母の肝臓へのガン転移がわかった。
時間の問題ではあった。六月、神戸の市民病院で「食道ガンです。それもかなり進行しています」と診断され、転移の可能性も示唆されていた。
専門知識はないが、こちらにも、鎖骨から上のガンは転移が当たり前という認識はあった。食道ガン?ああ、もうリンパ通じてちらばってるな。と。
私は滅多に実家と連絡をとらないできた。神戸に行くことはあっても、友達と会うか一人で町を歩くか。泊まるのもホテルか友人宅だった。
だけど母親の死期が近く、姉しか病院との折衝や病人の介護ができる人間がいないとなれば、まるで無視するわけにもいかない。
母親は激高型で粘着質、虚言癖や芝居型の言動ヒステリーもある。しかも計算高く、世間に対してはすまして体裁をつくろうだけの現実対処能力がある。おかげで子ども時代から、それでどれだけ私や姉弟妹が振り回されてきたことか。
母がどうなろうと私はどうも同情する気になれない。彼女の境遇が可哀想なものだと頭ではわかってもだ。これが、当のこの人に育てられず、少なくとも親戚程度の間柄なら「可哀想に」ぐらいは言えるのだが。