昨日は2025年の観劇納め、
歌舞伎座第三部を観てきました。
第三部は18時10分開演。
開場時間にはすっかり日も暮れています。
それにしても、
ライトアップされた歌舞伎座の美しいこと!
今月の歌舞伎座は三部制での興行です。
第一部が超歌舞伎、
第二部は黙阿弥と落語原作の世話物、
そして第三部は、
人間国宝・坂東玉三郎さん主演作が2本。
発表されたときには
振れ幅のかなり大きな演目にちょっと驚いたのですが、
気づけばどの部も楽しく観劇したのでした。
では、第三部の感想です。
松竹創業百三十周年
十二月大歌舞伎
第三部
一、与話情浮名横櫛
(よはなさけうきなのよこぐし)
源氏店(げんじだな)
鎌倉雪の下の源氏店。
和泉屋多左衛門の妾宅に住むお富のもとへ、
小悪党・蝙蝠の安五郎が相棒を連れて
金をたかりにやってきます。
「切られ与三」と異名を取り、
体中に傷跡のあるその連れは、
なんとかつて愛した男、与三郎で…。
今も大人気の世話物の名作
『与話情浮名横櫛』のなかの名場面「源氏店」です。
この場面に至るまでの経緯を知っていると、
物語がすんなりと頭に入ります。
放蕩三昧がたたって勘当された
江戸の小間物問屋の若旦那・与三郎と、
江戸で評判の芸者だったところを
やくざの親分に見初められ妾となっているお富。
この美男と美女が
木更津の浜で運命的な出会いを果たし、
たちまち恋仲となりますが、
すぐに親分の知るところに。
お富は逃げ出して海に飛び込み、
与三郎は顔や体に34か所もの傷を負うのでした
(なので、この芝居は
「切られ与三」という別名があります)。
互いに相手は死んだものと思っていたら、
木更津から遠く離れた鎌倉で
奇跡の再会を果たして…、というお話です。
注目は、
与三郎を20歳の染五郎さんが演じる、
ということ。
おとなの恋物語を、若い彼がどう演じるのか?
しかもお富は玉三郎さん。
これが、期待以上に絵になったのです。
あらためて申し上げるまでもありませんが、
実年齢、すごい差です。
しかし、無理がない。
そして、美しい!絵になります!
染五郎さんは本来の若々しさを隠すことなく、
無理に背伸びすることなく
与三郎を演じていたのが印象的。
いや、むしろ若いからこそ、
無茶な恋をして零落した大店のぼんぼん、
というキャラクターが浮かび上がった気がします。
今の染五郎さんだからこその与三郎。
そして、有名な七五調の台詞。
「いやさお富、久しぶりだなあ」
「しがねえ恋の情けが仇…めぐる月日も三年越し、
格子造りの囲い者、死んだと思ったお富たぁ、
お釈迦様でも気が付くめえ」
所作も併せ、まだ硬い感じはありますが、
想像以上にカッコいい!感心しました。
これがまだまだ進化していくのだと思うと
ワクワクします。
ただ、与三郎は顔や体に
34か所の刀傷があるのですが、
その傷のお化粧にちょっと違和感。
仁左衛門さんの傷はもっとナチュラルだった気が。
そう、お父さまの幸四郎さんの時も。
オペラグラスを覗くとそればかりが目について、
もう少し工夫してほしいなと思いました。
対する玉三郎さんのお富は、
浮世絵から抜け出たような艶っぽさ。
色っぽい!
