「なぁ、一人なん?」

「え…?」

 考え込んでいた為に人が近付いたことに気がつかなった。髪を染めた男が達憲を見つめていた。

「俺と一緒にどっか行かん?君、めっちゃタイプやねん」

 男が話す言葉が一瞬理解出来なかった。少したってから「あぁ、ナンパ?」なんて思ったくらいだ。達憲にはどう対処していいかもわからない。こんな風に声を掛けてくる人には初めて会ったのだ。

「えっと…?」

 普段は生意気だとか言われている達憲だが、不慮の事態には対処に困る。

「何やってんねん」

 どこか不機嫌に聞こえる智也の声に達憲は勢い良く顔を上げた。ほっとした気持ちがあったが智也の表情に眉が下がってしまう。

「智也…」

「あれ?彼氏持ち?残念」

 へらりと笑った男は達憲に手を振ってから首をきょろきょろとさせつつ去って行った。達憲からすれば台風一過といった男に思わず眉を寄せる。

「お前な、普段は平気でキツイ事言うくせになぁ…」

 苛付き篭った声で智也が言葉を紡ぐが途中で溜め息に変わってしまった。達憲には良く理解できないまま促されるように立ち上がり、両手にジュースとチュロスを持った智也に付いてチケットに記載された番号の椅子まで歩いた。達憲の中には謎が多く残ってはいたが。

 話題になっていただけに映画自体は面白かったのだが、集中することが出来なかった達憲はチュロスを食べながらぼんやりと画面を眺めていただけになってしまっていた。

 智也は普段からあまり話す方ではないが、言いたい事はハッキリと言うし、言葉を途中で濁すような事はしないはずだ。その智也が言葉を濁した事が達憲にとっては大問題だったのだ。映画の途中もちらりちらりと智也を見ては手元に目線を戻し、映画に移すと言う行動を達憲は繰り返した。

「そこそこやなー、オチがもっとあってもええのにな」

「…あ、うん。せやなぁ」

 明りの灯ったホールの天井を見上げていれば智也が愚痴るように呟いた。少し遅れて達憲も反応を返してから智也の方を見ればそこにはどこか不機嫌なままの顔があった。

 上の空だった事が気に食わなかったのかとすぐに思い当たった達憲だったが、原因が智也なだけにムッと唇を尖らせて立ち上がった。どうも、いつもと調子が狂う。一度考え出してしまえば智也への不満がつもってくるのだ。もちろん、大好きなのには変わりはないが、手を出してこない事も、言葉を濁した事も、思い返してみれば服装を褒めてもらったこともない。むしろ、褒められた覚えがない。

「はぁ…まぁ、ええけどな。飯どないすんねん?」

 機嫌を損ねたらしい達憲の様子に智也は「またか」とばかりに溜め息を吐き出して立ち上がり、外へと歩きながら少し前を歩く低い位置にある頭に話しかけた。

 負のスパイラルになっている達憲にとってはいつもと同じように接している智也にますます機嫌が悪くなるばかりだった。達憲自身はデートだと思っていたが、良く考えれば幼馴染の関係だった頃と何も変わらない。たまにキスはあるけれど、本当にたまになのだ。恋人のように扱ってもらった記憶もないような気がしてきた。

「……俺、帰る」

 声が震えなかったのが不思議だった。考えれば考えるほどに泣けてくる。気持ばかり盛り上がったのは自分だけだったのかと達憲は俯いて小さく言葉を漏らした。




☆あとがき☆

なんか、ぐだぐだしてきた…

もはやどうなるのだ

エロ書きたかっただけなんだけどなー;

達憲が男の娘だったら。。。



 白い生地に薔薇柄が入ったワンピースはミニ丈。もちろん裾にレースが付いていて可愛さ満点。ニーハイも履いたし合わせる靴も決まっている。顎下で前下がりに揃えた髪は内巻きにして、シャドーはピンク系、チークは高めで丸く入れて、ウォータープルーフのマスカラはバッチリ。

