬼ごっこをしていたわ」

「え?本当かい?どんな鳴き声だった?」

「確か。にゃままま~だったわ」

「レインかも! 

仕事が終わったらもっと詳しい話を聞かせて下さい」

 

占い師が大声を上げました。

「エル。その探偵は悪者だ。

絶対について行ってはならんぞ。不幸になる」

「ホント!それがアナタの占いね! 

じゃあわたしはついていきます。

統計的にみてもあなたが『ダメ』と言うのなら

行くべきでしょう。

いままでお世話になりました。

コレはスーパーのポイントカードです。

あと20ポイントでワインが半額で買えます。

じゃあさようなら」

「ちょっと。待ってくれよ。

オレはひとりじゃ占いできないよ。

エル。ココにいればオマエは

絶対しあわせになると占いに出た」

「占い師さんさようなら。

燃えるゴミの日が変わったので注意して下さい。

さあ探偵さん。まず公園に行ってみましょう」

 

公園にレインはいませんでした。

かわりに遊びくたびれて

眠そうなアゲハチョウが言いました。

「レインね。なんでも大冒険の途中らしいよ。

寒くなる頃には必ずレインハウスに戻るってさ」

エルはしょぼくれました。

「探偵さん。お役に立てなくて申し訳ございません」

「いいよ。この情報はきっと詩人が喜んでくれるよ。

よかったらレインハウスで暮らそうよ。

カツオフレッシュパックも食べ放題だよ」

「あの。フレッシュパックってなんでしょうか?」

 

そしてエルはレインハウスで暮らすコトになりました。

たくさんの仲間と鬼ごっこをしたり

昼寝坊したり楽しい毎日です。

詩人のおつかいでミルクキャンディーや

フレッシュパックを買いにいきます。

以前と違って「酒ビン」がないので

カゴが軽くてラクチンです。

いま。エルは想います。

「乱暴で酔っぱらいでバカなオトコだったけれど

占い師に拾ってもらったからいまがあるんだ」と。

だからエルはお駄賃を貯めて

「水晶玉」を買ってプレゼントしようと考えてます。

感謝の意味もあるけれど

占い館のヤツは「ガラス玉のニセモノ」だったから。

 

おしまい

100匹の黒猫物語 「No.4 ダイスの場合」

 

 

「今夜はヒマな夜だなあ。

ダイス。ひと勝負するか?」

「いいけど用心棒は弱いからなあ」

「うるせーよ。本気出すからな。

オレが先に親をやるぞ。

ほれ。ダイス。ばーんと賭けろよ。

ギャラもらったばっかだからオレは景気がいいんだぜ」

「じゃあ遠慮しないでいくよ。

黒猫の第六感では4か6だね」

用心棒は紙コップにサイコロを入れてカラカラと振ります。

「勝負!あ。4じゃねーか。

ちっ。ダイスの勝ちだ」

「まいどありー」

「くそ。もう一回。

今度はダイスが親だ。取り戻すからな」

 

 

黒猫ダイスはフラミンゴ通りの裏にある「秘密カジノ」のそばで生まれました。

そこの秘密の出入り口の用心棒といつの間にかなかよくなっていました。

「ダイス。客が来た時は隠れろよ。

オマエには罪はないんだけどさ。

黒猫を見た日は『運が落ちる』って迷信を信じてるヤツが多くてさ」

用心棒は髭もじゃの坊主頭の大男。

でもダイスにはいつも優しくてご飯をくれたりギャンブルを教えてくれました。

「黒猫嫌いの客」が来た時はダイスは

用心棒のダブダブスーツのズボンに隠れました。

ダイスはなぜかズボンの中にいると安心しました。

 

用心棒は町でいちばんケンカの強いオトコです。

でもサイコロバクチにはいつも負けてばかり。

「ダイス。オレはギャンブラーになりたいよ。

一攫千金はオトコのロマンさ。

 用心棒のギャラじゃ家の女房にもガキにもいい暮らしさせてやれないからな」

 

 

