先日、娘たちのクリスマスプレゼントを探しに、ショッピングモールに一人で出かけた。雑貨屋を回りブーツを探し、両手に荷物を抱えていたらお店から携帯に転送電話が掛かってきた。


御予約の電話だったので、近くにあるベンチに腰掛けてメモを取りながら承り、ほっとしたら白髪の男性からにこにこしながら私をみていた。


私も、にっこりしながら会釈をして、荷物を持とうとしたら「あなた、すごくいい声しているんですね」と声をかけられた。


「あは、そうですか?ありがとうございます。」と笑うと

「声を出すお仕事ですかな、そうじゃないかな、と拝見しておりました。」と手袋を外しながら仰った。


声を出す仕事。確かにそうかもしれないな。届かない声だったら仕事にならない、どんな職種であれ。私は首をかしげた。


「お嬢さん、もし差し支えなければ、ちょっとお願いがございます」


正直、ちょっと面倒なことになったかな、と思いつつも時間が若干あったので、「はい、私でできることなら」、と伺うと


「あの、これを、一度食べてみたいのです」


老人が指差したそれは、真っ白いソフトクリームだった。


「ああ、ソフトクリームですか?これ、美味しいですよね」私がほっとして言うと、

「ちょっとねえ、一人じゃ、なんていうかね、買えなくて」老人は手袋の指先をいじりながらつぶやいた。


「いいですよ、一緒に買いましょう」

「すみませんねえ、お時間とらせまして」


私はお店の女の子に、カップとコーンのソフトを二つ注文し、一つを老人に手渡した。


自然に一緒にベンチに並び、甘くてつめたいソフトクリームをすこしづつ食べた。

「これは、思ったよりも甘いものですな」

「甘くて、美味しいですね」


しわしわの手でゆっくりとソフトクリームの山をくずしながら、スプーンですくっては嘗めている老人を見ながら、私は死んだおじいちゃんをそっと思った。「そんな甘いもん」と笑いながら、おじいちゃんは妹と争って食べる私を食べ終わるまでそっと待っていてくれた。


「家内が」


「はい?」


「家内がねえ、これを、ずっと食べたがっておりまして」


「ああ、奥様ですか?」

「そうそう、もう寒いから温かいものを食べなさいなんて僕も言ってたんですけれど、今思うとこれは冬にも合いますね」


「あはは、分ります、炬燵に入りながらアイスは美味しいんですよね」

「ほう、炬燵に」


「雪見大福とかね」


「ほう」


外は、冬の始まりを静かに語るようにちらちらと雪が舞っていて、私たちは手袋をしながらしばらく黙ってソフトクリームを舌に乗せた。


半分ほど食べてから、老人は「さて、申し訳なかった、お時間をとらせまして」と私に五千円を差し出した。


「いくらなんでもそんなに高くはないですよ」

「いやいやいい、受け取ってもらいたい」


しばらく押し問答したあと、

「じゃあ、そのお金で、いつかまた御一緒しましょう」


そういうと老人は五千円札をじっとみつめたあと、「ありがとうございます。では、ご好意に甘えます。」と言って笑った。


「なんだか、あなたに返って申し訳ないことを」何回もそういうので「いいですよ、また食べましょうね」と言って別れた。


忙しい時間の中で、なんだか柔らかい時間をプレゼントしてもらったようで、体は寒かったけれど舌の上には甘くてつめたいソフトクリームの幸せが残っていた。



あの方が奥さんをそっと思い出すように、その思いのはしっこに私がいたように、今日のこのささやかな時間を忘れないでいようと思う。