1月27日(土)に行われた皇后杯 JFA 第45回全日本女子サッカー選手権大会決勝戦は、本当にスリリングな試合展開でしたね。これほどまで僅差の試合は、これまで見たことがありません。

 

 実は、出かけていて試合をliveで見ることが出来ませんでした。録画しておいたので、帰宅後すぐに見ました。再生するとき、録画時間が目に入りました。なんと、120分超の録画時間であることに気付きました。これは延長戦に突入したのかなと思いながら、テレビを見始めました。

 

 先制したのは、三菱重工浦和レッズレディースでした。前半19分、INAC神戸レオネッサのペナルティエリアで塩越柚歩からパスを受けた清家貴子のシュートが相手DFに当たって、シュートストップに入ったGK山下杏也加の頭上を越えてゴールに吸い込まれていきました。I神戸にとってはアンラッキーだったかもしれませんが、ペナルティエリア内でシュートされた時点で、ゴールもやむ無しだったと思いました。

 

 その後、浦和の優勢のまま時間が過ぎていきました。浦和は、安藤梢、猶本光を怪我で欠きながらも、代わりに出た若手が軽快な動きを見せ、I神戸の攻撃を封じていました。I神戸は、なんとか田中美南にボールを集め浦和のゴールをこじ開けようと試みましたが、中々ボールが渡らず攻撃の糸口が掴めずにいました。

 

 GK池田咲紀子の広範囲な守備もあり、I神戸の攻撃が長時間封じられていました。このまま90分で試合が終わってしまうのかと思いましたが、録画時間が120分を超えていたので何かが起きるのだろうと思いつつ見ていました。しかし、さすがに90分が過ぎ、まもなく試合が終わる時間になると、あの録画時間の長さは表彰式による長さだったのかと思い始めました。

 

 しかし、何とアディショナルタイムに入って、試合終了間際の最後のI神戸の攻め上がりから、PKが生まれるとは想像出来ませんでした。本当に、I神戸の諦めない心が生んだ奇跡のようなPK獲得でした。しかし、このPKが失敗すれば浦和の優勝が決まります。

 

 PKを蹴るのは高瀬愛実でした。HTに交代出場し、I神戸に勢いをもたらしていました。ワールドカップ優勝メンバーでもあり、WEリーグ発足後の初ゴールを挙げた高瀬。経験豊富なベテランが、同点に追いつくゴールを決めて見せました。

 

 FW田中美南選手のシュートが相手の手に当たってPKとなったとき、実は、最初、PKキッカーの候補となったのは、チームの中でもPKが上手いFW桑原藍選手だったそう。しかし、高卒1年目のルーキーには荷が重かったようで、そこで高瀬選手がキッカーを務めることになったとのことです。チーム一筋15シーズン目のストライカーは冷静にゴール右隅へ決め切りましたが、安本社長によると「高瀬選手に聞いたが、緊張していたので、ボールをすぐにセットしなかったらしい。後で見直したら、ずっとボールを持っている。だから、置いて、すぐに蹴って決めた」。  

 

 高瀬選手は試合後のコメントで、「こういうときくらいちゃんと仕事しないとなと思った。(緊張で)けっこうバクバクだったし、リーグ戦で今シーズンはPKを一度蹴っていたので、その情報は入っているだろうなと思いながら(PKに臨んだ)。(決めたときは)ホッとしすぎて、みんなの表情を見る余裕は正直なかった」と、当時の様子を明かしています。

 

 そして、そのまま延長に突入。こうなると、試合の展開は五分五分と言ってよいでしょう。いや、ややI神戸に勢いがついたように見えました。それでも、ゴールを割らせない浦和の守備陣。また、GK山下も負傷しながらも、必死でゴールを守りました。お互いゴールを挙げることが出来ず、試合はPK戦に持ち込まれました。

 

 これも、凄いPK戦になりましたね。準決勝で、サンフレッチェ広島レジーナをPK戦で退けた浦和に分があるかと思いました。PK戦前の選手の表情を見ても、浦和の方が余裕が見られました。I神戸は、笑顔を見せる選手もいましたが、少し作り笑いのように見えました。

 

 PKの先攻はI神戸が取りました。延長戦で足を負傷したGK山下も、止めてやるぞというオーラが出ていました。I神戸は、田中美南が決めると、浦和は高橋はながトップバッターで登場。高橋のコースを読み切り見事にストップしたGK山下。してやったりと雄たけびを上げましたが、なんと動くのが早すぎてやり直しとなってしまいました。今度は、高橋に軍配が上がりました。

 

 先に失敗したのは、I神戸。3番手で登場した成宮がコースを読まれて失敗。しかし、浦和の3番手塩越も止められ振り出しに。以降、5人でも決着がつかず6人目に。そして運命の7人目が回って来ます。I神戸は竹重が決めました。浦和は、伊藤美紀。浦和もここまで決着がつかないとは思わなかったのではないでしょうか。昨季までI神戸に所属していた伊藤にとっては、とてつもない重圧があったと思います。出来たなら、その前で決着がついて欲しかったはず。池田からボールを受け取るときは笑顔がありましたが、内心は心臓がバクバクだったでしょう。それでも、蹴ったコースは良かったと思います。ただ、少し外になってしまいポスト直撃で弾かれてしまいました。この結果、I神戸が7シーズンぶりに優勝しました。

 

