〇脳卒中患者の歩行自立について

・BBS45~48点がカットオフ値とされる。上回っていても非自立と判定される症例もある。注意障害の評価としてStop Walking When Talking test(SWWT)を併用。二重課題

 

・脳卒中急性期における注意障害の発生率は72~80%。机上評価と比較しADL場面でに注意障害も評価。RSAB、BAAD、MARSなど。MARSの併用も有用かも。

 

・病棟歩行自立には、環境が複雑に変化しうる日常生活の中で転倒回避する能力が必要。歩行能力が低い場合は歩行自体に多くの注意を分配してしまい、周囲への注意が不十分となりやすい。

 

〇フレイル

 

・20~30歳代に比べ70~80歳代では約30~40%の骨格筋量が減少するといわれる。骨格筋量とともに減少する歩行速度や握力と予後との間には密接な関係がある。

 

 

・ロコモの診断。移動能力が重視され、立ち上がりと最大歩幅(2ステップテスト)を使用。ふらつかずに行えることが重要。

 

 

・サルコペニアがロコモの重要な要因の一つ。

 

 

 

 

◇予防

・タンパク質の適切な摂取が必要。予防には高齢者において1.0~1.2/kg/日の摂取が推奨。すでにフレイル、サルコペニアの基準を満たす場合は1.2~1.5摂取が推奨。重度の腎機能障害の場合は、1.0程度にとどめておく方が望ましいか。

 

・必須アミノ酸BCAAが注目。特にロイシンは筋タンパク質合成を促進する作用が強いとされる。ビタミンDの摂取も重要。サケ、マグロ、サバなどはビタミンDにいい。牛のレバー、チーズ、卵黄、キノコ類も少量含まれる。日光暴露により皮膚においても生成されるため外出も重要。

 

・タンパク質合成を直接促進させるレジスタンストレーニングと有酸素運動を組み合わせるのが望ましい。サルコペニア予防には1日7000~8000歩のウォーキングが必要という報告。

 

◇嚥下障害

・誤嚥の原因として、歯牙の脱落や義歯の咬合不全、唾液分泌量の減少などにより咀嚼不良となり、食塊が未形成のまま嚥下することや、オトガイ舌骨筋など嚥下動作にかかわる咽喉頭筋の弱化により舌圧が減少し誤嚥を惹起しやすくなる。

 

・予防のためのポジショニングとして、舌骨筋群が効率よく働く肢位とするために、座位では足底を接地させ、坐骨支持に。臥位では約30°の角度をつけた背臥位、頚部前屈位とする。

 

◇胃

・逆流性食道炎の予防として、腰椎後弯や円背により腹圧を過度に上昇させないために、長時間の前かがみ姿勢を避ける。ベルトで腹部を締め付けない。食事は腹八分とし、胃の内容物が十二指腸に移行し終わるために、食後2時間くらいはなるべく座位を保持する。

◇便秘

・健常者の排便回数は1日3回から、3日に1回、便重量は1日35~225gとされている。一般的に異常には下痢、便秘、およびこれらを交互に繰り替えうす交代制便通異常がある。

 

・便秘は1週間に3回未満の排便回数、1回35g以下の排便量、硬便、他に残便感、排便困難など主観的要因も関与。

・機能性便秘の治療は、腸管の機能を調整し自然な排便リズムにすることが目標。生活指導では、歩行などの適度な運動と十分な食物繊維や水分の摂取、胃結腸反射を利用した朝食後の排便習慣や肛門直腸角を直線化するような排便時姿勢も有用。

 

・生活指導で効果が得られない場合は、薬物療法を追加する。非刺激性下剤である酸化マグネシウム製剤や塩類下剤などを用いる。刺激性下剤は依存性が強く長期使用で耐性を生じるため、原則的に短期間の使用とする。

 

 

