あいにくの雨に気分がげんなりとしてくる。

 差している傘とブーツがまんべんなく濡らされていく。

 二人で決めた『いつもの場所』に着いた。たった数分立っているだけでこのザマダだ。

 今日に限っては完全に待ち合わせ場所を間違えた。方向音痴のキミのために作った『いつもの場所』がこうも自分に牙を剥くとは、それにもう何十回とデートを重ね、二人で決めた『いつもの場所』だというのに未だに完璧に把握していないらしく、いつも不安そうな表情で待ち合わせ場所に来てはキョロキョロと辺りを見渡していた。

 まぁ、それがキミの魅力の一つでもあるんだが。

『お待たせっごめんなさいっ、今日も遅れちゃった』

 俺に気づいた彼女が申し訳なさそうに俯いてこちらの様子をうかがっている。

『いつもの事でしょ、怒ってないよ。濡れてるけど、あんがい雨強くて濡れてるけど』

 そう言って歩き出す。自分の傘には入れてやらない。後ろで『あうあう』と落ち込むキミの姿が見なくても浮かんできます。

『う~~、ごめんね?ほんとにごめんね?』

 袖を小さく掴み、引っ張ってくる。ほんとかわいいいなコイツっ。

『ん~?怒ってないけど~?どうした?そんな必死んなって』

『怒ってるもん…怒ってるぅ』

『怒ってない怒ってない』

 繰り返すこと数往復。まぁ、カップルだったら一回はやるアレですね。

 

 いじけた。完全にいじけてますね。コレ

 

 キミが離れて歩き出した。間に入る雨がうっとおしかったから、自分の傘を畳んでキミの小さい傘にもぐり込む。

『怒ってないよ。ホントにちょっとふざけただけ』

 今度はキミが怒ってしまったらしい。少し遊びすぎた。返事が返ってこない。

 もうひと押しと行きますか。

 俺よりも頭一つ分小さいその身体を無理やり引き寄せ、持っている傘を下に下げさせる。


 雨音がさっきよりも鮮明に聞こえた気がした。でも、うっとおしさは不思議と感じなかった。

『怒ってるヤツがこんなことする?』

『……うん』

『え!?すんの?』

『え!?ちっ違うよ?しないよ!?』

『知ってる』

 自分でも意地悪そうな顔をしているのが分かる。

『ん――っ!!』

 今度はほっぺたを膨らませて睨んできた。

 ぜんっぜん怖くない。むしろカワイイ。

『あっはっは!』

『むぅ~~!怒ってるのに!おこってるのにぃ!』

 か細い手が胸のあたりを叩いてくる。

『ごめんごめん、可愛かったからさ、ついね』

 まるであり得ないことが起きたかのように目を見開き、顔を真っ赤にしてまた俯いてしまった。

『……んで、…そ……こと……、』

『ん?』

 耳を近づける。

『なんで…そんな、恥ずかしいこと、……言えるの……』

『え~~?別に恥ずかしくないよ?いくらでもいつでも言えるよ?もっかい言おっか?』

『いい!!いい!!やめてぇ!』

 傘を持っていない方の手で口を押さえられた。

『もうおこってない!おこってないから!やめてぇぇ……』

 最後の方はもうかすれて聞こえない。

『わかったわかった。もう言わないから行こうっ、ね?』

 キミの手から傘をもらう。

 空いた両手で真っ赤になったほっぺを冷やすしぐさが可愛らしくて、たまらずポンっと頭を撫でた。

 頭上に?を浮かべてこっちを見ている。やさしく見つめ返すと、恥ずかしそうに眼をそらした。

『傘、私のでいいの?ちいさくない?』

『ん?いいのいいの』

 こっちの方がキミをそばに置いておけるからね。その為なら俺の右肩が少し濡れるくらい我慢できるよ。

 さっきまで、あんなにうっとおしかった雨がとても心地好かった。

 これは、多分、キミのおかげなんだろうね。