相続登記が、これまでの“任意”から、来年4月からは “義務化”されます。目的は所有者不明の土地問題を解決し、災害復興や街の再開発を支援すること。
法律施行前の相続も対象となることから、市民の間で関心が高まっています。

 

 

【住吉 光アナウンサー(以下:住)】長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン平家達史NBC論説委員とお伝えします。

 

【平家達史論説委員(以下:平)】よろしくお願いします。今日のテーマは将来、誰もが当事者になる可能性があるこちらです。

放置すると罰則も!不動産相続に新たな義務

【住】相続というと「その時」にならないと、意識する機会は少ないかもしれませんが、新たな義務ということは、何か制度が変わるということでしょうか?

 

【平】そうなんです。来年4月から不動産を相続する際には『相続登記』が義務化されることになったのです。実際に不動産を相続するとなった場合「知らなかった」ではすまされない制度で、市民の皆さんの関心も高まっているようです。

 

28日、長崎市と長崎地方法務局が合同で開いた相続登記に関する説明会には、30代から70代までの市民およそ180人が参加しました。主催者の予想を上回る参加者数でした。

 

なぜ参加したのですか?

60代男性:
「もう50年以上前に亡くなった叔父の土地なんですけど、調べたらどうも登記されてないみたいだと」

40代女性:
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃんがもう亡くなってて、空き家になっているんですけど、ここの登記がお祖父ちゃんのままで」

70代女性:
「夫が8年前に亡くなったもんですから、まだそのまま登記直してないんですよね」

70代女性:
「母が亡くなって、姉弟は5人いるんですけど、その5人で家があるから(相続手続きを)」

30代男性:
「不安な点もあります。義務化ということで」

 

【平】先月、総務省が長崎市で開いた合同行政相談所の相談会も『相続登記』についてのものが多かったそうです。

 

施行前の『相続』も対象に 正当な理由ない場合 過料10万円

【住】『相続登記の義務化』を具体的に教えてください。

 

【平】来年4月1日以降、“相続が発生”した場合──
不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に、
遺産分割で不動産を取得した相続人も、遺産分割が成立した日から3年以内に『相続登記の申請』をしなければなりません。

 

 

また、制度開始の来年4月1日以前の相続も対象になります。
具体的には『来年4月1日』または『不動産を相続したことを知ったとき』の “いずれか遅い日から 3年以内に申請する義務”を負います。
例えば、今日(2023年11月29日)『不動産を相続したことを知った』場合は、来年4月1日から3年以内、つまり2027年3月31日までに相続登記をしなければならないということです。

【住】来年4月1日以降の相続だけでなく、4月1日以前、現時点の相続も義務の対象になるのですね。
もし、相続登記しなかった場合はどうなるのですか?
【平】正当な理由がないのにもかかわらず、期限内に登記をしなかった場合は『10万円以下の過料』が科せられることになります。

背景には“所有者不明の土地・家屋の増加”

【住】そもそも相続というのは、その家族間の内輪の話という風に思えるのですが、なぜ義務化されることになったのですか?

【平】はい。これは相続登記がされていない、すなわち『所有者不明の土地』が災害の復興の妨げになるケースが相次いだからなんです。
長崎地方法務局の担当者に詳しい話を伺いました。

 

 

長崎地方法務局 平野孝敏首席 登記官:
近年、相続登記がされてないことによって、土地の現在の所有者が登記記録を見てもわからない『所有者不明土地問題』が顕在化していることが一つ社会問題化していると。
これによって、災害における復旧、復興作業がままならない、遅々として進まないことが問題視され『相続登記の申請の義務化』といった法整備の契機となっているところでございます。

【住】『災害からの復興』を図るためには最新の登記が必要なんですね。
【平】はい。また『街の再開発』を行う場合も、1か所でも所有者が分からないと、計画がとん挫し、街の発展を阻害するということにもなりかねません。

【住】実際『所有者不明の土地』というのは、どのくらいあるものなのですか?

2016年には九州よりも広い土地の所有者が不明に

【平】国土交通省によりますと、2016年の所有者不明土地の面積はおよそ410万ヘクタールということです。九州の面積がおよそ368万ヘクタールですから、九州よりも広い土地が所有者不明の土地になっています。
そして、このまま何の措置も取られないと、2040年には720万ヘクタールになると推定されています。これは九州ほぼ2個分になります。

 

 

【住】このままの状態が続けば、かなり深刻な状態になるのですね。

 

 

【平】長崎市のことになりますが、市は『所有者不明土地』の数を今のところ把握できていませんが『空き家』の数は市内に9,300戸あり、年々増えているとしています。

 

長期間の放置で“権利関係”が複雑になることも

【住】3年以内の登記ということですが、登記するまでの期間が長期化すると、どういった問題が出てくるのですか

【平】はい。長期間にわたって相続登記をせずに放置した結果、相続人の数が増えて権利関係が複雑になり、相続登記が困難になってしまうことがあります。
また、相続登記をしていないと不動産の売却や担保としての利用ができません。

 

 

住】なるほど、相続登記を行わないと周りに迷惑をかけるだけでなく、相続人にとっても不都合なことが起こるかもしれないということですね。
つまり、子供や孫の代のためにも相続登記が必要だということで、それが今回、義務化されたということですね。

私の実家は福岡県、いま住んでいるのは長崎県です。土地を相続しても「近くに住んでいないため、管理できない」こともあると思うのですが、その場合はどうしたら良いのでしょうか?

管理が難しい場合『国庫帰属制度』しかし審査には8か月

【平】はい。土地の管理が難しい場合の選択肢の一つとして、「国庫帰属制度」という、相続した土地を国へ譲渡する制度が、今年4月から始まっています。管理されない土地は衛生面や治安面で周囲に悪影響を及ぼしかねないことから、法務局では制度の利用を呼び掛けています。

 

 

長崎地方法務局 平野孝敏 首席登記官:
長崎で今後生活する予定がないと、ただ土地は管理をしていかなくてはいけない。近所に迷惑をかけるわけにもいかないので、例えば『草刈り』であったりとか、『木が生い繁らないように』だとか、『空き家にならないように』とか “管理”に一定の費用もかかります。その中で『国庫帰属』という形の選択も一つあるのかなと思っております。

 

 

【平】先月末までの間に「国庫帰属にできないか」という相談が、長崎地方法務局に351件、実際の申請も34件あったそうです。
ただ、帰属には “一定の要件”があり、その審査におよそ8か月かかるため、現時点で帰属が決まったものはないそうです。

相続登記は、これまで“任意”であったものの、災害復興や街の活性化の観点からは必要であり、来年から“義務化”されるのは、当然の流れだと思います。
ただ、相続に至る過程や事情は、それぞれ異なるため、その手続きは、一般の人にとっては複雑だと思われます。

法務局では無料相談を受け付けていますので、相続登記にあたっては、法務局や司法書士などの法律の専門家に早めに相談することが大切だと思います。