ある風の強い夜。

深刻な顔で用心棒はダイスに言いました。

「ダイス。話がある。嫌なら断ってもいい。

 実はガキが病気になっちまった。

手術にカネがいる。大金がいる」

用心棒はタバコに火をつけました。

ダイスはなんだか胸がとくんとくんとしました。

「カネが欲しい。でもオレはサイコロが弱い。

 地道にやってたんじゃあ大金は稼げない。一発勝負だ。

 だから『イカサマサイコロ』を手に入れてきた。

 これから勝負に行く。ここからが頼みだ。

 オレが酔ったフリをしてちょっとした騒ぎを起こす。

 その隙を狙ってテーブルのサイコロを

 このイカサマサイコロとすりかえてくれないか?」

「ねえ。お金ならいままで用心棒から勝ったお金と

 ボクのおこづかいがあるからそれじゃあダメなの?」

「全然足りない。手術は大金がいるんだ」

 

ダイスは「イカサマがバレて痛い目をみたオトコ達」を

何人も見てきたからとっても恐い気分です。

でも。

ダイスは用心棒にはたくさん優しくしてもらったから。

 

「やるよ。きっとうまくやってみせる。

用心棒には世話になってるから」

 

ダイスは緊張しました。

とってもとっても緊張しました。

そしてダイスはしくじりました。

秘密カジノの親分に見つかってしまったのです。

 

「この黒猫!イカサマやりやがったな!

ふん。用心棒の差し金だな!野郎ども。

こいつらをやっちまえ!!」

用心棒が叫びます。「ダイス!!トイレの窓から逃げろ。

そして何があっても絶対に戻ってくるな!」

 

ダイスは一目散で逃げました。

気がついたらダイスは知らない場所にいました。

ダイスは自動販売機の上に隠れました。

三日三晩そこでじっとしていました。

「用心棒はケンカが強いからきっと大丈夫だよね」

 

 

その次の日ダイスはあるオトコに話しかけられました。

「こんにちは。ボクは探偵だけどキミは黒猫レインかな?」

ダイスは探偵の「用心棒のようなダブダブズボン」を見て涙が出てきました。

思わずそのズボンに飛び込んでたくさん泣きました。

「どうしたの?恐い目に遭ったのかい?

 レインハウスに行こう。そこには仲間がいっぱいだよ」

 

ダイスは詩人に「起こったコト」を話しました。

「よし。ここでいっしょに暮らそう。

 用心棒のコトは探偵に調査させるよ。

 そのかわり。イカサマはなしだよ」

 

探偵の報告

用心棒はたんこぶがたくさんになったが

イカサマの事情を話したら親分は許してくれ大金を貸してくれた。

ダイスが「レインハウス」で暮らしてるコトを喜んでいた。

たまには手紙でもくれ。気高く立派に育って欲しい。用心棒より。

 

レインを相手にダイスは時々サイコロバクチをして遊びます。「イカサマなし」でもレインは弱いのでいつもオヤツを巻き上げらます。たまに用心棒が送ってくれるお菓子をレインと食べています。

だから実際は「チャラ」ってカンジです。

 

おしまい

100匹の黒猫物語  NO.3 シルバとムーン

 

最初にレインハウスの住人になったのは

双子の黒猫シルバとムーンです。

夏が終わった日の次の月曜日。

昼下がりにふたりはやってきました。

 

「こんばんは。詩人さん」

「こんばんわ。わたしたちはシルバとムーンです」

「おす。ハロー。こんばんはってまだ昼過ぎだぞ。

ちょっと早いんじゃないのか?」

「わたしたちは銀色の半月の夜に生まれました。

こんばんわ」

「詩人さん。昼間の月は見えにくいけれど

消滅したんじゃありません。

いまも世界のどこかを照らしています。

こんばんは」

「ふむ。なんだかよくわかんないけど

オマエらいいコトを言ってる気がする。

おし。ゴホン。えーと。

こんばんはシルバ。こんばんわムーン。

こんな月の美しい昼下がりに

こんなむさ苦しいところへようこそ。

美しき黒猫さん。

詩人は身にあまる光栄です。

んむ。こんばんわは意外といいかも。

芸能界の『24時間おはよーございます』より

よっぽどいい」

 

黒猫シルバとムーンはふたりとも

「銀貨をふたつに割った半月形のネックレス」をしています。

 

「このネックレスは世界でたったふたつだけ」

「切り口のギザギザを合わせると満月のカタチに」

「そっか。イカしたネックレスだな。

オマエらは本当に仲がいいんだな」

 

