・立ち上がり初期には体幹前屈が重要になる。座り動作は早々に身体重心が足部のBOSから出てしまうと、座面にドスンと落下するように座ってしまうため危ない。できるだけ座面に殿部が接触する直前まで身体重心を足部のBOSに入れた状態で着座する必要がある。BOSは殿部後端が最後点であることに注意。

 

 

・求心性に股関節屈曲モーメントを発揮し体幹前傾へ。すぐに遠心性の股関節伸展モーメントが発揮。ブレーキとなる。殿部離床までに体幹をどの程度前傾させるかを調節、これがないと折りたたみ携帯みたいに折れていく。

 

 

・体幹前傾大きくすると、通常に比べ、殿部離床におけるCOGの位置が膝関節に近づくため、床反力ベクトルの後方への傾きが少なくなり、膝関節伸展モーメントのレバーアームが減少する。これにより膝関節伸展モーメントは小さくてすむが、股関節からは大きく離れてしまうため股関節伸展モーメントが大きくなる。また、HAT重心も腰部関節中心から離れるので、腰部伸展モーメントも大きくなる。ただ、膝関節より腰や股関節についている筋の方が大きいので、立ち座りを大きな筋を使って行いやすいことになる。

 

・反対に体幹前傾させずに立ち上がったり、座ったりするときは重心が膝関節から離れてしまうので、膝関節伸展モーメントが増加する一方で、腰部と股関節伸展モーメントが減少する。

 

 

・足を後ろに引くと座位でのBOSは小さくなるが、足部のみで構成されるBOSが後方に移動し体に近くなる。そのため体幹前傾角度も小さくてすむ。角度が小さいことで腰部と股関節の負担を小さくできる。前傾角度小さくても、足と殿部の位置が近いので、立ち上がり時の重心位置は膝関節と近くなり、膝関節の負担も足を前に出した時と比べて大きくならないで済む。

 

 

・足を後方に引いた立ち座りでも動作時に常にBOSに重心が入っていないと不可能というわけではない。立ち上がり速度が速くなると、殿部離座時に床反力ベクトルは後方に大きく傾いて身体には急激なブレーキがかかる。このときはまだ大きな前方への重心の速度が完全に打ち消されないため、ブレーキかかりつつも重心は前方移動を続ける。

 

・このように殿部離床前に前方に勢いをつけ、その勢いを利用した立ち上がりを推進力戦略と呼ぶ。足を後方に引いてBOSに重心をしっかり入れるような立ち上がり方は安定戦略と呼ばれる。

・座り動作では、BOSからCOGを外して身体を落下させるようにすれば速くできるが、動作速度が大きく着座時に殿部は大きな反力を受けてしまう。この力が大きいと高齢者は制御できず腰椎圧迫骨折につながる。

 

 

・椅子が高くなると着座時の股関節と膝関節の屈曲角度が小さくなるため、足部の位置は自然と座面に近くなる。そのため重心の前後移動も少なくなり体幹前屈角度が小さくなる。重心を持ち上げる距離と下ろす距離も短くなり、重心を上下方向に移動させるのに必要な股関節と膝関節の伸展モーメントも少なくて済む。

 

 

・大腿に手を突くと体幹を大きく屈曲できる。手をつくことで手の反力を使って体幹を引き起こす力をサポートできる。このとき生じる手の反力は、手が大腿を押す力の反作用として生じる。また体幹を大きく屈曲することでCOGの位置を膝関節に近づけることができるので、膝関節の負担も軽減できる。

 

・ただし、強く押してしまうと股関節と腰部が発揮する力は軽減できるが、大腿を押す力によって膝関節と足関節にかかる負荷が大きくなる場合があるため注意する。

 

 

 

 

・骨盤が後傾したままだと骨盤を後ろに残したまま体幹前傾が必要になる。骨盤前傾しないと股関節伸展筋が働きにくく、膝関節に大きく頼った状態で重心を上方に持ち上げる必要が出てくる。

 

・また、骨盤と体幹が一緒に前傾したときと比べ、COG位置を前方に動かせない。そのため足部のBOSまで重心移動できず、立ち上がりが困難になる。

 

