第三章

 

翌日の新聞では、

『小樽市内の水源地の上流、穴滝付近で、

一人の男性の死体が発見された。

男性は所持品から石川琢也さん49歳、

東京在住、職業は小説家、取材旅行中

登山道から足を滑らして落下し

下の岩場に、頭を打ち付けて

死亡したものとみられる。』

と地域版の小さな記事が載っていた。

 

小川原から連絡を受けた林は

隊員達に連絡を入れた。

全員驚きを隠せなかったが、

只の事故と思う人間はいなかった。

しかし、平日で仕事中の隊員達は

職場を離れて、駆け付ける事は無理の為

また週末に何時もの場所で

落ち合う事にした。

 

数日後、唄子ママからある情報が入った。

小説家らしき男が、花園町の飲み屋で

酔いつぶれて、眠っていた時に、

独り言で

なんでも、『穴滝・フゴッペ』とか

訳の判らない言葉を

呟いていたたらしい。

 

これを聞いた林は、地図班の松岡に

四代目の所持していた地図の

印が付いている場所と確認させた

すると、確かに一致した。

 

 

 

(週末の会議)

 

会議はいつもの場所(薮半)で

何時もの様に、ゆるく始まった。

 

レジャー好きの斎藤は

「穴滝は、水源地から歩いて行けば

片道2時間のハイキングコースだ。

終点地の穴滝は小さい滝だが、

滝の裏側が小さな洞窟状になっていて

裏側からも滝が見える。

途中、何か所か急峻な場所もあるので

多分そこで事件が起きたのだろう。」

 

地理好きの松岡は

「穴滝側から山を越えると

フゴッペ温泉に出る。獣道に近いが、

昔、アイヌ人が使っていた道もある。

地図上からは、これが最短距離だ。

フゴッペ温泉へ行くには

現在は車で海岸沿いを遠回りして

余市方面から行くのが通常だが、

海岸近くのフゴッペ洞窟からは、

かなり奥に行く事になる。」

 

歴史好きの伊達は

「小樽から余市を抜ける函館本線の

フゴッペ辺りの鉄道建設工事現場では、

縄文人が岩に描いた絵が、

沢山在ったそうだ

近くの忍路のストーンサークルは、

今でも保存されている。

古代ロマンを感じるな。」

 

それを聞いてた林は

「皆さん、穴滝関係の情報ありがとう。

しかし今日は

何故石川琢也が穴滝へ行ったのか?

誰が彼を突き落としたのか?

ここから考えましょう

 

唄子ママからの情報では

死ぬ数日前に酔っぱらって

『穴滝・フゴッペ』

と独り言を言ってたそうだから

 

丁度その時、永倉と小河原が

遅れて会議に加わった

警察署に行って来たみたいで

まず、小河原が

「皆さん、今回の件も警察では

ハイキングの途中に足を滑らせて落下した

単なる事故扱いでの処理となった。

しかし、我々の捜査の結果を説明し

署長にしつこく聞きだしたら

永倉さんに、こっそり

石川氏の宿泊していたホテルの部屋に

残っていた所持品の中に、

『世界のオルゴール』という題名の本と、

その間に挟まった『小さな古文書』が見つかった、

それに

なんとオルゴールの一つが見つかった

中には何も入っておらず、空だったそうだが

かなり高価な物だったらしい。

遺品を渡すため、親族に連絡したので、

後日、取りに来る予定だそうだ。

 

続けて永倉が少し興奮気味に

「そのオルゴールこそ、我々が探していた

ロマノフ王朝二つの内の一つに違いない。

とうとう見つけた!」

その言葉に、一同目を輝かせて頷いた。

小田が

「ついにやりましたね。

しかし、何故、石川氏が持っていたのか?

またどうして、穴滝まで行って殺されたのか?

僭越ながら、私の考えでは、

石川氏はアンティーク業界か、

闇のオークションか、何かの方法で

伝説のロマノフ王朝のオルゴールの

二つの内の一つを手に入れた。

そして、それが二つあることを知って

或る時、お爺さんの啄木から聞いた

小樽時代の話を思い出し

二つ目を四代目が所持している事に辿り着き

和光壮に行き、譲って欲しいと言ったが

断られ、最終的にオタモイで

四代目を突き落としてしまった。

この推測は良い線いってるかも?」

 

林が

「しかし、もしかしたら、石川さんは、

四代目を突き落とした犯人では無く

単にオルゴール好きの収集家だったかも、

まさか、オルゴールの中に財宝の在処を示す

何かが有るとは知らなかったかも?

世界のオルゴールの登場する小説を

書こうとしていた為に、事件に巻き込まれた

という可能性も?」

 

すると小河原が

「そうなると・・・

石川さんが、偶然手に入れたオルゴールは

元々ロシア人の物で、革命時にでも盗難に有っていて、

王朝の末裔がその話を何処かで聞き付け

先祖から聞いていた、オルゴールと財宝の話を思い出し、

それを奪う為、百年後に小樽へ現れた。

そして四代目のオルゴールも一緒に手に入れようとした。

これが今回の事件の真相かも知れない。」

続けて

「もし、石川さんが、まだ二つ目を手に入れられず、

それを得る為に、穴滝へ行ったとすれば、

四代目を殺した犯人が

今回も誘き出して、殺害した線も残る。

それと、もう一つの課題が見つかった

本の間に残された古文書には『龍の下絵』の上に

『古の場所・守り神・穴の奥』

と書かれていたそうだ。

これと同じものが、もう一つのオルゴール、

つまり四代目が持っていた中に入っていたら

この謎を解くために、四代目がいろいろ悩み、

地図を集め、研究していたことも理解できる。」

 

全員が静まりかえって考えていると

 

永倉が

「犯人の可能性があり、まだ動きが掴めてない人物、

残るは、和光壮を訪れたロシア人だな。

諸君、事件解明はもうすぐじゃ!