 しかし、PK戦で両軍の若手の堂々たるプレーには感服しました。ビビることなく、しっかりとキックしていましたね。むしろベテランの選手の方が緊張していたのではないかと思います。

 

 

 

 かつて、オシムさんは、PK戦についてこんなことを言っていました。2010年のワールドカップ決勝トーナメント1回戦で、パラグアイとの試合でPK戦に突入し、駒野が失敗して日本がベスト16で敗退したときのことです。

「PKを失敗した駒野を責めないでほしい。駒野も自分を責めないように。PK戦はサッカーではない」

 

―試合を振り返って(ジョルディ監督)

正直なところ、前半はあまり良いプレーができなかったです。自分たちのサッカーができなかったですし、相手チームはすごくフィジカルを前面に出して戦ってきたところがあったと思います。
なかなか難しかった前半から、後半に(何かを)変えていかないといけないところで、ハートを持って戦わなければならないと考えていました。そこで選手交代をいくつか行いました。相手もかなりフィジカルで来ましたので、前線には高瀬選手を。そして、中盤のアンカーに土光(真代)選手を入れて、井手(ひなた)選手をセンターバックに入れました。
もう少し競り合いで勝てるようにということを目指しました。結果として、最後まで強い気持ちを持って選手がよく戦ってくれました。だからこそ、追いつくことができたと思います。その後、延長戦に入ってからはゴールチャンスもありましたが、PK戦になるとある意味「くじ引き」のようなものですので、勝負はどちらに転んでもおかしくない状況になりました。最後まで、この試合を勝ちたい気持ちをずっと選手が見せてくれたことによって追いつき、このような形で勝利できた思います。

 

―PKの順番について(ジョルディ監督)
カップ戦ですので、何度もPKの練習をしていました。PKの練習するは私はあまり好きではありません。実際のゲームの臨場感というか実際に試合(公式戦)で受けるであろうプレッシャーが練習では出づらいからです。
今日はベテラン選手が最初に蹴るように選手たちに伝えていました。ある程度のメンバーを選んでいました。その中で選手たちの判断(120分戦った後のコンディション含め)で順番は決めるようにしていました。

―このタイトルに意味合いは?(ジョルディ監督)
私にとってもクラブにとっても重要なタイトルを手にしたと感じてます。昨年はこの決勝で勝てなかったことも聞いていました。選手たちは、今まで自分たちが強くなりたい、勝ちたいと目標を持って練習しています。。この大会の最後にこのように形、結果が得られるた証を手にしたことを考えると、とても重要なタイトルだと思います。
私自身、外国で手にする初タイトルですし、優勝した瞬間に少し涙が出ました。スマホを見ると、バルセロナからも連絡が来ていたのですが、向こうにいる家族、友人たちもみんな喜んでくれています。ありがとうございました。
 

―優勝おめでとうございます。お気持ちいかがですか?(山下杏也加)
昨年と同じ会場で負けて準優勝が悔しかったので、もう一度、同じ会場で優勝して(昨年優勝の)東京NBが見ていた景色を見たいと、それだけを考えて優勝を目指しました。

―試合前はチームメイトにどのような声をかけましたか?(山下杏也加)
試合前はあまり(チームメイトに)伝えないのですが、(試合前の)ロッカールームの円陣で田中(美南)選手が熱く話してくれたのが、みんなが熱くなった瞬間かなと思います。チームがひとつになったメッセージだったかと思います。

―前半は苦しんだ展開だったかと思いますが、ご自身はどのようなプレーを意識されましたか?(山下杏也加)
準決勝と同様に2人のセンターバックが競れる選手がいたので、そこを外しながら、ウイングバック(守屋都弥、北川ひかる)に持っていくかを後ろから考えると浦和が少し上だったかなと感じました。中盤にボールを入れた時のショートカウンターを狙っていたのが分かっていたのですが、それを逆に前向きに運んだり、インサイドにボールを入れた時がチャンスだったのでリスクを負って得点を取りにいくイメージでした。

―後半も苦しい展開の中、ビッグセーブがありましたが追いつくためにどう考えていましたか?(山下杏也加)
リフレクションに入ってしまった失点に対して、あの場面での自分の手の出し方が少し違っていたので、自分がチームに迷惑をかけたと思って、それ以外の失点をしないように意識していました。最後、キャッチできるところをできなかったのが一番の後悔かなと思います。

―PK戦で大仕事をやり遂げましたが、どのような心境でしたか?(山下杏也加)
ゲーム内容や試合の展開でPKになった時のINAC神戸の選手たちのメンタルは浦和よりかはポジティブでしたし、自分もPK戦に入った時には勝てる雰囲気というか、勝てる自信がありました。PK戦の間合いというか、笛が鳴ってからの相手のタイミングに少し合わせられなかったのが、もったいなかったなと。PKを蹴った選手たちが雰囲気にのまれなかったのが素晴らしかったです。

―今シーズン開幕から無敗ですが、その強さの秘訣は?(山下杏也加)
各ポジションに素晴らしい選手がいることと、両ウイングが自分が相手GKだとしても良いキッカーがいるなと思うので、良い攻撃ができていれば良い守備ができると思っているので、いかに良いボールを前線に供給できるか、試合をコントロールできるかが試合の結果に繋がっていると思いたいです。

 

 

 しかし、返す返すも残念なのは、こんな面白い試合を生観戦した人が2,625人だったということです。どうしてなんでしょうね。TV映りでは、もっと観客が入っていたようにも思えたのですが・・・。本当に残念!