2020.07.16
さっきまでの雰囲気からガラリと変わり、ここにいる誰もが感じられる程の緊張感が走っていた。
新しい衣装に袖を通し、スタンバイをしているときに、ふと隣にいる彼女を見た。
薄暗いステージ裏で顔はよくみることができなかったが、微かに震えていた。
「大丈夫。この発表は欅坂のキャプテンの私の口から、ファンの皆さんに伝えたい」
声を震わせながら、今にも泣いてしまいそうな気持ちを押し殺しながら、彼女がどんな気持ちであの発表をしたのか。
どうして、いっしょに背負ってあげられなかったのか。
今になって後悔ばかりが浮かんでくる。
でも……いつの日にか彼女が言っていた。
「過去はさ、どう頑張っても戻ってこないでしょ?だったら私は、これから来てくれる未来に向けて歩いていきたい」
そうだ……
彼女の答えはとっくに出ていたんだ。
だったら、私ができることはただ一つ。
そう思った時、体が勝手に動いて震える彼女の手を、そっと優しく握った。
突然の事に驚き、私の顔を不安そうに見つめる彼女に、私はその不安を吹き飛ばす程の笑顔で──
ーーー
体の震えが止まらない。
次で最後の曲、これを披露し終えた時から私達のカウントダウンが始まってしまう。
「私の口から、ファンの皆さんに伝えたい」
ただ必死に、ファンの皆さんに私達の決断を、覚悟を伝えたかった。
けれど、体と声の震えが止まらずに、自分が何を話したのかを思い出すことが出来ないほど頭の中が真っ白になっていた。
ダメだ。
次の曲こそしっかりしなければいけない……いけないのに……
落ち着こうと思っても、むしろ息が上がっていく一方で、どうなってしまうのか怖くなっていた。
その時、震える私の手を暖かい何かが包み込んだ。
顔を上げると、隣にいた彼女が自分の手で私の手を握っていた。
突然の事に理解が追いついていない私に、彼女は私の不安を吹き飛ばすような優しい笑顔で
「大丈夫。友香は1人じゃないよ」
……あぁ、そうだった。
私は1人じゃない。
目の前にいる仲間たちが、隣で手を握ってくれている彼女がいた。
……菅井友香。顔を上げろ。
過去に振り向いている暇はない。未来へ歩こうと誓ったのは自分じゃないか。
自分自身の決意を思い出し、握られた手を強く握り返すと、彼女はそれ以上は何も言わずにステージに立つまでずっと私の手を握ってくれていた。
欅坂のキャプテンとして、最後まで堂々とこの坂道を登ろう。
もう一度、みんなと坂を登るために。
そして、もう一度彼女の隣にいられるように。
ーーー
はじめまして。
キャラメルスチーマーと申します。
今回から『あなたの隣にいさせてください。』の連載を始めさせて頂きます。
拙い文章ですが、お時間ある際に読んでいただけたら幸せです。
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