友人から勧められて、facebookに登録した。「なんかねえ、出身高校とか、そういうので昔の友達に会えたりするよ」ミホはストローで氷をかき混ぜながら言った。駅前のコーヒーショップはごった返していて、まるで学校の食堂みたいだ。いくつかのドーナッツとドリンクをトレーに乗せた人が、空席がないかときょろきょろしている。甘いキャラメル味のドリンクは思ったよりも甘く、私はわざと氷を溶かすようにガラガラとかき回した。


「モトカレとか、会えるかも」ミホは私の目を覗き込んで、バックから鏡を取り出してリップをぬりなおした。「別に、興味ないし」きれいに色づいていくミホのうすい唇を見つめながら私は言った。「さて、会社に戻らないと、またランチしようね」ミホは大きなバッグを軽々と担いで、さっさと入り口に帰っていった。


ミホとは近くの英会話教室で知り合った。アクティブで人当たりのいい彼女は友人も多い。きっとさっきのfacebookも、沢山の友達と再会し昔話に花を咲かせながら、今の交友関係にも広がりをもたらしていくのだろう。


ソファに深く寄りかかりながらfacebookを開いた。さっき教えてもらって登録した私がぼんやりと笑っている。この顔で、ああ私だと連絡してくる人は何人いるんだろう?

出身高校、大学まで入れて、ふとミホの言葉を思い出した。モトカレは今どうしているのだろう?高校のとき二年だけ付き合った男の子。名前がすぐに思い出せなくてイライラする。あんなに好きだったのにな。ドーナッツのかけらを集めているうちにふと思い出し、名前を検索してみた。ノーヒット。もう一度、漢字で検索したら、突然彼が出てきた。


湖の畔で空を見上げている彼は、高校のとき私が恋焦がれた彼そのものだった。その途端、いろいろなことをぶわあああっと思い出した。

ただ市内をぐるぐる歩き回るだけのデートも、二人きりで夜桜を見に行ってやっと手をつないでもらったこと、彼の同級生に会ったときぱっと手を離されたこと、そしてまた繋ぎなおしてくれたこと。送ってくれた家までの道が永遠に続けばいいと願ったこと。わざと迷ったふりをして困らせたこと、突然降ってきた、彼のぬれた唇などを。


ウォールを見て、また心がふるえた。結婚指輪をした二つの手が、並んで写っていたから。「結婚記念日」そう書かれた近況、顔が写っていないのに幸せそうな二人が見える。そうか、結婚したんだ。新婚さんだ。私は落ち着こうと大きく息を吸った。

こんなことで動揺している自分が情けなくて、腰をかがめてじっとみつめていた携帯を離した。もう一度もつと、私の熱で少し熱くなっていた。

あれからもう何年も経つのに、彼はあっという間に私を高校のときの私に連れて行ってしまった。彼しか見えなくて、声を聴きたくて電話の前でじっと待っていた私を。繋がった電話で何を話したらいいかわからなくて沈黙してしまったことも。

彼のページを閉じて、私はバックに携帯をしまった。前を向かなければ転んでしまう。いつまでもついてくる彼の亡霊を振り払うように、私はドアの外の現実の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。