悩んだ末に選んだ道
昨年4月27日。 女流王将戦の予選で一気に3連勝して本戦入りし、女流3級から2級に昇級した。
3級は仮資格。 2級になって、晴れて女流プロと名乗ることができる。
姉は「出雲のイナズマ」の異名を持つ里見香奈女流5冠(25)。
3組目の姉妹プロ誕生としてメディアをにぎわせた。
「私には近いうちにタイトルを取りたいというのはなくて、そもそも近いうちに取れるはずはないと思ってます。まぐれで勝つのは嫌。少しずつ強くなって、いつか取れればいい」。
見つめる先の姉は雲の上の存在だが、そのまなざしには、気負いは感じられない。
「姉がとんとんと行ってるから簡単なものだと思ってたんですよ」。
しかし、いざ女流プロになるべく第一歩を踏み出した途端、認識の甘さを思い知らされた。
高校生になり、日本将棋連盟の研修会に入会した。
奨励会の下部組織であり、女流プロを目指す少女たちの修業の場でもある。
出雲から大阪市福島区の関西将棋会館までバスで6時間かけて通った。
自分が思っていたより低いクラスからのスタートとなったが、全然勝てなかった。
「こんなことではプロにはなれない」。焦りが募った。
大阪市福島区にあるザ・シンフォニーホールの近くにあります。
入会して半年後、悩んだ末に里見は研修会をやめた。
2年生になると同級生が進路の選択を迫られるのを見て、将棋以外の道もたくさん探した。
だが、どれもしっくりこなかった。「やっぱり将棋しかないかな」。
ぼそりと両親に話すと、「ぎりぎり1年たってないから大丈夫」と言われた。
自分では退会したものと思っていたのが、両親がこっそり休会にしてくれていたのだ。
約1年のブランクを経て、里見は研修会の“戦場”に復帰した。
昨年7月27日、東京・将棋会館であったリコー杯女流王座戦の本戦で伊藤沙恵女流二段(23)と対局した。
里見は当時女流1級。トップクラスとの初めての対戦だったが、終盤まで里見にも勝ち筋があった。
しかし、「強い相手だという意識が植え付けられていて、自信満々に指されてひるんだ場面もあった。そう思ってしまったことがすごく悔しい」。思い出の1局に挙げた、苦い敗戦だ。
大阪に出て来て半年。自炊をし、棋士仲間や囲碁棋士とするフットサルが息抜きになっている。