 鏡の前で最終チェックを済ました見た目「美少女」の名前は松尾達憲。そう戸籍は列記とした「男」だ。小さなころから姉二人に着せ替え人形にされ、気付けば女の子の服装でいる事が普通になっていた。小学校は私服だったのだ、中学校は制服だったが詰襟を着るのは嫌だった、故にセーラー服を強行で着たし、高校に入ってからは着たかったブレザーに身を包んでいる。裏から親が学校に何か圧力を掛けたような気もしないでもないが、深くは気にしない事にした。(気にしたら負けの様な感じだった。)

 部屋で全身をチェックしてから鞄もチェック。財布、携帯、化粧ポーチ、スケジュール帳、鏡と順番に見ていれば母親からの呼び声。

「たっちゃーん、智君来たで!」

「はーい!」

 元気良く返事をしてから、玄関に走る。気だるそうに玄関の壁に背中を預けている待ち人の名前は矢野智也。高校2年になってから達憲と恋人関係にある幼馴染だ。

「智也、時間ぴったりやん」

「隣りやからな」

 軽く手を上げるだけの智也に満面の笑みで達憲が挨拶を交わす。キャンパス地のパンプスはリボン付きで少し高めの7cmヒール。決して歩きやすい訳じゃないけど、今日の服にはぴったりの靴を達憲は履きたかったのだ。靴を見た智也は軽く眉を寄せたが何も口にはしなかった。

 二人で一緒に出掛ける事は今までもあったが恋人としてデートするのはまた気持ちが違う。デートコースは在り来たりに映画館に行って食事して。こっそりと達憲は智也の部屋に泊まるつもりでいる。自分の親には言ってあるし、姉二人も協力的だ。何よりも、智也の父親は出張でそれに付いていく形で母親も留守。中学生の弟は親がいないのを幸いと友達の家に泊まりに行っている事も知ってるのだ。障害は何もない。着替えは持ってこなくとも家は隣同士なのだから取りに行けばよい。

 ここまで達憲が考えるには理由があった。中学生のころから大人びていた智也は年上のお姉さんと付き合っていたし、高校に入ってからは先輩との噂も絶えなかった。幼馴染でずっと一緒にいると思っていた達憲からすれば智也が知らない“男”になったようで寂しい思いをしていた。同級生に智也の元彼女なんて子もいるのだ。「手が早い」なんて言われていた智也は付き合って1カ月以上経つのに触れ合うくらいのキスしかしていないのだ。自分には魅力がないのかとか、恋人だと思っているのは自分だけなのとか、やっぱり女の子の格好をした自分ではなくて本物の女の子がいいのかとか色々考えてしまうのだ。

 達憲にとって女の子の格好をしても自分は男だし、女の子になりたい訳でもない。似合うから着るのだし、可愛いのは好きなのだ。

「達憲、聞いてるかー?」

「ふえ?あ、ごめん。何やった?」

「あれ食うんやろ?」

 指差されたのはポップコーンの機械の隣りにあるチュロス。砂糖とシナモンがたっぷりかかっていて甘いもの好きの達憲の好物の一つ。大きく笑顔で頷けば「買ってくるから待っていろ」とのこと。行列になってるから広い所で待たせてくれるさりげない優しさも智也の格好良い所だと達憲はほんのりと頬を染める。

 背の高い智也の背中をぼんやりと見つめながらベンチに腰掛ける。女の子同士で来てるグループがちらちらと智也に視線を送っているのを見ると胸の中に黒い気持ちが広がってきてしまうのは仕方のないことだと思う。彼女たちは達憲とは立ち位置が違うのだ。世間に対して大手を振って智也にアピール出来るのは強みだし、羨ましい。


