『新聞記者』は、
福井県では嶺北のイオン系映画館がただ1館、
朝早くと深夜に短期上映しただけで
メトロ劇場でさえ上映しなかった映画である。
借りて観るしかないと思って正月3日にレンタル店に行ったら、
新作棚にあるはずの『新聞記者』DVDとブルーレイの計15本は
15本とも「貸し出し中」になっていた。
その後、大寒の21日にも行ってみたが、
15本中2本が返却されてただけで、13本は依然「貸し出し中」。
「わぁお この町にこの映画を観たい人が
こんなにもいたなんて」
……などとは思わなかった。
当市、いや当県では、見せたくない映画を
誰かが見せないために借り続けることがありうるからだ。
2017年10月の衆議院議員選挙の公示前後、
当市内から一斉に『北陸政界』なる雑誌が消えたことがある。
『北陸政界』は
福井県内のゴシップ・政治スキャンダルを集め、
時に爆弾を放つ月刊誌だ。
県内のコンビニや本屋で扱ってないところはないくらい
潜在的な読者が多い。
そしてこのときの『北陸政界』には
福井2区で7選目を狙う衆議院議員の
スキャンダルが載っていた。
かの議員の当該選挙区(当市含めた嶺南地方)に放たれた
‘回収員’の働きはめざましく、
コンビニや本屋のみならず
定期購入している理髪店、病院、飲食店などにも
回収に現れた。
もちろん、その政治家の後援会が回収を指示した証拠はない。
しかし、いつもは ‘この時間こんなところにいるはずがない’
作業制服を着た50代から60代のおっちゃんらが
複数で各店を回遊物色し、
大型書店では大量に購入していったので
その様子はいやが上にも目立った。
そういう土地柄だから、
レンタル店に
「いつ返却されて、借りることができるようになりますか?」と
尋ねるのは憚られた。
買うしかない。ネット通販で手に入れた。
以下、感想。
ネタバレも含むのでご注意ください。
批判点はひとつ。
「のっけから、観る人をふるいにかけてしまった映画」。
冒頭の劇中劇に、原作者である望月衣塑氏や
元・文科省官僚の前川喜平氏が
今の政府やマスコミの姿勢・在り方を語り合う場面が出てくるが、実在する彼女や彼を使わずに、
セリフはそのままで誰か役者を立てて語らせたほうが
“政治的立場や刷り込みから来る拒否反応”を
避けられたのではないだろうか。
これが原作者の希望だったら仕方がないが、
「(広義の)プロモーションとしては失敗ではないか」
という思いが強くした。
人口の多い大都会住民にさえ観てもらえばいいならともかく、
長いものに巻かれて済ませたい人や
「寄らば大樹の陰」が生きる術の全てな地方民にも
観せたいなら(というかその種の人が観たほうがいい映画)
工夫の余地があったはず。
これでは、安倍内閣とその政策を
「反共」の一点で盲目的に支持する人たちから、
本編内容を脇に置いて
「サヨクのプロパガンダ映画」
「原作者の宣伝映画」と攻撃されることに
格好の材料を与えたも同然だ。
もっとも、別の角度から見れば
望月氏や前川氏は、映画の内容的にスタッフやキャストが
攻撃にさらされることが容易に想像できたから、
まず自分たちが顔を晒して冒頭に出ることによって
覚悟のほどを示し、且つ盾を引き受けた可能性もある。
映画全体の感想は、1度目と2度目の鑑賞後が同じで、
2度目の鑑賞から日を置いてつらつら考えたあとに
少し変わった(大きくは変わっていない)。
この作品の評価は、
内閣調査室官僚の杉原に「このままでいいんですか」と迫る
シム・ウンギョンの演技の強さをどう感じるかで変わりそうだ。
私は内調官僚の杉原に同情した。
‘失いたくないもの’が多ければ多いほど
人質が増え、踏絵が増える。
ヒトは、各々所属する社会のシステムに守られて生きているが、
そのシステムの管理上位者が
人質と報酬をちらつかせてルールや法に反した指示を行い、
足元に幾枚もの踏絵を置くことはままある。
そのとき、
その社会をあっさり捨てられる人がどれほどいるだろうか。
杉原に扮した松坂桃李の演技は過剰でなく、ただただリアルで、
それだけに真に迫っていた。
メッセージは、脚と目の周りを黒く塗り潰された羊のイラストと
主題歌のタイトル『Where have you gone 』に
象徴されている。
映画冒頭でFAXから流れてきた羊の初見、
大昔に聴いた洋楽(ロック)の日本語訳をおぼろげに思い出した。
生贄の黒いヤギだったか羊だったか、それが受けた仕打ちを、
白いヤギだったか羊だったかと対比させて
歌った歌だと記憶しているが、
バンド名も曲名も覚えていない(覚え違いかもしれない)。
購入したDVDには特典として主役2人のポストカード(3枚)と
この羊のシールがついていた。
可愛いから時々出して眺めるが、そのたびに
「羊でもヤギでもいいけど、それを殺したままでいいのかい?」と
羊にささやかれている気がする。