前半、番頭藤八を相手にした少しすれた雰囲気から、
与三郎相手の恋する女モードまで自在に演じ、
生身のお富を見ている気分になりました。
脇を固める面々は、
お富を囲う和泉屋多左衛が権十郎さん、
さすがの安定感。
蝙蝠の安五郎が幸蔵さん、
町のチンピラをいい雰囲気で見せてくれます。
そして、お富に言い寄るものの軽くいなされる
番頭藤八を市蔵さん、キュートなコメディリリーフ。
玉さまのリードで、
大人の階段を一歩一歩確実に上っている
染五郎さんを目撃でき、
幸せな一幕でした。
二、火の鳥
血で血を洗う戦いの末に富を得た
とある豊かな王国。
病床に伏した大王(市川中車)は、
国の今後を憂えている。
そして、さらなる国の繁栄のため、
永遠の力を持つという火の鳥の捕縛を
息子のヤマヒコとウミヒコに命じるのだった。
大河、山、砂漠、火の鳥を探す過酷な旅の中で、
ふたりの王子は絆を深めていく。
やがてたどり着いた遠国の庭で、
イワガネと名乗る人物に出会うふたり。
イワガネの言葉に従うふたりの目前に
火の鳥が現れると……。
竹柴潤一脚本、原純の演出・補綴・美術原案、
坂東玉三郎演出・補綴で、
今年8月に初演された新作歌舞伎です。
4か月ぶりという極めて異例の早さでの再演です。
衣裳や鬘、照明、映像、舞台装置、音楽、
初演時はその独特な世界観に圧倒され、
凄い!
と思っている間に幕となったのを
鮮明に記憶しています。
今回は、物語が前回よりだいぶすっきりとし、
登場人物のキャラクターも変わっています。
配役にも変更があります。
まず、大王は中車さん、
幸四郎さんからのバトンタッチ。
キャラクターは重厚さ、そして王らしさがアップ。
弟王子のウミヒコは左近さん、
團子さんからバトンタッチです。
染團のときに描かれた兄弟間の諍いは全く無く、
今回は、ひたすら兄を慕う弟、という立ち位置、
このキャラクターが左近さんによく合って、
とにかく可愛い!
ずっと観ていたいくらい可愛い!!
対する染五郎さんも立派な兄ヤマヒコとなり、
ふたりの王子が力を合わせ、
父王のために厳しいミッションに挑む姿が
鮮明になったように思います。
黄金のリンゴの守り人イワガネは
前回と同じく新悟さんですが、
出番が増えていましたね。
妖術も使うようになってパワーアップ。
さて、肝心のタイトルロールの火の鳥は、
玉三郎さんがものすごい存在感。
圧倒されます!
真っ赤な衣裳に身を包み、
真っ赤で大きな羽を広げ、
鬘も、お化粧も、真っ赤にキラキラと光ります。
劇場じゅうの人が息を飲むのを感じます。
そして、われわれと同じ重力のなかにいるとは思えない
軽やかさ、滑らかさで舞い、
最後には「永遠とは何か」を滔滔と語り、
クライマックスには宙に舞い上がり、
観る者たちはその唯一無二の世界観に
からめとられて、幕。
場内いっぱいに鳴り響く、美しい拍手の音。
玉三郎さんの創り出した美しい世界を壊さないように。
初演時と比べると、ずっとわかりやすい、
ストレートな話になっていたと思います。
しかし私は、前回の方が好きだったかなあ。
初演時の「なんだ、これは!?」という衝撃がない、
これは仕方ないとして、
ふたりの王子の諍いは物語のアクセントになっていたし
(でも、お兄ちゃん大好きな左近ウミヒコは好き♡)、
幸四郎さんの大王も
エキセントリックな感じが好きだったのですよ。
そして、前半部分のお話が分かりやすくなった分、
火の鳥の長い語りが目立ったのです。
とはいえ、玉三郎さんにしかできない舞台を
一年の最後に観ることができて、
本当に幸せな時間でした。
というわけで、
古典と新作の真逆な2本立ての玉さま祭りで
私の2025年の観劇は
美しく納まったのでございました。
今年もいいお芝居にたくさん出会えました。
お芝居の神様に感謝、感謝。
来年も、多くの感動をいただけますように。
十二月大歌舞伎
12月26日㈮千穐楽です。



