近頃春夫には、気になる言葉がある。新聞を見ていると、ついその言葉が目に止まる。
テレビを見ていると、思いがけずその言葉に出くわす。雑誌や本のタイトルにも登場し、春夫の視界に否応なく入ってくる。そのたびに春夫は、はっとしたり、ドキリとしたり、あるいは胸を痛めたりする。
そんなことが重なると、毎回顔を背けてばかりもいられない。いつまでも、チクリチクリと体のどこかを突かれるより、いっそしっかり向き合ってみようか、とも思うのだ。それでいて、いざとなると、やはり腰が引けてしまう。
「ニート、か」
春夫は新聞記事を思い出し、そっと呟いてみる。畳の上に直に座った春夫の背は、五十歳という年齢の割に丸みを帯びている。ニートという言葉とため息のせいで、なおさら背中は丸みを増した。
「ニートねえ」
俯いたまま頭を掻くと、はらはらと白いものが降ってくる。畳に顔を近付け、思い切りふっ、と吹く。舞い上がったフケは、脱ぎっぱなしのパジャマの上に、点々と散った。
「ニート、ニート」
しょぼしょぼした春夫の目は、呟くたびに小さくなる。ついに両目が閉じられると、春夫はいきなり頭を抱えた。丸い背をさらに丸くし、うずくまるように小さくなる。それもしばらくのことだった。すぐに背中が痛くなり、はあっ、と 気の抜けた声が出た。
「僕って、ニート?」
肩を落とした春夫の背は、見る影もなく小さくなった。