6:『炎のチンク~トラウマ1号事件~六甲の美味しい水の正しい使い方とその考察』4 | Memory and Experience ~Cinquecento syndrome~

Memory and Experience ~Cinquecento syndrome~

○○○ 71' FIAT500との生活○○○
MEXが綴る旧FIAT500との悲喜こもごもな日々

第4話=Smoke on the Water編
・・・そして遂にその時はやって来た・・・


「さぁ困ったぞ!」

小便小僧状態のチンクを前に私は頭を抱えていた。

○○ガレージのSさん曰く、

「オイル吹いてるところにウェス(布切れ)をあてて、ゆっくり走って持っておいでよ。」

とのことだった。

というわけで、なんとか自走していく算段をしていたのだ。

「ウェスは・・・このぼろタオルでいいか。でもどうやって固定しよっかなぁ。」

というのも、そのままタオルをあてただけだと、どう考えてもすぐに落ちてしまいそうな位置に渦中のボルトはあるのだ。

「む”~ん。そうだ!ガムテープで縛っていけばいいんじゃん!」

我ながらいい思いつきである。

タオルをあててガムテープでグルグル巻きにする。

「よ~し、これだけ縛れば大丈夫だろう。」

試しにエンジンをかけてみる。

『ンギョバラララン!』

「ふっふっふ。なんていい始動なんだ!タオルはっと・・・。うん、これならオイルも飛ばないし大丈夫そうだぞ。」

○○ガレージまでは約一時間のコースだ。

「さて、そろそろ出発するか!」

裏道を抜け環状七号線に出る。

土曜日の朝ということもありクルマの流れはスムーズだ。

エンジンフードはタオルをあててあるとはいえ、もしもオイルが噴き出して後ろのクルマにかかったら迷惑なので閉めてあった。

エンジンオイルは継ぎ足してあるし、予備のオイルも積んである。

「ふんふん、これなら一時間もかからずに着けそうだぞ。」

オイル漏れ以外はまことに調子がいいので、追い越し車線を快調にチンクは走り続けていた。

「きっとオイルが噴き出していたら、リアウィンドウにオイルが付くからわかるだろう。」

そう思って環状七号線の一之江を通り越したあたりで、ふとルームミラーで後ろを確認したのだった。

「オイルはどうやら付いていないようだが・・・。ん???」

何故か今まで割と車間距離をおかずに走っていた後続車が

『スウゥゥ』

と距離を置いたのだ。

「よしよし、流れには乗っているけどこっちは旧車。ブレーキランプの点灯タイミングが若干遅めだからそのくらい距離をおいて欲しいもんだぜ。」
(ブレーキランプの点灯タイミングが若干遅め=その理由は、ブレーキランプスイッチの接点に、間違ってMyチンクとは違う年代用のスイッチが付いていた所為だ。もちろんイタリア人が取り付けてくれたものだ。)

「でもさっきよりクルマが減ってスピードが出てきたな。走行車線に戻って少しスピードを抑えて行くか。」

エンジンの回転が上がると、クランクケース内の圧力が高くなるため、オイル漏れがひどくなる恐れがある。

「慌てずにゆっくり行こう。」

そう思いウィンカーを出し車線変更を行う。

「?・・・おかしいな。」

無理な割り込みをしたわけではないのに、後ろにいた別のクルマがまたしても

『スウゥゥ』

と距離を置いたのだ。

「・・・何かこう不自然だぞ・・・。なんで後ろの車は下がったんだ?」

赤信号で止まっていた前のクルマに近づいたので、ブレーキを踏みスピードを落とす。

「後ろのクルマは?」

ルームミラーに映ったそいつはあきらかに距離をおきたがっているようだ。

「オイルが噴き出てるのかなぁ。」

もうすぐクルマが停止するというときに信号が青になり、また走り出した。

しかし後ろのクルマは敢えて遅れて走り出したのだ。

「・・・まて・・・あまりに不自然だ。こいつはやっぱり何か変だぞ!」
一抹の不安が頭をよぎる。

「一旦止まってエンジンを確認しよう。」

幸いにも、環状七号線の路側帯は広い。

「よし、あそこなら止めても邪魔にならないだろう。」

縁石いっぱいに寄せて停車し、チンクを降りた。

そしてエンジンフードに手をかけようとした、その時だった!

