庭が広く自分たちの集会場になっている大沢さんちの庭を抜けて、知り合いの子に軽く会釈しながら家に向かった。塀に登るとリビングからママが見える。ママはいつもリビングの窓の側のパソコンの前に座っているので、大概はにゃあ、とひと鳴きすれば気づいて開けてもらえる。塀の上からしばらくママをみた。うまくいけばおやつをもらえる。僕はバラのトゲに気をつけながらそうっと塀から地面に降りて、ママが見える窓に向かってひと鳴きした。
「さら、おかえり」
ママが嬉しそうに体を撫ぜてくれる。「きょうね、ララちゃんに会ったんだけれど、猫学校がこっちでね」
「そうかそうか、おなかすいたか~」
ママともパパとも言葉が通じない。でも僕はママが言っていることがわかる。僕を愛しているのがわかる。背中を強く撫ぜられて、思わず尻尾を立ててしまった。ママがしっぽの付け根を掻いてくれる。思わず目が細くなって、僕の顔を見たママが愛おしそうにおでこに音をたててキスをしてくれた。
ママの膝に乗るのが好きだ。弟がまだ外にいるので、思う存分甘えられる。弟は黒と白の模様で、去年うちに来た。甘えん坊で、いつもちょっかいを出してくる。一人じゃ寝られなくって、紐とかに目がなく、よくキッチンに登ってママに怒られている。テーブルにのぼって鶏肉を齧っていたときはさすがに注意したけれど、なんでも「あの味は一度食べたら忘れられない」という。僕にはそんな勇気がないんだけれど。テーブルに乗らない僕を見て「お兄ちゃんはチキンだね」と笑った。「俺は猫であってチキンじゃないよ」と言ったら短くため息をついて「そういう意味じゃなくってさ、」と言った。あいつとはネコ学校の教室が違うけれど、最近隣町の不良仲間とよくつるんで喧嘩ばっかりしているから、きっとチキンっていうのもよくない言葉の一つなんだろう。
僕はララちゃんとおいかけっこしたり、花のにおいをかぐ探検をしたり、体にくっつく植物をみつけたりするのが好きだ。日のあたる駐車場でごろんごろんしたり、比較的登りやすい関さんちの松の木に登って人生について考えたりするのが好きだ。それに、家のそばにいたらママが呼んだとき、すぐに走って帰れるし。
明日はちょっと足をのばして三軒むこうの庭を探検しにいこう。弟はとっくにいってるはずだから、僕とララちゃんと二人でいこう。行ったら、弟に教えてあげよう。はしごが出しっぱなしの玄関や、足跡がきれいにつく小さな畑や、きれいに色づいた柿のはっぱやなんかを、僕が最初にみつけたように話をしてやるんだ。