表裏一体 -36ページ目

一か月

穏やかな時間③

「美人になるの」

「なんだそれ(笑)」

わたしの後ろについて階段を降り


二人で外に出た



「じゃあね」


「うん。ありがとう。気をつけて」


もう限界だった

最後の言葉は背中で聞いた


外は暗くて顔なんかぼんやりなのに顔を向けられなかった


自分の車に乗った途端

涙があふれた


何の涙なのかわからない


この姿を見られるのが嫌だったからエンジンをかけてすぐに発進させた




早く帰りたくて
「じゃあね」
ばかり言っていたわけじゃないよ

早く帰りたくてすぐに走り出したわけじゃないよ




あなたに別れの言葉を先に言われるのが怖かったんだと思う




「またね」

って言いたかったけど理由がない


「わたしも行きたい」

って言いたかったけど戸惑うかもしれないから言わなかった




髪を切りに行っただけだから

用事はそれだけだから

穏やかな時間②

「いいよ。今までで一番の出来かも」


切り終わって
片付けて
タバコに火をつける


そういえば、あの日からタバコの量が増えたなぁそう思いながら


これを吸ったら帰らないとな


用は済んだからここにいる理由が無い


「ケープ置いていくよ?」

「なんで?」

「だってわたし必要無いし」

「持って行ってよ」

「ハサミは?」

「なんで置いていこうとするのさ(笑)」

「だって(笑)」

だって、必要無いもん
あなたが買ったモノだし

ここに置いておくとわたしじゃない人にだって切ってもらえるでしょ

逆になんで持って帰らせるのかがわかんないし



あの人が隣りの部屋に行っている間に身支度を整えた


長居する理由がないからね


「じゃあね」

「ちょっと待ってよ(笑)」

「なんで(笑)」

「今から釣り行くから」

「今から!?」

「明日仕事だからちょっとだけど」


あの人は着替えながら
「ベルトしないと落ちるな。痩せたのかな?」

「わたしも痩せたよ」
「何キロ?」

「5キロ」

「マジで?…そういえばあごのあたりスッキリしたかもな」


この時今日初めて真正面から3秒くらい目を合わせた