◇骨盤底筋トレーニング

・女性の骨盤底筋の筋線維は遅筋線維が約70%、速筋線維が約30%といわれる。これによろい尿禁制が保たれる。腹圧性尿失禁では、骨盤底が緩むことで尿道が過可動の状態となる。

 

・通常膀胱に腹圧がかかったときに骨盤底と連動して尿道括約筋が働き、尿漏れを防いでいるが、骨盤底のゆるみにより、尿道が膀胱とともに移動し、尿道が開きやすくなり尿漏れが生じる。

 

・衰える原因として、加齢や重量物の持ち上げなど骨盤底筋に負荷のかかる動作、妊娠、肥満、腹圧上昇、特に経腟分娩による骨盤底筋群や支持組織への影響が大きい。

◇骨盤底筋トレーニング

①膝曲げた背臥位、椅子座位、前腕・肘を床に着いた四つ這いなど

 

②肛門(および膣・尿道)を締めるように骨盤底筋群を収縮させる。その際、腹部や殿部、大腿筋を収縮させないように行う。腹部に手を置いて、腹筋収縮ないか確認

 

③骨盤底筋群の収縮時間は、はじめは3秒程度からはじめて徐々に12秒程度まで伸ばす。または、速筋を鍛える場合は1,2秒程度、早く締めるように行う。遅筋を鍛える場合は5~10秒締め続けるなどの方法。

 

④回数は1セット10回として5~10セットを目標として実施。訓練は1日3回や1日10分などの目安が提唱されており、実施しやすい場面や肢位で無理なく実施、継続できるのが望ましい。

 

・排尿時に必要な骨盤底筋群の弛緩方法も同時に指導する。腹圧性尿失禁では、咳やクシャミ、重いものを持ち上げるなど腹圧がかかる動作の直前に骨盤底筋群を収縮させることで、失禁を予防できるよう指導する。

 

 

 

 

〇方向転換におけるバランス

・方向転換での戦略として、進行方向と同側の足を軸足とし、反対側の足を軸足の前で交差して進行方向へ踏み出すクロスステップ(クロスオーバーステップ、スピンターン)と、進行方向とは逆側の足を軸足として進行方向へ踏み出すサイドステップ(ステップターン)の2種類が定義される。

 

・クロスステップはステップ足が内側に閉じるように動いて接地し、サイドステップではステップ足が外側に開くように動いて接地する。

 

・片足を軸にした回転動作のことをピボットと呼ぶが、前足部接地または踵接地で足底の接地面を回転させて軸足とともに身体の向きを変える動き。

→バスケ、テニス、ダンスで頻回にみられ、素早く身体の向きを変えることができる。しかし足の向きと身体の向きにずれが生じると関節ストレスが大きくなり、パフォーマンスが落ちることがある。

 

・クロスステップを用いた方向転換は、身体重心がBOSから逸脱しやすく、BOSも狭いため難易度は高い。

 

・健常成人では方向転換動作で視線と頭部の動きに次いで体幹の動きが起こり、身体分節が順序的に動くことが最も効率的とされる。

 

・転倒歴のある群では体幹の回旋角度が減少するという報告がある。

 

・進行方向を変えるには足を接地する方向が重要。足関節の運動軸は一つで、足尖が向いている方向にしか底背屈できない。MP屈伸は母趾側と小趾側で軸の向きが異なるため、2つの軸を使い分けで身体をどの方向にも回転させることができ、軸足の前足部で身体を支持しながら重心移動の方向をコントロールしている。

 

・重心の方向の制御には前足部の回転機能が重要。前足部の動きが股関節内外旋の動きと連動することが重要。

 

・クロスステップでは軸足の小趾球の足圧が高く、踏切りは2-5趾。サイドステップでは母趾球と母趾の趾腹で足圧が高まり、母趾の趾腹で踏み切っていた。

 

・軸足の安定性は、下腿側方の筋群の活動と股関節の制動が必要とされる。

 

