すぐ近くに好きでたまらない男がいるのに、私は走って会いにいけない。
ふと自分の足をみると義足だった。
誰かが車椅子に乗せてくれる。これがないと歩けない。
私は必死で車椅子に乗る。スカートのひだが引っ掛ってふとももがあらわになったが、構わず乗り込んだ。
図書館内は静かで、棚がとても高い。これでは彼がよく見えない。
気ばかりが焦って、車輪を回す手がふるえる。車椅子は難しい。へんなボタンを押して、同じところをくるくると回ってしまった。
やっと彼が見える場所に出たら、彼が誰か知らない女の子の肩を優しく抱いていた。耳元で何か囁き、彼女がくすぐったそうに笑う。
私はその場に凍りついたまま、見たくもないのに二人をみつめてしまった。
そのままふたりは私などに見向きもせず、楽しそうに広いロビーを出て行く。
こんなに悲しい恋愛があったのか。
彼は私の存在さえ知らない。
悲しくて涙が出た。スカートに小さな雨の染みができる・・・・
夢の中では私は誰かに実らぬ恋をしていて、ものすごく悲しい恋愛をしている模様だった。
確かにこの「彼」は現旦那さんじゃないし、一体誰だったんだろう。
幸せな時ほど、よく悲しい夢をみる。
ひんやりとしたキッチンの中で水を飲んだら、規則正しい彼の寝息が聞こえてきた。
こんな風に、結婚してからも、恋に落ちてしまうものなんだ。
真夜中の冷蔵庫の前で。
よく晴れた秋の空の洗濯物の下で。
一生懸命に料理する、彼の横顔を見ながらそっと深呼吸した。