畳につっぷして寝ていたのでほっぺたに跡がついている。指でこすりながら狭い居間を見ると散らばった新聞紙の下にカビの生えたみかんの皮が捨ててあり、そんなずぼらなことをするのは自分しかなく、資源ごみのことも頭をかすめたが少量だし、と言い訳にながらみかんを新聞紙に包みゴミ箱にまるめて捨てた。
子供がいたころは二日に一回は掃除機をかけて、こたつのコードやテーブルの上の醤油差しをひっくり返さないように常にきれいにしていた筈だったのに、今はそんな幸福な残骸もなく閉めっぱなしにした遮光カーテンの隙間から入る暖かい日差しが、一直線にうちの汚さを指差しているようで不快になる。見よう見まねで漬けた大根の漬物は干からびて異様な臭気を出す。夫と子供たちがいなくなってもうどのくらい自分は一人なんだろう。何かをこぼしたような炬燵カバーの染みをぼんやり見つめていたら、祖母が入ってきた。
「あんた、いつまで寝てんの」
朝が起きれない私に代わって朝早くからこまごまと働く祖母には逆らえない。ずかずかと窓に向かって分厚いカーテンをさっと開けると、途端にまぶしい光と共に祖母が仁王立ちしていた。
「汚い部屋だねえ、なんとかしなさい今日中に」
今日中に、というのが祖母の口癖で、ぐだぐだと起き上がり髪の毛をまとめようと顔を上げた瞬間、祖母の格好が目に入った。
「げ、おばあちゃん何その格好」
「フフ、いいだろ。」
祖母はいわゆるゴスロリのような黒くて短いワンピースを着ていて、フリルがふんだんにあしらわれた裾を得意気に引っ張った。
「もう長くないからさ、好きな服を着ようかな、なんて思ってさ」
「ちょ、それでその服なの?」
祖母は少女のように頬をそめてくるりと回った。後ろには大きなリボンがついていて、ウェストは高くしまっている。私なんかよりも、ずっと美しかった。
「この服が着たくて、15キロも痩せたんだから」
もはや祖母は祖母ではなく、ただの若くて美しい知らないモデルのようだった。私が携帯で写真を撮ろうとすると、御丁寧に大きな帽子をかぶった。
「帽子はいいよ、顔が見えない」
「いいのよ、この服はこの帽子とセットなのよ」
写真を撮るとき、祖母がぽつりと言った。
「あんたさ、寂しかったなら今夜おばあちゃんと一緒に寝よう。足が冷たいから寝られないんだよ。おばあちゃんが温めてやるで一緒に寝よう」
「急に、おばあちゃんみたいなこと言わないでよ」
私は泣き出してしまった。子供のように、散らかったこころのなかで大声をあげて泣いてしまった。
「しょうがないね、あんたのなきべそはほんとうに」
祖母が帽子を脱いで、いつものエプロンをした。ひとしきり泣かせた後で甘くて熱いおしるこを作るつもりなんだろう。暗い台所で水でふくらんだ豆の状態をみる、フリフリ姿の祖母を見ながら私はいつまでも泣き止めないでいた。