「詩人さん。お言葉を返します。

わたしたちは『なかよし』なんて

レベルじゃないのです」

「詩人さん。光は影をつくります。

夜というのは地球の影なんです」

「磁石にはプラスとマイナスがあります」

「それはどちらがどうとかじゃなくセットなんです」

 

シルバは過去のコトはすべて覚えていますが

未来のコトはなにもわからないのです。

だから「約束」ができません。

ムーンは未来のコトはすべてわかるのですが

過去のコトはなにもわからないのです。

だから「想い出」がありません。

 

「あのさ。オレと暮らしてたレインという黒猫はさ。

 ぜんぜん神秘的じゃなくてむしろ俗っぽかったんだな。

 オマエらの話は摩訶不思議でおもしろいよ。

 まあ何を言ってるのかわかんないとこもあるけれどさ。

 もしふたりが『地球誕生と同時に生まれた』と言われても

 あっさり信じちゃう」

「詩人さん。

わたしたちはそんなに長く生きていません。

今日で5000回目の誕生日です。

そしてあときっかり5000年生きます」

 

シルバとムーンは空をみながらよくヘンテコな唄をうたっています。

 

~月ではウサギがおもちつき

そいつを食べたら目が真っ赤

シルバームーンは宵の夢

銀の半月ルナティック~

 

「なあ。オマエら。というかムーンさ。

 未来がわかるのならレインのコトを教えて欲しい」

「かまいませんがわたしの預言は

ひとりにつき1回だけですよ?

それでもよろしいですか?

この預言が最初で最後ですよ」

「なんでもいいよ。

オレはレインのコトが知りたい」

 

ムーンの預言

 

このレインハウスには張り紙をみて自ら訪れたり

探偵が探してきたり沢山の黒猫が訪れるだろう

その「100匹目の黒猫」がレイン

詩人はその100匹すべてと暮らすコトになるだろう

 

「なあ。シルバ。

月の裏側ってどんなカンジなのかな?」

「わたしは何度か月の裏側の掃除のお手伝いをしました。

いつでも綺麗に輝やくようにシルクで磨くのです。

シルクの布に息を吹きかけて

ぴっかぴかのツルツルに磨くのです」

 

詩人は古い物語を想いだしました。

湖の水面に浮かんだ月を

洗面器ですくい取ろうとした愚か者の物語を。

 

「なあ。シルバ。

銀貨ネックレスはイカしてるよな。

どこで買ったの?」

「あなたにもらったんですよ。

詩人さんが4900年前に海賊だった頃」

 

詩人は信じました。カンペキに信じました。

だって「黒猫のコトバを信じられなくなったらココロが終わり」でしょう?

 

「なあ。ムーン。

オマエらはあと5000年生きるんだろ?

その頃にはオレもレインもみんな死んじゃってるだろ。

オマエらはどこへいくんだ?

ここにとどまるのか?」

「詩人さん。さっき言ったでしょう?

未来のコトは1度しか答えません」

 

ムーンの預言通りたくさんの黒猫がレインハウスにやってきました。そして100匹目にはレインが帰ってきました。

レインも時々シルバとムーンといっしょに唄っています。

その姿はとても愛らしいのですが

レインの音程にはいささか問題があります。

 

だけどレインが帰ってくるはまだ先のことです。

 

おしまい。

あらすじ。

 

レインハウスという場所で黒猫レインと詩人は楽しく暮らしていました。ひなたぼっこをしたりふざけっこしたり同じ夢を見たり。ところがある日。レインは窓の外にプカプカ飛んでいるシャボン玉を追いかけてそのまま詩人に内緒で冒険の旅に出かけました。

目が醒めて詩人はビックリ。心配になった詩人は探偵を雇い世界中にチラシを配りました。

 

 

「黒猫レインを探しています!!! 体重4kgのグリーンの瞳の黒猫です。尻尾は長いです。にゃまままと自分の名前しか喋れません。発見者にはビッグな謝礼を。またひとりでは寂しいのでなにか事情があるワケアリの黒猫さんも大歓迎です。カツオフレッシュパック食べ放題です」

 

これはレインハウスを訪れた「ワケアリの黒猫たち」の物語です。

 

 

100匹の黒猫物語 No.2 ハリーとケーンの場合

 

 

ハリーとケーンがレインハウスにやって来たのは大雨の夜でした。

「おーい。詩人っているかー?」

「よーい。黒猫ハリーと黒猫ケーンがやって来たぞー」

 

