風はなく遠くでスクーターの走るウィィーンという音が聞こえていた。空には夏の雲。チュルルルルと鳴く鳥、ギィーギィーと鳴く鳥。チャーは最後に何を見てどんな音を聴いたのだろう。
木曜の夜から呼吸は荒く速かった。たがまだ鼻で息をしていたので危機的な状態ではないと思った。先生からは肺に水が溜まってくると口で息をするようになり呼吸に雑音が混じってきますと聞いていたので、一晩持ちこたえたら落ち着くんじゃないかと淡い期待をしていた。ベッドへ運び、チャーを挟むように妻と俺で寄り添って寝た。
朝起きたらチャーの呼吸は荒く焦点の定まってない目が空の方を見ていた。今度は口で息をしていてこれはマズイな、凄く苦しそうだな、早く楽にしてあげたいなと思うが口に出せない。妻に気を使ってだ。
元々は妻が飼っていた猫だし、15年間苦楽を共にしたチャーに対する想いが計り知れないくらい大きいからだ。
呼吸がさらに荒くなり、時々大きく息を吸っては大きく吐く。必死だ。もう頑張らなくていいよと言ってあげる。いつ止まってもおかしくない呼吸の中、こちらの呼びかけに応えているのか、二度ほど小さく鳴いて息をしなくなった。
死は誰にもやってくる。それをどう迎えるかは分からない。死期を悟り準備が出来る人、突然やってくる死に不意にいなくなる人。俺だったら準備をしたいなぁ、いなくなる時も見送る時も。
