先週、金曜日筆者は「協創の未来~“競楽”優勝・入賞者によるコラボレーションリサイタル」に出かけてきましたので、その感想を簡単に書きたいと思います。



この演奏会は、日本現代音楽協会主催の現代音楽演奏コンクール「競楽」の優勝者や入賞者ら今をときめく現代音楽のスペシャリストたちが出演するもので、「日本の同時代音楽の“今”を知るコンサート」(同チラシ)とのこと。筆者もとても楽しみに拝聴させて頂きました。



さて、演奏会全体として最も筆者がインパクトを感じたのは、松平頼暁先生の「Dies Irae」でした。まず、コンクールの入賞者たちが一堂に会しながら、「Dies Irae(怒りの日)」を演奏するという趣向そのものが面白い。そして、作品そのものも、実に変化に富み、一筋縄ではいかない実に刺激的な内容でした。パフォーマンスやアイロニー、ダイナミズム、ヴェルディのレクイエムやショパンの葬送行進曲など古典作品の引用、各楽器のエッセンス、現代音楽ならではの洗練されたハーモニーの妙、そうした色々な要素が複合的に立体的に織り上げられており、エネルギーに溢れていました。


もし、松平先生と知らずにこの作品を聴いたならば、おそらく「いったいどんな才能に溢れたエネルギッシュな若手なのだろう」と想像したに違いありませんが、それが御年83を数えられる現代音楽界の重鎮中の重鎮であられる松平先生の新作であることに脅威を感じました。



他には池田悟さんのギターとマリンバのための「ブラウン×2運動」、福井とも子さんのギターソロのための「a color song Ⅲ」が個人的にとりわけ興味深かったです。前者においてはマリンバの表現の豊かな可能性と共にギターの斬新で力強い響きが、後者においてはパーカッションのように奏でられるギターから彩色豊かな響きが繰り出される光景が大変印象的でした。


他のいずれも、興味深い作品でしたが、最後の松平先生の作品から振り返りつつ、思い返してみると、やはり音楽はより複合的なもので、より多くの関心に対応するものであったほうが面白い、ということでしょうか。福井さんの作品でも、やはり音色だけでなくリズムや構成の面でも意外性や立体感があり、一体性があると演奏効果がより高いものとなるようにも感じられましたし、池田作品においてもマリンバやギターの様々な響きを引き出して移り変わりも見事だったのですが、二次元の映像が次々に繰り出されているような側面が多少無きにしもあらずであったかもしれません。


「現代音楽」と一言でいっても関心は様々であり、今回の作品のなかでも古典作品以上に聴きやすいものも多くありました。これは現代社会が価値観において多様化している社会であるため、当然のことではあるでしょう。しかし、それぞれの関心、より多くの問いに応えられるようなものであることによって、音楽芸術は単なる個人的な好みを超えて普遍性に到達できるという側面があることも真実だと思います。


演奏者の皆様も本当にすばらしく、特に會田瑞樹さんの鮮烈なパーカッション、山田岳さんの驚くべき表現力は際立っていました。


日本の現代音楽の豊かな未来を展望することができるような素晴らしいコンサートでした。