アニオリが多くなる単純な理由とは?

 よくTVアニメ『ドラゴンボールZ』は、アニメオリジナル(以下、アニオリ)による引き延ばしが多すぎるという意見を目にします。確かにアニオリ展開が多い『ドラゴンボールZ』。なぜそうなったのでしょうか?

 

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 簡単に言ってしまえば、TVアニメは1週間で原作マンガの数話分を使うわけですから、連載中の作品なら追いつくことは必然。そこでTVアニメではアニオリを入れることで、原作マンガと同じペースを保とうとします。

 

 現在では分割クール制が普通ですので、あまりこういった問題はありません。しかし、『ドラゴンボールZ』放映中はそういった風潮はなく、ほとんどのマンガ原作が連載中のTVアニメ作品は、番組終了かアニオリかの二択を迫られていました。

 特に原作マンガ『ドラゴンボール』はセリフの少ない流れるようなアクションシーンも多かったことから、普通の方法ではあっという間に連載のストックがなくなってしまうというわけです。

 数字で比べてみると分かりやすいかもしれません。サイヤ人編以降の原作マンガは其之百九十五から其之五百十九ですので325本。『ドラゴンボールZ』は全291話とスペシャル2本。ナイターや特番での放送中止を考慮するとほぼ同じくらいの期間です。

 ここで原作マンガの展開だけで構成して、後に製作された『ドラゴンボール改』を比べると分かりやすいかもしれません。『ドラゴンボール改』は第1期が98話、第2期が61話で、合計159話で原作の本数の半分以下でした。つまりTVアニメは原作マンガの2週間分以上を1週間で消費しています。このことからもTVアニメとマンガ原作のペースの違いが分かることでしょう。

 前作のTVアニメ『ドラゴンボール』はもともと原作のストックがあまりない状況からのスタートで、長いエピソードの間にアニオリが挟まれることがありました。しかし『ドラゴンボールZ』以降は、それまで以上に長いエピソードで区切りのない展開が多く、アニオリを挟みづらい状況だったと思います。

 大変に過酷な製作状況でしたが、アニメ製作陣は逆にこのピンチをチャンスに変えました。それは原作発表から時間を経てずにアニメ化することで、ファンの興奮が冷めないうちに製作できたことです。そのため、アニメスタッフは鳥山明先生がペン入れする前の原稿をもとに、脚本を書き、絵コンテを作り、作画を進行しました。

 それでもアニメの尺稼ぎのため、冒頭サブタイトル前の前回のあらすじに時間をかける、本来の戦闘シーンに細かなアクションを加えるなどして大幅にふくらませる、過去に関連事項のあるシーンは回想を付け加えるなどの処理をしています。この点が、本作は引き延ばしが多いと言われる原因になったのでしょう。

 しかし、こういった細々とした部分では足りないため、アニメ独自のエピソードがいくつもインサートされることになりました。

アニオリによって生まれた名エピソードの数々

 アニオリとひと口に言っても、そのなかには原作者である鳥山先生のアイデアも含まれています。たとえば原作には出てこなかったツフル人の設定や、アルバイトで野球選手となったヤムチャ、ふたりに分身して修行するピッコロなどは、鳥山先生のメモをもとにアニオリとして作られました。

 

 こうした鳥山先生のアイデアや、原作マンガでは描かれていない部分を中心にアニオリは展開していきます。『ドラゴンボールZ』で最初にアニオリの期間が長かったのは、悟空がラディッツとの戦いで死んで、あの世で修行をしていた期間でした。

 この期間、原作マンガでは2か月ほどでしたが、TVアニメでは倍の4か月ほどになっています。この時に生まれたアニオリキャラも多く、地獄の番人である鬼のゴズとメズ、北の界王に仕えているグレゴリーなどは、その後にも出番がありました。

 最もこのアニオリでクローズアップされたのが、登場したばかりの孫悟飯です。原作マンガでは過酷な環境にあっさりと順応したかのようになっていましたが、TVアニメではそこに至るまでの葛藤が丹念に描かれていました。ロボットや草食恐竜との出会いと別れは、アニオリのなかでも名エピソードと言われています。

 続いてアニオリ展開が入ったのが、ナメック星に向かうまででした。しかし、レギュラーキャラのほとんどがあの世にいる状態でしたから、ナメック星に向かう宇宙船に乗ったブルマやクリリン、悟飯を中心にするしかなく、そのせいかアニオリでの展開期間はあまり長くありません。主人公の悟空がベッドの上から動けないというのも、アニオリで話を膨らませづらかった一因でしょう。

 この期間に余裕を作れなかったことが、ナメック星のフリーザとの戦いに大きく影響しました。今でもファンが引き延ばしの例に挙げるのがこの期間ですから、最もアニメスタッフが苦労していた時期だったのでしょう。

 ブルマとチェンジするギニュー、もうひとつの宇宙船でナメック星に向かおうとするチチたち、界王星で特戦隊と戦うヤムチャ、天津飯、餃子など、メインの戦いとは別の場所でのアニオリが多くありました。いかにもありそうな展開、印象的なエピソードだったと思います。

 このフリーザとの戦いが終わった後、劇場版『ドラゴンボールZ』に登場したガーリックJr.を敵キャラとして、TVアニメは長期のアニオリシリーズに入りました。3か月ほど続いたこの期間、悟空は行方不明、ベジータは悟空を探して宇宙を放浪していたので、メインは悟飯、クリリン、ピッコロになっています。

 ここでアニオリキャラとして登場したのが、クリリンの恋人役のマロンでした。クリリンに恋人を作ろうというアニメスタッフの好意から生まれたキャラでしたが、放漫な性格ゆえに破局してしまいます。その後、人造人間編でクリリンは生涯の伴侶である18号と出会うわけですが、もしもそうでなければアニオリで再登場もあったかもしれません。

 現在の原作マンガが連載中のTVアニメでは、分割クール制が当たり前のため、こういったアニメ独特の展開を見ることはほとんどありません。それが良いことか悪いことかはともかく、筆者はたまにアニメならではのオリジナル展開も味があっていいのにと残念に思うことがあります。

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