◆「‘医療崩壊’を防ぐ」は、

 誰が言いだしたかによって欺瞞にもなる

 

「各都道府県の公立・公的病院の再編統合プラン」は、

別名「地域医療構想」。

「医師の働き方改革」と連動したプランだ。

その旗印は、

「各現場で時間外労働をせざるをえず

 医療事故・医療崩壊につながりかねない医師の疲労を軽減し、

 過重労働を防ぐ」である。

 

医師の過重労働を防ぐことが

なぜ公立・公的病院の統合再編プランと連動するかというと、

厚生労働省によれば

‘医師の絶対数が少ないのに、

 人口の少ないところに公立・公的病院があって

 そこに医師を含めた医療資源が常在しているために、

 人口の多いところの病院で働く医師が

 受診者数と救急対応の多さで過重労働となっている。

 今でさえそれだから、

 人口のボリューム層を構成する団塊の世代が

 75歳になった時には、医療現場のいたるところで

 医療崩壊が起きる可能性がきわめて高い。

 その危険性を少なくするために

 病院を中核医療病院とその他とに分け、

 中核医療病院に病床と医療資源を集中させる必要がある’

からである

 

言い換えれば、

団塊の世代人口が少なく、稼働率の低い病院を

廃止するか病床(ベッド)数を少なくするかして、

団塊の世代人口が多くて稼働率の高い病院に集中させ、

医療の効率化を図る、ということである。

人口の少ない地域の病床(ベッド)数を削る、

ベッド数に応じた医療従事者数も削る、と同義だ)

 

厚労省が

高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進 (厚労省HPより抜粋)

と謳うキャンペーンと真逆なプランな気がするが、

 

これについての是々非々は、

当然、常時どこで医療行為を行っているか、

または各個人が医療の義務・責務をどうとらえているかによって、

医師および医師会、看護師などの医療従事者の中でも

意見が分かれている。

厚生労働省に詰めているか、

厚生労働省と人的・物理的に近いポジションにいる医師は

厚労省方針をサポートする立場に立つだろう。

【参考】ただちに全医療機関で労務管理・労働時間短縮進めよ

【参考】地域医療体制の在り方全体をまず議論せよ

 

問題は、

 

医療崩壊を防ぐことを建前に、

慢性的な医師不足に悩まされている地域や

中心街から遠い地域の医療を消滅させかねない案であること

(厚労省のみをオモテに出してはいるが、

 公立病院改革を掲げる総務省もプランに絡んでいる)、

 

プランの推進・実現を急ぐあまり、

新型コロナ感染拡大の危機が迫っているにもかかわらず

各都道府県の公立・公的病院と医師たちに

優先順位を無視した作業(会議含む)を強要するような

動きがあったことだ。

 

「各都道府県の公立・公的病院の再編統合計画」にかかわる

厚生労働省の部局は、医政局 地域医療計画課であるが、

長すぎるので、ここでは「厚生労働省」としておく。

 

 

◆厚労省の動き

 

昨年の9月26日、厚生労働省は、

遅々として進まない

「公立・公的病院の再編統合プラン」に業を煮やし、

診療実績が乏しいなどと判断した424病院の病院名を公表、

過剰とされる病床数の削減を踏まえた議論を要請した。

厚労省、424公立・公的病院に再編要請へ (産経新聞)

 

また、今年1月17日には、対象病院を440に増加させ、

「公立・公的病院の再編統合」の再検証を要請通知した。

「公立・公的病院の再編統合」の再検証を厚労省が通知

1月17日といえば、

タイで新型コロナ2例目の感染者が確認された日で、

前日16日には、日本国内でも

新型コロナウイルス感染症の患者が報告されている。

中国・武漢の新型コロナウイルス感染症について 2020年1月20日現在

 

