過剰な自信家でマイペースだけどなぜか憎めない陣内のまわりに起こるちょっとした日常の奇跡を描いた短編集。

 

彼のペースに振り回される友人たちは、陣内の奔放さにあきれながらもつい付き合ってしまう。

言いたいことを言い、ユーモアのある、ちょっと歌のうまい彼をどこかで羨ましく思いながら。

 

そもそも伊坂の本は文体が常に面白い。

それはまるで駅前のジャグリングがあまりにも見事で足を止めて眺めてしまうような、軽快で流れのある文章を書く。

 

ウィットに富んだ伊坂の作風は小見出しにも表れている。

バンク、ジャンク、ギャング、パンク、パニック…小ネタ小細工にクスリと笑ってしまうこと請け合いである。

 

そして本作の特徴としては、中心人物の陣内を誰かの視点で描くという軸で時間が前後するところがあげられる。

 

お互いの短編が伏線や背景となり、断片的だった人物像が構築されているような感覚に陥る。

時間の往還に不自然さがないうえ、陣内のリアルな人生の厚みを感じるから不思議である。仲良くなったから昔話を聞いた、そんな気分になる。

 

陣内という爽やかな変人と友達になってみたい。