画家の話 | たゆたううた

画家の話

そのとき私は
空の色が見えなくて
下ばかり向いていたんです

自然のままでありながら
見たことのない表現で
私の心をとらえて離さないものを
私はずっとあの色を求めていたのです
あの色をこのカンバスに写しとれたら
私は筆を折ってもいいと
心の底から望んだのです

それから何度も繰り返し
それから幾度も練り上げて
それから幾重も色を重ねて
迷って悩んで苦しくて
見つめ続けて描き続けました

できあがったのは
見たこともない色
あの日憧れたものとは
似ても似つかないけれど
これが
今の私の到達点

はじめに現れたのは失望で
しかしそれを憎めない気持ちにも
同時に気づいて
そしてふと空を見上げると
燃えるような
夕焼け色が降りそそいでおりました

東の濃紺から
西の紅まで
あの日見えなかった色が
目の前に現れては消え
一瞬たりともその場に
同じ色が留まることはないのです

私はじっとそれを見つめていました
暗くなるまでずっとそれを見つめていました

胸がドキドキして
映画を見ているような刺激的な時間でした

見ることすら許されなかった
すてきな色の数々が
心に刻まれていくのがわかりました

明かりをつけて
もう一度完成した作品を見つめ直すと
重ねた色の中に
あの空のかけらを見つけました
私の憧れのかけらです

足りない色を補うために
私はまた新しいカンバスを張ります
もう一度重ねるために
練り上げるために

それは終わるためではなく
また始めるため
真っ白いカンバスに
私の理想を掲げるために