詩人は門を開けました。

「どうした?こんな大雨の日に。
ずぶ濡れで風邪をひくから早く中に入んな」

「ふん。こんな雨ぐらいどうってことないぞ。

 オレたちは嵐の夜に生まれたんだ」

「そうだよ。大雨なんてへっちゃらだよ」

「そうか。オマエらすごいんだな」

「なあ。詩人てアンタか?カツオフレッシュパック食い放題なんだろ?」

「20億円も食べ放題なんでしょ?張り紙に書いてあった」

「ああ。でもオレが探しているのは黒猫レインなんだよ」

「レインもハリケーンも雨降りという点では同じさ」

「そうだよ。おんなじ黒猫だしね」

「ふむ。オマエらは女の子かい男の子かい?」

「オレたちはオトコだよ」

「そうだよ。ボクらはオトコの中のオトコだよ」

「はははは。そうか。レインは女の子なんだぜ。

 でもいいよ。かまわないよ。ずいぶん強そうな黒猫兄弟だ。いっしょに暮らしたらきっと楽しくなるだろうさ。ようこそ。レインハウスへ。みんなに紹介するよ。大歓迎だ」

 

 

ハリーとケーンは嵐の夜に生まれたせいか大雨なんかへっちゃらでワクワクします。水たまりで泥遊び。
泥だらけの脚でピカピカの外車の上をトコトコ。

「あー。悪い黒猫め。またオレのベンツを汚したな!」

 

ある金曜日の夜。

「ねえケーン。あそこのマンションがもうすぐ完成するよ」

「そっか。セメントがちょうどいいかもな」

「今夜はボクが最初にセメントぷにゅぷにゅしてもいいかなあ?」

「もちろんだよハリー。この前はオレが先だったからな」

 

3日後の月曜日。

すっかり固まった「ネコの足跡のコンクリート」を発見して親方はカンカン。

「ったく悪い黒猫兄弟め。シゴトが増えて困るじゃなか!」

「ねえケーン。夢川さんちの軒下にでっかいお団子があったよ」

「それは妙だな。夢川のジジイは大のネコ嫌いだ。罠だ」

「そうかなあ。おいしそうなお団子なのに」

「ハリー。オマエ先週さ。夢川のジジイの盆栽で爪ガリガリしただろ?」

「うん。見つかって将棋の駒を投げられた。よけたけど」

「それだ。きっと毒入り団子だぜ」

「じゃあおいしくても死んじゃうね」

「そうだ。ヤバいよ。絶対に剣呑だ」

 

「ねえケーン。最近エサくれるヒトが減ったね」

「そうだな。ネコ嫌いの夢川のジジイが町内会長で地主だろ。ノラ猫撲滅運動の急先鋒だからな。みんなアタマあがんないんだよ。逆らったら立ち退きだからさ」

「お腹空いたね」

「オレたち悪さバッカしてるからしょーがないよ」

 

ある大雨の夜。

電柱の張り紙をふたりは見つけました。

「黒猫レインを探してます。情報提供者には20億円とカツオフレッシュパック食べ放題。レインハウスの詩人へ連絡ください。(真夜中でもいいです)」

 

「おい。ハリー。ここへ行こうぜ」

「うん。行こう。20億円が食べ放題だね」

「カツオフレッシュパックも食べ放題だしな」

「でもレインじゃなくてもいいのかなあ?」

「いいんだよ。オレたちは黒猫だから」

「詩人てどんなヒトかなあ?」

「詩人てのは世界どこへいっても変人て相場がキマッテル。

 でもな。詩人てのはなぜかネコが好きなんだよ」

「じゃあだいじょうぶだよね?」

「たぶんな。もしネコ嫌いの詩人だったら」

「だったら?」

「そいつはニセモノだ」

 

そんなこんなでハリーとケーンはレインハウスで暮らすようになりました。ふたりは用心棒のようにレインハウスをパトロールする仕事をやりました。

「おーい。ちび黒猫たちよ。ベンツで遊ぶ時は脚を綺麗にしてからだぞ!」

「よーい。ロボ君。セメントをぷにゅぷにゅしたら親方が困るからダメ!」

 

ふたりが「20億円というのは食べ物じゃない」と知るのは

ずっとずっとあとのコトです。レインも帰ってきて黒猫が100匹になったもっとあとです。

 

おしまい。