・体育すわりから体幹を大きく前屈し重心を前方移動するのは困難。手を体の横について、いったんBOSを広げて手が床を押す力を利用していく。このとき手を前方についてしまうとBOS広がず手の力も発揮できず困難に。後方につくと、BOSは後方に広がるも重心位置も後ろに下がるため、重心を足部まで移動させる距離が伸びてしまい、困難に。股関節の横あたりに手をつくと、BOS広がり手が床を押す力も使いやすく立ち上がりも楽になる。

 

・浴槽内の立ち上がりは体を横に傾けるスペースないため手を浴槽の底について立つのは難しい。バスタブをつかむなど上肢の力を利用していく。水の浮力があるので、重心を持ち上げるときに通常の床からの立ち上がりよりは楽になる。下肢筋力が低下している高齢者はいずれにせよ要注意。

 

 

・手すりから受ける力は手が手すりを引く力の反力。縦型手すり使用時は、手の反力の矢印が上向きに大きくなる。この矢印の大きさが上向きに大きくなるほど、下肢にかかる力が小さくなるので膝や股関節にかかる力を軽減できる。

 

・さらに前方縦型手すりは体幹前屈を促通し、重心の前方移動に寄与しているといえる。しかし、前方では近くにつける場合に比べ力の矢印を上向きに大きくできず、下肢にかかる力を小さくできない。

 

・座り動作では前方向より上方向の力を発揮させることが重要となるため、縦型手すりを前方につけると、座り動作時の下肢負担軽減は難しくなる。

 

・立ち座り両方で手すりを後方に引っ張って立つと、重心が後方に残ったままの姿勢になる。このため下肢にかかる反力のベクトルが大きく後方に傾き、膝関節から離れて特に膝関節の負担が大きくなる。前方縦型手すりを体の近くにつけても手すりを後方に強く引っ張って立つと、これと同じ現象が生じる。

 

・両肘掛使用時は、ひじ掛けからの力の矢印を上向きに大きくでき、下肢にかかる床反力を大きく減らせるため、股関節と膝関節にかかる力を軽減できる。この場合、体幹にかかる重力を手で補うことができるので、大腿に手をついた立ち上がりと同じように、腰部や股関節伸展モーメントで体幹を引き起こす力をサポートし、重心を上方へ持ち上げる役割を代償。ただし、肘掛けは真横後方で把持する必要があるため、重心の前方移動には大きくは寄与しない。

 

・上肢による把持点が増えることで、身体バランスの安定にも寄与する。殿部が座面から離れて入りう時期の足関節によるバランス調節を上肢によって補える。

 

 

 

 

〇アプローチ方法

 

・前方にある縦型手すりなどで練習させると上肢で手すりを引いて骨盤と体幹が後傾したまま立ち上がってしまうため、その場合は、肘掛けや座面に手を置いて、骨盤と体幹の前傾を促しながら練習するとよい。

 

 

・両下肢麻痺や体幹失調、意識レベル低いなど自身で制御できない人は股関節伸筋群の遠心性収縮が生じず、体幹前傾しそのまま前方へ倒れてしまう。近すぎると調整難しいため対象者の体幹に対して斜め上から手を差し入れる。

 

 

 

・また、股関節・膝関節伸筋群の収縮困難だと重心の上方移動もできない。そのため介助者の膝、両手でサポート。ズボンの上方を持つとズボンがずれて股関節伸展の介助が難しくなるため避ける。

 

・立位の時重心位置は足関節中心よりも前方へ位置するため、介助者の足の位置は対象者の足部より少し前方にし、両足部よりも外側におく。左右方向へ動揺したときに転倒を防ぐ。

 

 

・座位から体幹前傾するときは、前方移動を防ぐ目的で膝を軽くあてておき、膝関節・股関節が伸展する際には膝関節中心の前方移動を止める。対象者の膝関節を後方へ押し込むと、立位で重心位置が後方になるため注意。

 

 

・介助者の首に手を回すのは、身体位置が近く重心の前方移動が困難となるため避ける。両上肢使用できる対象者は介助者の前腕に手をまわしてもらう。使用困難なら介助者の肩におでこをつけるようにしたり。

 

動作訓練では難易度を調整したり、介助ではできるだけこちらが楽な環境にしてから行うことが多いか。それでも全介助の人は大変だけど。