(画像引用元 http://www.parasite-mv.jp/

 

 

評価:星星星星(☆5満点の4.5くらいはてなマーク

 

半地下で暮らす貧乏家族が策を弄して、一家で高台の豪邸の雇われ人になる。目当てはもちろん、高い給金と良い暮らし。ところがその邸宅には秘密があって……。

 

 

3月末に普通のカラーver.を観て、

6月にモノクロver.を観た。

 

なんとも曰く言い難い映画だった。

寓話的にも感じたが、

“寓話”を

 「比喩によって人間の生活に馴染みの深いできごとを見せ、

 それによって諭すことを意図した物語(by ウィキペディア)」

とするならば、

私はこの映画から教訓的なものを感じなかったので

(私にとっては)寓話ではない。

 

冒頭、ものすごーく貧乏くさい家族が出てくる。

貧乏くさいといっても、哀れを誘う悲しげな貧乏くささではない。

生命力とだらしなさにあふれた貧乏くささ。

正直、ここで「あ、ちょっと苦手かも」と思った(←自分は棚アゲ)

 

そもそもが、前情報として入ってきた

‘貧乏家族が金持ち家族の家に入り込んで寄生する’

というプロットが、私的には好みじゃなかった。

安倍公房だっけか記憶が定かでないけれど、

大昔に読んだ誰かの短編の後味の悪さを思い出して

尻がむずむずそわそわした。

軒や庇(ひさし)を貸しただけなのに

母屋をとられるなんてどうにも理不尽むかっむかっむかっ

なら、観なきゃいいのに

‘映画館で映画を観る’ことに執着した結果、

消去法でこれしか残らなかったのである汗叫び

 

映画はしかし、予想に反した。

社会上層と下層(とそのまた下)、

エレガンスと猥雑、光と闇、静と動の対比が見事で、

“層”によって異なる住空間の選び方がまた巧い。

騙して入り込んだあと、

身バレしそうになるきっかけが“匂い”なのも面白い。

終盤は怒涛の展開で、

終わってみれば“匂い”は重要なファクターだった。

 

観終わったあとしばらくは、

貧乏一家たちが

土砂降りの嵐の中を高台から下層の自分の家まで

走り逃げていく‘引きのアングル’が記憶に残っていた。

それが、どのくらいだろう、

1ヶ月もすると今度は、

邸宅のリビング奥から

庭を眺める‘引きのアングル’がよみがえりだした。

室内の人物や調度品はシルエット、

陽光の下の明るい庭には芝生が広がり、

金持ち家庭の息子の小さな三角テントがぽつんと

あったりなかったり。

その絵面に無駄がない。

不思議な静寂と均衡、統一感。

 

物語はめくるたびに想像を超えていった。

でも事件としては、‘最地下の2人’を除くとありえないでもない。

私はこの映画に非現実的で白昼夢的な何かを感じたが、

それを印象づけたのは、

幾度となく繰り返された‘引きのアングル’だったと思う。

 

いま私は

「‘最地下の2人’を除くとありえないでもない」と書いたけれど、

いつでも北朝鮮との戦争が起こりうる韓国の人々が

新しい家を建てるとき必ず家のどこかに隠れ場所や防空壕をつくるとすれば、

いつのまにか知らないうちに

知らない誰かがそこに棲みついている、なんてことがないとは言えない。

そう考えてみれば、朝鮮半島の日常は

リアルに、種類の異なる複数の恐怖と同居しているのだろう。

 

社会格差が描かれているとはいえ、

映画に、批判的な視線は強くない。

淡々と、ありようと事件を描くのみ。

 

映画やドラマに誰にでもわかる格差社会批判を織り込むのは

実は簡単だ、と私は思っている。

社会的上位者に、

イヤな奴、悪いヤツと感じられるステレオタイプを出せば済む。

ところが『パラサイト』の財閥系IT企業の社長は

神経質だが特にイヤな奴ではない。

仕事はきっちりやる有能さだし、計画的に家族サービスもやる。

その夫人は夫人で、生まれ育ちがうかがわれる上品さ、

でもときどき自己評価の低さが垣間見える。

夫婦そろって潔癖症なとこは煙たい(めんどい)が、

映画に描かれた言動をもって

彼らを個人的に「悪」だとする物差しは私には無い。

 

もしあえて、あえてこの金持ち夫婦のアラを探すなら、

自分の生まれ育ちや社会的立場・階層に無自覚、という点だろう。

しかし映画は、

それをもって彼や彼女を断罪するのが主眼ではなさそうだ。

なぜなら、幾度も這い上がりに失敗した家族が

手練手管を弄して(場合によっては殺人も辞さず)

上流になり替わろうとする欲望も描いているからだ。

 

わかりやすい善悪ではないからラストは切ない。

「あれは誰得だったのか」――そうつぶやきたくなる映画だった。

 

あらためて見ると、ポスターもセンスいいOK

 

 

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貧乏家族の息子と娘、

この二人の相貌が、私はどちらかというと苦手だ。

表情に乏しく見えて、何を感じ、考えているのかわからない。

息子に関しては、登場したのっけから髪型も受け容れづらかった。

丸顔ならまだしも、

面長ではカラかぶったコナラ(ドングリの一種)にしか見えん。

お国柄とか事情(兵役義務など)があるんだろうけど、

額の生え際から2~3cmで前髪ぷっつんがどうにも。

それが女性や丸顔ならOKなのに薄い顔の男だとNGに感じるのは

単に好き嫌い、あるいは見慣れてるか見慣れてないかといった

慣れの問題や生理的なものでしかないが、

それを越えるのはなかなか難しいあせる

 

しかしながら。

この映画のキャストはみんな上手かったのだが、

その貧乏家族の息子と娘が

やることなすこと自然で、

なんか素で 「こういう人いるよね」と思えた。

息子は、思慮深いけれど、ときどき挙動不審。

娘は、大胆で悪賢くてクール。

ただでさえテンポのいいこの映画で、

彼と彼女までもが

目鼻立ちくっきりな上に

大げさなジェスチャーや表情芸をしていたら

映画はブラックなドタバタコメディにしかならなかった。

演出と演技力の功はもちろんあるが、

その若い二人の技量と相貌をふまえたキャスティングが

舞台装置やカメラワークと共に

無二の空気を纏う作品にしたと思う。