チンクのエンジンフードには熱を逃がすためのスリットが開いている。

それはリアエンジンのクルマの特徴でもある。

そしてそのスリットは普段はフード内の影の所為で、当然ながら黒く見えている。

いや、黒く見えていなければならないのだ!
しかし、

「ん・・・・何で赤いんだろう・・・?」

「でもなんだかかっこいいぞって・・・はっ!!!まさか!!!」

不吉な予感が全身を駆け巡る。

『ガバッッ』

とエンジンフードを開ける。

そこで目にしたのは・・・・

『メラメラメラメラ』

「・・・・・・・・」

『メラメラメラメラ』

「ギャーーー!!!」

『メラメラメラメラ』

「も~っもっもっ、燃えてる燃えてる~~~~!!!」

『メラメラメラメラ』

「はっ!そうだ!!!エンジン!エンジン! エンジンをとめろ-!!!」

すかさず運転席の窓から手を突っ込みスターターキーを引っこ抜く。

「ふうっ。これでよしっと。」

私はほっとして再びチンクの後ろにまわり、確認するためエンジンルームを見た。

『メラメラメラメラ』

「・・・・・・・・」

『メラメラメラメラ』

「はっ!エンジン切ったからって、火が消えるわけじゃないじゃんかぁ~!」

大いに動揺し、すでに目はグルグルの大渦巻き状態である。

「そっ、そうだ!火を消さなければ!水は!水はいったいどこにあるんだぁ~~~!」

『キラ~ン!』

そう、グルグル目の左の果てに映ったそれは、

「ロォォォーーーーソン!!!」

見つけるが早いか、財布を片手に全力猛ダッシュである。

店内に駆け込み冷蔵庫の扉手をかける。

「あった!これだぁ~!!六甲の美味しい水!」

他にも色々ペットボトルの水はあったのに、何故『六甲の美味しい水』でなければならなかったのか・・・。

パニック状態にあったので定かではないが、確かにそいつは他の水を差しおいて、ダイヤモンドのような輝きを放っていたのだ。

しかしそれ以上、どれにしようか考えている余裕などないのだ。

この間にも、チンクのエンジンルームはメラメラなのだ!
もはやこの美味しい水に賭けるしかない(?)のだ!

「こっ、これ下さい!!!」

店員さんからおつりをむしり取り、その美味しい水1.5リットルを二本抱えてキャップを開けながらも、まるで七輪の上の鏡餅のように火あぶりになっているチンクの元へと、またしても猛ダッシュで駆け寄った。

「ここだあぁぁ~喰らえ~!!」

敵はマフラーの上。

そう、転落したタオルが、よりにもよってマフラーの上に鎮座し、真っ赤な炎と黒煙をあげているのだ。

「このヤロォォォ~!!」

『ジュジュジュ~~』

六甲の美味しい水二本同時のダブルアタックである。

「こんのぉ~!消えろーー!うおーー!!」

『シュシュ~~』

もうもうと水蒸気が立ちこめて見えなくなった敵をめがけ、必死に美味しい水をふりかける。

『しゅぅぅぅ~・・・』

「はぁっはぁっはぁっ・・・」

水蒸気がひいてくると、なんだか焼きすぎちまった手羽のような形の黒こげなったタオルが見えてきた。

「ふっ、ふはは!きっ、消えたぜぇ~。思い知ったかこのヤロォー。」

ホッとして力が抜けた私は、ペタンとその場に座り込んだ。

「はぁ・・・。よかった。これで済んで本当によかった・・・。」

未だ空になったペットボトルを二本抱えていることに気付き、その両手を見つめる。

「あっ!手の毛が焦げてるぅ~!」

「いっ、いや待て!違うぞ!今はそんなことはどうでもいいんだ!」

あまりの出来事に、まるで天津甘栗のようにカラカラになってしまった脳みそを必死で復活させて、現在の状況を判断しなければならない。

ススで真っ黒になってはいるが、チンクのガソリンラインはマフラーの反対側にあるため、また、エンジンは鉄のカバーで覆われているため、炎の割に延焼はさほどでもなかったようだ。

「くっそー。なんてこった。吹き上げたオイルでガムテープの粘着力が薄れ、タオルが落ちてしまったのか。」

しかしこのままではいられない。

なんとか○○ガレージまで辿り着かねばならないのだ。

「タオルは途中で変えようと思っていたからまだあと二枚ある。今度は針金で縛らなきゃダメだな・・・。」

なんとか落ち着きを取り戻し、次の手を考えるのであった。


つづく



予告!

『ンギョギョギョギョン!』

『ンギョギョギョギョン!』

「あぁ、太陽がまぶしいなぁ・・・。」


いよいよ大詰め!

ついに屈辱のJAF登場となるのか!


次回、遂に迎えた『チンクエチェント物語』最終回!

第5話=Stair way to heaven編


さあ、これであなたも正しいチンク乗りになれるのだ!(大嘘)



by MEX