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熱烈峻厳なリリシズム ♪ 跳躍するダンディズム ♪♪
~ピアニスト崎谷明弘、表参道でドビュッシー・プラド・ベートーヴェン・リストを弾く~
去る2月9日(土)カワイ表参道のパウゼにて≪2011年日本音楽コンクール入賞者シリーズ≫崎谷明弘ピアノリサイタルが開催されるということで足を運んできました♪
崎谷さんと言うと日本音楽コンクール本選会でのベートーヴェンの3番のコンチェルトが鮮烈に印象に残っていますが、今日は得意のベートーヴェンをはじめ古典派から近現代のレパートリーまでもカヴァーする視野の広さと音楽センスを感じさせる充実のプログラム。
ピアニスト・崎谷明弘の真像に迫るべく、多くのファンが表参道に駆けつけました。
さて、崎谷さんがその親しみある屈託ない表情で会場に挨拶をされてまず最初に演奏されたのはドビュッシーの≪版画≫です。
この曲集はインドシナ、スペイン(グラナダ)、フランスの三つの場面に即していますが、むしろ自分はドビュッシーが愛してやまなかった広重や北斎の「版画」(≒浮世絵)を連想します。
崎谷さんの演奏は情緒に決して流されることなく、20世紀以後現代に通ずる空間性や構図を意識した立体的なものでした。
≪版画≫に続いて演奏されたのが現代ブラジルの代表的作曲家アルメイダ・プラドの≪星図≫です。
宇宙のダイナミズム、
時折瞬き流れ落ちる流星群、
南半球から垣間見える銀河の広大な光景。
そうした様々な情景が(肘全体を使って同時に大量の音を鳴らす所謂トーンクラスター奏法などの)前衛的な手法も駆使しつつピアノ全体によって表現されていました。
圧倒的なスケール感と繊細なハーモニー、そして大胆なピアニズムに魅了され、プラドのことがもっと知りたくなりました。
後半の冒頭を飾ったのはベートーヴェンのピアノソナタ第一番ヘ短調です。崎谷さんの演奏はこの名作の真価を再認識させられる極めて説得力に富んだものでした。
とりわけ、最終楽章の中間部に現れるAs-dur(変イ長調)の前後を絶した至福の一時は絶品でした。綿密に構成されつつもその一つ一つの場面に全くオリジナルなミューズの息吹が宿っていることに改めて気づかされました。
コンサートのフィナーレを飾ったのはリスト作曲≪ドン・ジョバンニの回想≫。
この作品はモーツァルトの傑作オペラ≪ドン・ジョバンニ≫の主題による編曲作品で、印象的な三つの場面がリスト特有のヴィルトゥオーソによっていわば幻想曲風に回想されています。
ドン・ジョバンニによって殺された騎士長の呪いのテーマ、
ドン・ジョバンニとツェルリーナの甘美な二重奏<お手をどうぞ>、
そして颯爽と女性を誘惑するドン・ジョバンニのアリア<シャンパンの歌>。
いずれも稀代のプレイボーイであったドン・ジョバンニの呪われた運命と才気が謳われた名作ですが、崎谷さんの演奏は通常のリストのイメージを一変する極めてドラマティックなものでした。
クライマックスの<シャンパンの歌>のテーマによる壮絶な盛り上がりも素晴らしく、演奏が華々しく終わるや否や会場は拍手の嵐、思わず立ち上がって拍手を送るお客様も居られました。
古典派から現代までを眺望しつつコンセプトもとてもはっきりした選び抜かれたプログラム。
そこにこれだけの「見せ場」を創る才能、技量、そして情熱。
また、崎谷さんは前日に39度の高熱を出され当日は解熱剤を打っての本番であったそうで、観客との一期一会を大切にされるその真摯な姿勢にも心を打たれました。
崎谷さんはパリのコンセルヴァトワールでの研鑽を終えられ、拠点をこれから関東に移されるそうですが、これから崎谷さんの演奏を拝聴できる機会が増えることがとても嬉しく楽しみです。
崎谷さん、ますますのご活躍とご健康を心よりお祈り申し上げます!
カワイ音楽振興会のレポートはコチラ(簡潔で素晴らしいレポートです♪)