来週までに、そのロシア人を探せ!

それと残されたメモの意味も解読しろ!」

と至上命令が発せられた。

続きは来週ということで、

この日は、ここまでとなった。

 

 

(銭湯にて)

 

解散後、探検隊メンバーの内の二人

林と小田は、市内の銭湯へ行った。

隊員は皆、温泉や銭湯が大好きだ。

最近は廃業するところが増えて、

残念なことにその数は大分減った。

小樽の銭湯は脱衣所から浴室に入ると

まず最初に湯舟が配置されているつくりが多い、

蛇口が並ぶ洗い場はその奥だ。

関東系の銭湯とは逆になっている。

北前船で日本海側から入った文化の一つだろう。

 

湯舟に浸かり、奥のペンキ絵を見ながら

今日の話を振り返り、二人は語り始めた。

まずは林が

「やっぱり日本人はお風呂ですよ。

体もさっぱり、頭もすっきりですね。

大きなペンキ絵を見ると

大きな目で、物事が考えられますね。

ここは、古くからある銭湯で

北前船の船主たちも、海から上がって、

通ったお風呂です。」

 

すると小田も

「あれーえ。この絵は今回の事件を、

全部表現しているみたいですね。

あそこの中心に描かれている山

チョッと縮尺は違うが、当てはめると、

下の方にある滝は、『穴滝』

山向こうにある洞窟と岬は、『フゴッペ洞窟、オタモイ岬』

反対側の港と運河、宝船は、『運河倉庫と財宝』

少し離れた丘の上のお寺二つは、『龍徳寺と宗圓寺』

まさに、この事件のパノラマ、鳥観図の様だ。」

 

それを聞いて林が

「まさにそうですね。昔から皆の目につく

銭湯のペンキ絵として、堂々と掲げていたとは驚きです。

ここの名前も、「龍宮湯」ですから、

何か関係があるかも知れません。

すると、あの古文書の文章の意味は、

 

『古(いにしえ)の場所』とは?

縄文時代から在ったフゴッペ洞窟やストーンサークル

手宮洞窟、その間にあるオタモイ岬

江戸時代後期に、北前船が盛んになり

明治時代に、航海の安全を祈り、

榎本さんが建てた龍宮神社や、

古くから在る、龍徳寺、宗圓寺、

船主たちが立てた運河周辺の石造り倉庫

そして旧日本郵船支店、和光壮

古代の遺跡、神社、仏閣、歴史的建造物・・

が思い浮かぶ。

 

『守り神』とは?

神仏、龍、鯱、天狗・・の事で、

小樽倉庫の屋根の鯱、鮒箪笥の龍の飾り、・・

 

『穴の奥』とは?

洞窟、地下室、・・倉庫の奥

 

『龍の下絵』

小樽倉庫の奥に眠っていた、

龍の金飾りが付いた船箪笥

確かに龍に関係するもの

 

つまり、小樽倉庫の奥の開かずの間に

財宝は隠されていたということか?

 

しかし、その後、龍宮閣に移され、

もう一回、龍徳寺に移された。

すべて『龍』つながりだ。

 

古文書の謎も財宝の隠し場所も

突き止めた四代目は、

急に不安になり、今後どうするか迷い

試案にくれていた。

 

そんな時にロシアの貴族の末裔が訪れ

財宝の在処と、返還を求められ、

一時は断ったが・・・

その後、小説家の石川氏まで現れ、オルゴールを

譲れと迫られた。

これも断ったが・・・

 

しかし、オタモイへ呼び出し、

四代目を突き落としたのは誰だろう?

 

石川氏か?

ロシア人か?

 

二人とも四代目に断られ、

それでも、何とか手に入れようとしていた。

 

そうだ、ロシア人は二人組だった。

女性の方は貴族の末裔らしく、

男性の方は財宝を隠した従事の孫

さすがに彼も、榎本さんが亡くなり、

財宝の場所も移されていたら判らない。

 

おまけに、財宝の隠し場所のヒントが入ったオルゴールは

大分昔に盗まれ、諦めていたところ、

オークションで出品されたことを知り、

それを手に入れた、所有者を突き止め、

その石川さんが、小樽に来ることを知り

後を追ってきた。

ここまでは何とか解明できた。

 

しかし、もう限界だ。

のぼせて倒れる。助けてくれ!」

と言って林は湯舟を出て、脱衣所へ向かった。

 

その後を追って、小田も続いた。

脱衣所の先に外の庭に続く縁側が有る。

二人はそこに座り、体を冷ました。

小田は途中、番台でコーヒー牛乳を買ってきたので

二人でそれを飲みながら、

話を続けた。

「林さん、ここ数年で一番の推理ですよ。

思わず納得して、のぼせるくらい、聞き惚れました。

ところで、この後はどうなるんですか?」

 

湯当りした林は、体がまだ冷めやらず

「小田さんに任せるよ。

何とかしてよ。」

 

それを受けて小田は

「そうですね~。まずはロシア人ですね。

市内のホテルを当たってみますか?