もうすぐ夏も終わる頃だった。しかしまだ外に立つだけでも十分暑く、汗をかく。その日何の用事か忘れたが大学の友達のA君と学校へ行った。夏休みはまだまだあったが、特にすることもなく、暇だったから何となく行ったのだろうか。覚えているのは、涼しい学生ホールでダラダラしゃべった事だけ。

 学校帰り、僕はAに「今日、このあとちょっと俺に付きあってくれ。あとでメシおごるからさ」と言った。「なんかあんの?」と言うごく自然なAの問いかけには、その場ではあえてあやふやにしておいた。そうする必要は無かったが、言いにくい心境だった。なぜなら、その日僕は彼女のバイト先へ行ってみようと思っていたからだ。


 彼女は都内にある某有名ホテルで働いていた。最近働き始めたばかりだと試験官のバイトのときに聞いていた。

 そこまでは学校から比較的近く、電車で15分ほどのところだった。途中一回乗り換える。電車の中でAはずっと何があるのか質問してきた。僕はそれにヒントを小出しにし、いつの間にナゾ掛けみたいになっていた。ちなみに、このA君は前々回の試験官のバイトを一緒にして外部から内部になり、「もう試験官はたくさんだ」と言うセリフを吐いた男である。

 目的地の駅に着くと僕の緊張は表面化した。「ち、ちょっと、冷たいものでも飲んでいこう」ドモった。「いいけど」と答えるAの顔はとても不思議がっていた。

 駅前の喫茶店に入り、僕はすべて話した。ようやく展開を把握したAは「お前、早くそう言えよ」と焦らした事に不満そうだった。

 このあとどうするかを小一時間ほど話し込んだ。僕の作戦(?)は「友達と近くに遊びに来たついでに寄ってみたんだ」という偶然を装って番号なりアドレスを聞こうと思っていた。いなかった場合のために手紙も書いた。ホテルのスタッフに頼んで渡してもらおうと思ったのだ。この作戦にAも概ね賛成した。

 さっそく店を出ると、外の日差しは強く暑かった。寒いくらいに涼しい店内との急激な温度差が妙に気持ちよかったが、それもつかの間、5分もしないうちに暑さでへばりそうになった。そのまま一路、彼女の働くホテルへ向かった。バイトが終わる時間まで多分あと1時間以上はある。何時に終わるかははっきり分からなかったが、夕方5時ごろに終わると聞いた覚えがある。僕とAはホテルの駐車場で待っていた。そこでAの昔の彼女の話を聞き、なんともいいがたい気分になったのを覚えている。

 ふと、一体彼女がどこから出てくるのか分からないことに気づいた。ホテルをぐるりと回ってみると、従業員で入り口なるものを発見したので、その前で待つことにした。しかし、五時半になっても彼女は出てこなかったが、今日働いていることは分かっていた。さっきホテルの周りを回っているとき、フロントで彼女の姿を見つけたのだ。遠目で見たので確信は持てなかったが、多分そうだ。

 六時に近くなり、Aは「今日はもう諦めるか。見間違いってこともある。暑い」と諦め顔。正直、僕もさっき見た人に確信が持てなかったのでもう半ば諦めていた。

「手紙どうしようか、何か頼み辛いな」

「まあな、でもせっかく書いたんだし」

 手紙についてあーだこーだ言っていた時、さっきいた駐車場の方から女の子数人が出てくるのが見え、駅のほうへと歩いて行った。従業員出入り口前にいた僕はとっさにあれかも知れないと思った。Aも「ここでだいぶ待ってるけど出てこないんだから、駐車場から出てきたあの人たちがそうかもな」と推測。

 そうこうしているうちに女の子たちは見えなくなっていた。僕らは走って追いかけた。