昔、小説家になろうに投稿した18禁版の愛とケロイドです。読んで貰えれば幸いです。

 

 

 

『愛とケロイド』

 

雨が止まない。

 

 僕が運転する車に大粒の雨が打ち付ける。

 

「雨、止まないね」

 

 助手席に座るミキが明るく言った。

 

 ミキと付き合い始めて半年。ミキは今まで多様な男性と肉体関係を持ってきた。ようするに男好きなのである。

 

 なぜ、僕は男好きのミキを好きになってしまったのか。それは説明できない。好きという感情は勝手に一人歩きをして、悪さをすることがある。まあ、女神様の思し召しということにしよう。

 

 もちろん、僕から告白した。

 

 他にも男がいるわよ、とミキ。

 

 好きだから構わないよ、と僕。

 

 僕らは付き合い始めた。

 

 ミキの性格は明るい。母子家庭で母親と二人暮らし。色々と大変だったらしいが、大変な人生も笑って過ごせば楽しいわよ、と母親に言われて育てられ、いつ間にかそんな性格になったらしい。そういえば、ミキの父親のことは聞いたことがない。どんな人なんだろうか。

 

「ねえ、休憩しましょう」

 

「どこで」

 

「いい所があるじゃあない」

 

 ミキはフロントガラス前方を指さす。雨の影響で良く見えないが、おそらく、ラブホテルの看板だ。見えた。ラブホテル夢殿。田舎臭丸出しの名前。

 

 僕らは吸い寄せられるように、ホテルの前の小さな駐車場に入った。部屋に入る。消毒液の匂いが、やけに性欲を刺激する。

 

「さあ、始めましょう」

 

 ミキが脱ぎ始めた。いつもこうだ。ムードもへったくれもない。

 

「もうちょっとセクシーに脱いでよ」

 

「アダルトビデオの見すぎよ」

 

 ミキはブラジャーを放り投げた。君のような性に奔放な女性が出てくるのがアダルトビデオだよ、と僕は言いかける。

 

 ミキが近づく。キス。舌が絡む。唇が離れる。

 

 ミキの胸は大きくないが、小ぶりでもない。張りのあるいい形をしている。そして、左胸の上、鎖骨付近に火傷の跡がある。ケロイド。

 

 初めてセックスをした後、小さい頃にお母さんが味噌汁をこぼしちゃって、こんな跡が残っちゃった、とミキがあっけらかんと言った。

 

 僕はみそ汁ぐらいで火傷になんないよ、と言った。そんなやり取りを思い出す。

 

「触って」

 

 僕はミキの胸に触れる。僕の手に肌が吸い付く。乳首を吸う。身体がピクンと反応する。ミキが嘆息を漏らした。

 

 僕はミキの陰部に手を伸ばす。濡れている。彼女はすぐに性的興奮をもよおす。前戯をする必要はなさそうだ。

 

 僕はミキをベッドに倒した。僕も服を脱ぐ。その間、ミキは僕の陰茎を触る。膨張。僕はズボンを脱ぐ。

 

 ミキがベッドに置かれたコンドームを手に取る。装着。そして、ミキの陰部に挿入。温かい。ベッドが揺れる。

 

「ねえ、火傷の跡、気になる」

 

 セックスの最中、喘ぎながら、ミキが聞いた。

 

「気にならないよ」

 

「本当に」

 

「うん」

 

 僕は火傷の跡を見た。ミキのきれいな肌がケロイドの部分だけ歪んでいる。ひずみ。ごめん。気にならないというのは嘘だ。年頃の女性の体に痛々しい火傷の跡があるのだ。興ざめする男もいることだろう。でも、人には自分の体で気になる部分は必ずあるはずだ。そう思うと、この傷も受け入れなきゃあいけないと思った。僕はケロイドに手を伸ばした。

 

 ミキが僕の手を止める。悲しい表情。そこから、二人の手が恋人つなぎになる。僕は火傷の跡に顔を近づけた。舐める。ザラザラする。でも、変な味はしない。ミキの味がする。

 

「もっと舐めて」

 

 ミキはいつも以上に興奮していた。僕は舐めながら腰を動かす。ミキは絶頂し、僕も果てた。

 

 ミキはぐったりとベッドに横たわった。反応しない。今日のセックスは激しかったし、疲れたのかな、そっとしておこう。僕はシャワーを浴びた。

 

 シャワーを終え、ベッドルームの扉を開けようとドアノブに手をかけた時だった。ミキの鳴き声が聞こえてきた。

 

 僕はなにか悪いことをしたのだろうか。ケロイド。ミキは触れて欲しくなかったのかもしれない。自分の衝動的行動を戒める。謝ろう。でも、別れに繋がりそうで怖い。扉を開けられない。

 

 数分が経ち、ミキの鳴き声が止んだ。僕はそっとベッドルームに入る。ミキの眼が赤い。

 

「ごめん。火傷の跡、気にしていたよね」

 

「ううん。大丈夫」

 

 ミキは首を振る。

 

「今までの男は、気にしない、と言っていたけど、火傷の跡を見なかった。ないものとして扱った。私の一部なのに。でも、あなたは見た。そして、受け入れてくれた。そう思ったら、嬉しかった」

 

 僕はミキの頭を撫でた。ミキが抱き着く。

 

「男は嫌い。父親も嫌い。でも、寂しいのはもっと嫌。だから、男とセックスをしてきた。でも、あなたは特別、好き」

 

 僕らはキスをした。