部屋の明かりを全て消して、遮光カーテンをきっちりと閉めた。
真っ暗な部屋の中、ひとりで眠るには大きなベッドに転がる。
時計の針が進む音を聞きながら目を閉じてみたが、眠れる気配はやって来なかった。達憲は小さく息を吐き出してゆっくりと目蓋を持ち上げた。
何の変哲もなく真っ暗な部屋の天井が視界に入ってきた。暗闇だった部屋にも目が慣れてしまったらしい。
眠ろうと再び目を閉じてみるも、やはりと言うべきか睡魔はやってこない。それどころかグルグルとネガティブな考えが頭を巡る。
「あかん…寝なあかんのに…」
誰に言うでもなく呟いた声が闇に吸収され、妙な寂しさを覚える。
数日後に試験の締め切りが迫っている。行きたくないわけではなかったが、そんな気になれず、ズルズルと先延ばしになっているのだ。行かなければと思うが体はついて来ない。現実離れした、まさに逃避するような考えばかりが沸き起こる。
夜になっても眠気が来なくなったのはいつからだっただろうか。
なんとも言えない感覚が達憲の中で渦巻いていた。一睡もせず大学へ行くのも普通になっていた。ただ、コマがない日は明るくなってから眠りそのまま昼過ぎまで起きないなんて事もざらにあった。
自分の中で駄目だと分かっていながらどうする事も出来ず、夜にはまた無気力な自分に戻ると言った悪循環に達憲の心は苦しみを訴えていた。
「寝たいのに…全然や」
仕方なしに携帯へ手を伸ばした。明かりの付いたディスプレイは目に痛いほどたった。時刻はそろそろ日が登る時間になりそうだった。
ふ、と、達憲は恋人である智哉の姿を思い浮かべた。
彼は今頃、熟睡しているのだろう。健康的な恋人は早朝、近くの公園へ走りに行っているのだ。学生の頃の習慣が抜けず、続けているらしいが、不健康な自分には出来ないソレを達憲は凄いと素直に思っていた。もちろん、本人には言った事はないが。
ぼんやりとしばらく会っていない気がする智哉の姿を思い浮かべていた。
最後に会ったのは大学で、数日前だ。
キスをしたのは更にその数日前で、体を繋いだのも更に数日前だ。
そこまで考えてから、その原因が自分にある事を思う。試験のために切羽詰まった自分に智哉が気を使っているんだろう。かと言う彼も試験が近かったはずだ。
気付けば遮光カーテンの隙間から薄い光が漏れていた。日が昇ってきたらしい。携帯で時間を確認する。寒い時期の太陽は遅い。
「智哉が走る時間や…」
そう思うと同時にベッドから立ち上がっていた。パジャマ代わりに着ていたジャージを脱いで適当に服を纏う。鏡を覗いて髪型を確かめる、どこか精気のない表情に見える自分に向かって無理矢理に笑顔を作ってみた。
財布と携帯、家の鍵だけを持って外に出た。早朝特有のシンと冷えた空気が靄の掛かった頭に染み渡る。
人通りもない道を歩き、智哉が走っているであろう公園へゆっくりと近付く。
犬を散歩させる人や体操する人がちらほらと見える。
会える何て確証はなかった。
ただ、気分を変えたかっただけかもしれない。冷えたベンチに腰掛けて目を閉じる。まだ弱い光が目蓋に透ける。厚着しなかった体は寒さに震えだしたが気にはならなかった。

