追いかけたといっても、漢字で表すと『尾行』になるが、カタカナで表記するならば『ストーカー』に違いない。Aは自らを「これじゃ、ストーカーだ」と冗談交じりに言っていた。
あとを追ったものの、まだはっきり彼女だと分かったわけではない。でも多分そうだった。つけるうちにそう思えてきた。結局、電車の中までつけることになった。彼女が同僚と一緒に帰っていて、話しかけられなかったのである。いや、やろうと思えば出来たはずだが、今一歩が踏み出せなかった。電車の中でもなおAはストーカーだと言ってやまなかった。わかっとるっつーの。
電車に乗り込み、つぎの駅でその同僚たちは降りていった。あとはもう話しかける機会を窺うのみである。僕は、乗り換えるときに電車から降りたところを話しかけようと思っていた。しかし、彼女は乗り換えの駅の二つ前で降りた。僕は驚きつつも急いで降り、決心を固めて改札を出たところで思い切って話しかけた。
「すみません。・・・Hさんですよね。どーも。久しぶりです。覚えてます?」
周りの雑踏に声がかき消され、聞こえなかったかなと思ったが聞こえていたようだ。
「あっ、久しぶり~。覚えてるよ。でも何でここに?」
振り向いた顔はマジで驚いていた。
「今日は友達と近くに来てて・・・、その帰りなんだ。で、池袋にこれから行く」
だが池袋に行くならばこの駅で降りるはずが無いことに、僕はまだ気づいていなかった。
「この前、番号とかアドレス聞くの忘れちゃって、つぎまた試験官やるでしょ?近くなったら連絡しようと思って」
「私も聞こうと思ってた」
この「私も聞こうと思ってた」発言は社交辞令にしろ嬉しかった。
15分くらい話したろうか。彼女はこのあと掛け持ちのバイトがあると言っていたので、積もる話を切り上げ「それじゃまた」といって別れた。だからこの駅で降りたのか。
帰りの電車の中、Aは「これから池袋に行くって言うのはまずかったな。嘘ばればれじゃん」と言ってそれで僕は初めてミスに気づいた。「あとお前緊張してんのすぐ分かったぞ。もうちょっとリラックスすると良かったと思うよ」他にも色々と指摘され、打ち砕かれた。
帰りの電車の中僕はなんとも言いがたい気分だった。会えて、連絡先聞けて嬉しかったけど、ヘタな嘘ついてバレたのではないかという不安というか、己のミスに打ちひしがれていた。つまり喜びたいけど素直に喜べない。顔は笑ってるけど内心は焦っている感じ。でも6:4で嬉しさがやや勝っていた。
「頑張れよ~、今日中にメール送っとけ」とAは別れ際そう言った。「わかった。ま、今日はありがとな。メシは今度な」
家に帰り、送るメールの内容を考えた。なんて書きゃいいんだと戸惑いつつも、何とかそれらしいものが出来上がった頃にはもう夜は11時になっていた。さっそくメールを送り返事を待った。どれぐらい待ったかよく覚えていないが、そんなに遅くは無かった気がする。とにかく返事が来た。何通かメールを交わした結果、展開は明日池袋で会うことになっていた。急すぎて僕がびっくりした。