・股関節の内外旋と屈曲伸展、内外転のコントロールがスムーズに行われる必要があり、転倒しないためには骨盤を中間位に保持し、上半身姿勢を維持することが重要。

 

・体幹としては、方向転換時の軸足の立脚中期から反対側の接地までの間に体幹回旋を行う必要がある。

 

・健常者ではクロスステップで脊柱が伸展し、進行方向と逆方向への回旋と側屈が生じ、サイドステップでは脊柱は屈曲し進行方向と同方向への回旋と側屈が起きる。脊柱伸展制限あるとクロスステップによる方向転換はスムーズに行えない可能性がある。

 

・動的バランス評価としてTUG。転倒予測のカットオフは12~13.5秒。180°方向転換が含まれている。サイドステップとわずかなピボットを組み合わせてU字型のカーブを描くように方向っ変えて移動する。

 

・BBSはカットオフ49点。TUGとの相関もあり。その場で360°回転課題があり、回転する側の下肢を外転・外旋しサイドステップで接地、次に逆足を横に揃える。という動作を繰り返すのが一般的。

若年者やアスリートはピボットも含めた小さなサイドステップを用いて素早いターンが可能。

 

・TUGやBBSではクロスステップの要素は含まれていない。TUGでは進行方向への体幹傾斜が大きいと所要時間は延長し、パフォーマンスが低かったという報告。

 

・スポーツ分野では、反復横跳び、Tテスト、ステップ50など。

 

・PD患者では方向転換時、健常者よりストライド長と歩幅が短縮する。また方向転換時に骨盤と体幹が分節性を伴いにくく、抗パーキンソン病薬の服薬状況によって骨盤や体幹回旋角度や角速度が影響される。

 

・片麻痺患者では足部と骨盤回旋が生じても視線の移動が生じにくい。

 

・小脳性運動失調患者では、歩幅短縮し、ステップ間の歩幅を変化させることができず、動作時の身体運動の減速、加速の変化を生じさせることもできない。また90°の方向転換角度において、サイドステップやクロスステップを用いた方向転換動作は困難であるたえ、BOSを広げ歩幅や歩数を増加させることで方向転換動作を行うことが重要。

 

・OA症例では、クロスステップを用いた方向転換動作において支持側の股関節屈曲、伸展、内転角度と股関節外転トルクが減少して、支持側の足角と足関節底屈トルクが増加した。

→足底接地で足角を増大させ、下肢機能の発揮を減少させる動作様式。立脚前半での足関節底屈トルクの増大により身体の前進をより減速させて動作を遂行。

 

・荷重位で股関節の内外旋や胸郭回旋が不十分な場合には、十分な重心移動が行えないこと、本来は回旋運動には不向きな膝関節や腰椎への負荷が増大し、慢性障害あるいはバランスを崩し転倒につながることも予想される。

 

・高齢者の場合、胸腰椎や胸郭の伸展可動域が制限されやすいため、前方への重心移動に不利なアライメントとなりやすい。神経系の反応や筋収縮の遅れによって、バランス反応や立ち直りも起こりにくくなる。

 

・方向転換動作には①減速能力、②停止能力、③方向を転換させる能力、④加速能力が必要。特に180°方向転換は全身運動の完全停止から逆方向への加速を要する複合運動であり、体幹や膝関節においてより高いコントロールが必要。

 

・切り返しの際に体幹側屈や前傾が大きすぎる場合、膝外反が強い場合にはACL損傷のリスクが高まるとされる。

 

◇評価

・距腿関節の背屈、MP関節の背屈可動性と、前足部接地で支持ができることは方向転換の方向のコントロールに重要。ピボットでは足部を固くさせて床面との回転を行うため、足部および距腿関節の安定性と体幹の協調性も必要。

 

・股関節回旋、内外転可動域は急な角度変化の際に骨盤の向きを進行方向に向けるために重要。股関節の筋力は求心性、遠心性にもコントロール必要で荷重下での筋力発揮が求められる。