「達憲…?」
ふいに、低い声が自分を呼んだ。億劫に感じたが目蓋を上げればジャージ姿の智哉が目の前にいた。
ゆっくりと瞬きを繰り返す。とてつもなく久々に会ったような感覚に襲われる。
「お前、何やってんねん。んな格好寒いやろ?」
眉を寄せて怪訝な表情をしている智哉が一歩、達憲に近付く。
何も言わず背の高いを見上げる達憲は頭の靄が薄れていく感覚を味わっていた。
反応の薄い達憲に業を煮やしたらしい智哉が、力なく垂れた達憲の腕を掴んで無理矢理に立たせた。
「何か知らんけど、とりあえず家来いや。聞いてるか?」
「…ん、聞いてる」
呆れたような声色が上から降り注ぎ、達憲は小さく頷いて口を開いた。
自分から歩き出そうとしない達憲を引っ張るようにして智哉は公園近くのマンションまで歩いた。
とりあえずと部屋の中に達憲を押し込み自分も入れば冷えた部屋を温めようとヒーターの電源を入れた。
「何してたんや?」
ぼんやりして見える達憲をソファに座らせて顔を覗き込む。
「…智哉にあえるかなぁ、思て」
指先を合わせるように肩を竦めた達憲がぼそぼそとつぶやく。
本人にも何をしたかったのか分からない。ただ漠然と公園に来たのだから。
「俺が起きてんの知ってたやろ…電話でもメールでもしといたら良かったやんけ」
溜め息とともに苦々しく達憲の隣に座る。はっきりとした理由は分からないが、達憲がこのまま消えてしまうのではと思わせるほどに、精気を感じられなかった。
「寝てへんねんな、顔色白いで。体強ないねんから…ちゃんと寝なあかんやろ」
達憲の目の下にある隈に智哉は眉を寄せる。幼なじみとして小さな時から見てきた達憲は決して強い子ではない。熱を出すのも良くあることだったが、勝ち気な目と強気な態度が弱さを打ち消していた。
それが今は壊れてしまいそうに見える。
「寝れへんの、何か…あかんねん」
泣いているのではと心配になる程にか細い声が漏れる。
本当にギリギリになるまで何も言わず頼る事もしない達憲に智哉は盛大な溜め息を吐いた。
「試験か?…あんなぁ、絶対受けなあかん事ないやろ。そら、金払ってるから勿体無い思うやろうけどな…寝られへんほど追い詰められてどないすんねん」
「何も言うてないやん…」
小さな達憲の頭を智哉の手が軽く叩き撫でる。慰めるように。
話してもいないうちから核心を突いてくる智哉をそろりと見上げて唇を尖らせた。
「気にしすぎや、取らなあかんもんちゃうやろ。止めとけ。な?」
「ええん…?」
「次でええやろ、無理すんな」
低く落ち着いた智哉の声に達憲の胸につっかえていたモノが外れた気がした。
ぼんやりしていた頭も徐々にクリアになっていく。
「あ…せ、やな…何や眠い…」
自分を苦しめていたらしい試験を必要ないと言われ憑き物が落ちたような心地を達憲は味わった。同時にしばらく感じられなかった睡魔がじんわりと目蓋を重くした。
隣の智哉に凭れるように体を倒せば、嗅ぎ慣れた匂いに混じり汗の香りがする。
「寝るんやったらベッド行け…って無理そうやな。しゃぁないなぁ…」
ほぼ目蓋が落ちてしまった達憲の姿に苦笑を浮かべ、軽々と智哉は細い体を抱き上げてベッドに運ぶ。
既に寝息をたてている幼い寝顔に口付けを落としてから風呂場へ向かった。

普段は決して弱さを見せない恋人だが、独りで思い詰めて思い詰めてやっと自分を頼ってくる。
弱っている達憲も可愛らしいと言えばそうなのだが、やはり、いつも通り強気で自分を振り回そうとする達憲の方が愛しいと智哉は思う。
せめて、もう少し頼られる男になれるよう努力するしかないかと、不甲斐ない気持ちを味わいながら達憲が眠るベッドに寝転がった。



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いや、何が書きたいかは分かりません…
子犬ちゃん(達憲)は小悪魔なんだけどね、すっごいナーバスになったりするんよ
それを分かりつつご主人(智哉)は頼ってくるまで見守るしかないねん。
うん、まだ子犬ちゃんが子供なんよ
まぁ、そんな感じ(笑)

普段はラブラブなんやけどね!