つづきです
「ふふ、そうね」
確かにソース風味の焼きそばパンじゃあ、甘いムードとはほど遠い。好きな人との初めてのキスの味がチョコチップメロンパンでよかったかも なんて、変に納得してしまった。
「あ…まだ言ってなかった」
「何を?」
「ずっと、好きだった」
「メロンパン?」
「お前…分かって言ってるな?!」
分かってるよ。
うん。嬉しい。
本当は。
本音を言えば、色々と聞きたいことはあるけれど。
今は…ね?
潤んだ瞳で智を見上げると、彼は困ったように眉尻を下げた。
「…焼きそばパン買って帰るか」
「え、アナタ本気で言ってる?」
「だって…こんな埃っぽいところでこれ以上は」
「オレは構わないけど////」
「おれはさ。かずを…
お前を大事にするって決めてんだよ。
ふかふかのベッドの上で抱くから、それまで待ってろ」
「//////……ん。わかった。
まだ残ってるかな、焼きそばパン」
まさか、真っ直ぐに目を見て”抱く”宣言されるとは夢にも思わなくて。熱くなってきた頬を隠すように下を向くと、追いかけるように智の唇がその頬に触れた。
あぁ、もう。
バレないようにと思ったのに…
見透かしたように微笑んでいるから
智の腹に軽く 猫パンチを食らわしてやった。
智とふたり、夕暮れの校舎を並んで歩く。
本当は手を繋ぎたかったけれど、お互い知り合いの多すぎるこの場所ではさすがに控えた。
でも、制服姿のせいか
それとも気持ちが通じ合ったからか…
彼と肩を並べることに、なんの違和感もなくて。
ずっとこうしたかったんだなぁ って
胸の奥にじわりと温かい感情が広がっていくのを感じていた。
結局、焼きそばパンは売り切れで。
代わりに購入したのは、スパイスたっぷりのカレーパン。
刺激的な香りのするキスを想像して…
やっぱりオレの頬は赤く染まるのだった。
帰り道、智といろんな話をした。
オレがまだランドセルを背負っている頃から、好きだったこと。当時は智自身も思春期の真っ只中で、性的な感情を抑えきれなくなりそうで怖かった と語った。
それでも、オレを傷つけるようなことだけはするまいと、距離を置いたのだという。
オレに向けることのできなかった欲情を…
他の相手に向けたとも。
髪を切ることをやめなかったのは、唯一、オレに触れても良い理由だったから。
それだけは手放すことができなかったと。
プロになれば…
美容師になれば、この先もかずの近くで見守ることができると思ったんだよ と
少し照れくさそうにして、智は自分の頭をクシャクシャと掻いた。
…オレが思うよりずっと、大切にされていた。
それなのにオレは自分のことばっかりで、当てつけのように智を真似て…
やっぱりオレは子どもだ。
短絡的で、未熟で。
「ごめん、ね」
「なにが?」
「アナタの気持ちも知らないで…」
「いや、おれ自身…今になるまで年齢差を言い訳にして、気持ちを伝えようとしてこなかった。
…怖かったんだよ。かずに拒絶されるのが。
でも、その結果…かずに避けられてさ」
結局は、おれも…子どもだったんだ と、智は唇を噛み締めていた。
つづく
miu