生まれた時から、
その子の頬や体にはあざがあった。
母親は何度もそのあざを見つめた。
なぜ、この子には生まれつきこんな
あざがあるのだろう。
不思議だった。
けれど、その時はまだ知らなかった。
その印が、遠い昔に交わされた
約束の証であることを。
遠い遠い昔。
その子は小さな村の片隅で生まれた。
母親にとっては宝物だった。
抱きしめるたびに愛おしく、
眠る顔を見つめるたびに幸せだった。
しかし、その時代は貧しく、
人の力ではどうにもならない運命があった。
ある日。
幼い娘は家を離れることになった。
まだ四歳ほどの小さな身体。
母親の着物の袖を握りしめ、
「お母さん……」
と泣いていた。
母親も泣いた。
娘を抱きしめた。
離したくなかった。
何があっても守りたかった。
けれど時代は、その願いを許してはくれなかった。
娘は連れて行かれた。
小さな手を必死に伸ばしながら。
母親もまた、その手を追いかけながら泣き叫んだ。
「行かないで……!」
「お願い……!」
「私の娘を連れて行かないで……!」
けれど二人の手は届かなかった。
その日から母親の時間は止まった。
娘を失ったまま生きる人生だった。
娘もまた、知らない家で生きることになった。
幼い身体で働き続けた。
叱られ
暴力を受け
体のあちこちに傷ができた。
泣いても誰も抱きしめてくれなかった。
夜になると空を見上げた。
そして思った。
お母さんに会いたい。
たった一度でいいから。
抱きしめてほしい。
一方、母親は決して娘を忘れなかった。
遠くから何度も娘の姿を見に来た。
木陰に隠れながら。
誰にも見つからないように。
働く娘の姿を見つめながら。
傷ついた顔を見るたびに胸が引き裂かれた。
何もできない自分を責め続けた。
「ごめんね。」
「守れなくてごめんね。」
その言葉だけが心の中を巡っていた。
そして長い年月が過ぎた。
別れの時が訪れた。
魂が肉体を離れるその瞬間。
娘は母親の魂を見つけた。
そして微笑んだ。
「お母さん。」
「私はあなたを恨んでいないよ。」
母親は涙を流した。
「ごめんね。」
「守れなかった。」
すると娘は首を振った。
「知っていたよ。」
「お母さんも苦しかったこと。」
「本当は離れたくなかったこと。」
「ずっと見守ってくれていたこと。」
母親は祈ることしか出来なかった。
神よ、この子をお守りください。
私の腕から離れてもあなたの
手の中にありますように。
そして娘は言った。
「また会おう。」
「次はちゃんと親子になろう。」
「今度は最後まで一緒にいよう。」
母親は震える声で答えた。
「うん。」
「次こそ守る。」
「次こそ育てる。」
「今度は絶対に離さない。」
二つの魂は固く約束を交わした。
そして現代。
二人は再び巡り会った。
母と子として。
生まれてきた赤ん坊の
頬には小さなあざがあった。
それは傷ではなかった。
魂が残した目印だった。
何度生まれ変わっても。
どれほど時が流れても。
必ず見つけてもらうための印だった。
母親はその子を抱いた。
赤ん坊は静かに母親を見つめた。
まるで何かを思い出しているように。
まるで長い旅を終えて帰ってきたように。
その瞳は語っていた。
「ママ。」
「やっと会えたね。」
「今度は迎えに来てくれてありがとう。」
「ずっと待っていたよ。」
母親は理由も分からないまま涙があふれた。
初めて会ったはずなのに。
ずっと前から知っていたような気がした。
ずっと探していた誰かに再会したような気がした。
魂は覚えていたのかもしれない。
あの日、届かなかった小さな手を。
果たせなかった約束を。
バースマークは傷跡ではない。
それは、
「見つけてくれてありがとう。」
という魂からのメッセージ。
そして、
時を超えて再び巡り会った母と子の、
永遠の約束の印なのである。