1月31日、やはり厚労省により、

「地域医療構想の実現に向けて国が助言や集中的な支援を行う」という名目で、

統廃合を進める「重点支援区域」の1回目選定が行われた。

地域医療構想「重点支援区域」の1回目選定

この2日前の1月29日は、

武漢市から邦人206人がチャーター便により帰国。

厚生労働省の医薬・生活衛生局検疫業務管理室

健康局 結核感染症課の厚生労働技官、感染症専門医ら、

および各省庁や内閣官房、警視庁、救急隊他の応援部隊は

機内検疫と体調不良者の病院搬送等に追われていた。


そして、安倍総理が総理官邸で

第9回新型コロナウイルス感染症対策本部を開催した2月14日、

厚労省は「都道府県医療政策研修会」を開き、

少ない医療関係者で、増加する高齢患者に

 適切な医療サービスを提供する必要があり、

 そのためには、国・自治体・医療関係者が連携して

 地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革を

 推進していくことが極めて重要である」と強調した。

2020年2月14日 医療政策研修会

スピーチしたのは

医政局 地域医療計画課の鈴木健彦課長(当時)。

 

(どうやら、医政局 地域医療計画課の鈴木健彦課長(当時)は

新型コロナの巷の騒ぎとはまったく無縁の人のようだ。

どこで何が起ころうがマイスケジュールを遂行する、

‘いわゆる働き者’に属するお方なのだろう)

 

 

◆医療崩壊を防ぐために

 “医療が必要な人たち”が捨ておかれるパラドックス

 

ある地域の公立・公的病院の統廃合は、

当該病院の医療関係者のみならず

その地域の保健所に勤務する医療関係者、

その地域を包含する自治体(都道府県や市町村)、

医師会・看護師会・看護協会に所属する医療関係者に

大きな関心と動揺をもたらす。

しかも、厚労省が「再検討せよ」とつついた時期は、

職員の定年退職や異動辞令が

1~2ヶ月後に迫った1月と2月である。

 

想像だが、

時期的に浮き足立つ現場が

厚労省に「早く意見調整して適正案だせ」と責められ、

そこに新型コロナウイルスが襲来、

政府の対応が当初は楽観で次が後手後手、感染拡大してから

「PCR検査をしろ、ただし対象者は絞れ」、あるいは

「感染対策のツールが無くても工夫で感染を防げ」と、

通常の業務もあるのに上乗せで無茶ぶりされたら、

人間および人間集団の心理として

‘頑なな防衛反応’を起こしても不思議ではない。

 

‘防衛反応’は、

今までしてきた仕事・業務と異なる内容の仕事・業務が

加わることを嫌う。

それがどんなに必要なことであっても、

自分(と組織)をさらに混乱させる要因にしか感じられなくなる。

特に、保健所が担う‘組織間調整が必要な交渉ごと’は、

上部組織や上位者が場当たりでない基本方針を出し、

道筋を通してからでないと

実際に交渉にあたる人のメンタルにくるから、

その道筋が見えないあいだは誰もやりたがらない。

 

新潟市と名古屋市が3月に、

奈良県が4月20日に、

保健所敷地内や医療機関の駐車場で

ドライブスルー式のPCR検査を始めたが、

ほとんどの自治体(保健所)は依然として

PCR検査に高いハードルを設けている。

理由は、軽症感染者や感染者の濃厚接触者を

収容できる施設がないためと

医療崩壊を防ぐため。

新型コロナウイルスに、もし「功」の側面があるとしたら、

素直に自宅待機して

病状急変の挙句に息絶える患者の続出が、

医療の機能不全を物語っているとは考えない

日本の政府と入り口で対応する医療関係者の

鈍感さと自己防衛の強さを明らかにしたことかもしれない。

 

 

「地域医療構想」や「医師の働き方改革」なる、

機械的な選別による机上のプランと響きだけ良さげな改革案で

公立・公的病院と自治体(保健所含む)、

医師会等をつついていた医政局 地域医療計画課は、

3月から不気味に鳴りを潜めている

3月までの医政局 地域医療計画課 課長は

異動になったのだろうか。

課長以下職員は新型コロナ感染症の終息まで

何を仕事とするのだろうか。

終息したらまた粛々と

予定通りの公立・公的病院の再編に向けた作業に

とりかかる準備でも進めているのだろうか。

 

厚労省と総務省には、この際、

「各都道府県の公立・公的病院の再編統合プラン」を

破棄することを要請する

内閣に対して、

未知の疾病、感染症の危険性と対応を進言できず

責任もとれない者どもが、

公的医療や地域医療をいじくりまわせることがハナからおかしい。