肥大型心筋症


彼女の診断名だ。


医療ドラマなどで聞いたことはある。


2年前の検査入院でついた診断名だった。


あれから 3カ月に一度のペースで診察を受け、

今回 2度目の検査入院となった。


楽な検査はない。

心臓カテーテル検査などは 死のリスクもある。


医療機関で働いている彼女は この検査で時々人が亡くなることを知っている。

まして大学病院では研修医が行う。

車椅子を押されて病室に戻ってきた彼女は涙目で「地獄だった」と言った。


怖かったろうに



手術室で行う検査。

患者に不安を与えることなく静かに行われるイメージがあった。


現実は全くちがう。


「家族には絶対に見せられない」

と彼女は言う。


動けないように手術台にテープで固定され、

首、頸静脈と 手首の動脈から心臓まで

金属のワイヤーを通して、心室の圧力などを検査する。


部分麻酔が効く間もなく針を刺され、

研修医は不慣れな手つきで作業をする。


心臓へ送るはずのワイヤーが 頭の方へ行っていると大きな声が飛び交い、やり直し。


馬乗りになられるため、重く 身体が痛い。

頭も腕も強く押さえられ、針をグリグリされる。


「大丈夫ですか!?」

と聞いてくれるが、

声が出せるような状態じゃない。


頭には布を掛けられているため 目で訴えることもできない。


はじめは真っ暗だった視界が、だんだん真っ赤に染まっていったと。


ほんとに地獄だったと。


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